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しおりを挟む「君はなんて魅力的なんだ...大衆に君の浴衣姿を晒すのが惜しいよ...」
そう甘く囁きながら慣れた手つきで浴衣を着せてくれた黒田は、改めて浴衣姿の俺を一目見ると膝から崩れ落ちる。
「...尊い...」
「あんたも早く準備しろよ」
きなことあずきの餌入れにキャットフードを入れ、開けていた窓をそっと閉める。
生ぬるい空気が部屋の中に入り込み、窓を閉めても聞こえてくる虫の声に夏らしさを感じた。
夕暮れの空に走るひこうき雲の白。
今日はこの空に大輪の花火が打ち上がるのだと思うと、年甲斐もなくワクワクしてしまう。
「黒田先生、早く行...」
「ん...、もう少しだけ待って」
窓の外を眺めていた俺は、振り向いた途端に綺麗で男らしい黒田の姿に息を飲んだ。
「準備するだけでも汗かいちゃうな...」
彼の端正な顔を隠す前髪から透けて見える長い睫毛が、微かに震える。
袖から覗く男らしい腕
広い背中を覆う上品な黒の布地
微かに浮かび上がる胸板の線
あまりの妖艶さに目眩がする。
一筋の汗が垂れる首をうざったそうに拭う仕草さえ、官能的に見えた。
「お待たせ。家から近いから歩いていこうか」
「ああ...」
ど、ドキドキし過ぎて意味がわからない...!
こいつ、こんなにカッコよかったっけ...!?
こんなに色気ムンムンだったっけ...!?
「あ、浴衣着てる子いっぱいいる...」
さりげなく車道側歩いてくれてるし、さっき付けてた香水のせいか、めっちゃいい匂いする...!!
やばい...一緒に買い物行ったりする時より、デートらしくて...緊張してしまう...。
何か話題は...
「ひあっ...ぁ、!」
ヴヴヴ、と乳首を噛んでいたニップルクリップが突然振動し、身体をビクリと反応させる。
「ごめん。スイッチ入っちゃった」
笑顔で懐に手を突っ込んだ彼のお陰で振動は止まったが... 。
「っ、んでスイッチなんか持ってきてんだよ...!寄越せ、俺が預かる」
「えー、やだ」
一瞬だけ震えたニップルクリップは、今や動く素振りすら見せない。
しかし彼がスイッチを持っている以上、いつ振動するのかが分からない。
つーか、マジで余計なもの持ってきてんじゃねぇ...!
ニップルクリップはどのようなギミックになっているのか、自分で外すことは出来ず、彼の「乳首を開発したい」と言う変態的嗜好のもと管理されている状態にあるのだ。
先程まで花火を楽しみにしていたワクワク感を返して欲しい。
言ってしまえば、ニップルクリップが胸に装着されている時点で嫌な予感はしていたけれど振動するとなると、余計に家へ帰りたくなる。
「黒田先生、やっぱり今日は帰ろう」
「はは、鏡夜は冗談のセンスが無いね。まだ家を出たばっかりだよ」
冗談ではない。
「せんせ、きなことあずきに餌やるの忘れた」
「あれ、さっきあげてなかったっけ」
「あげてない。きなことあずき、お腹すいちゃう...帰ろ?」
くいくい、と浴衣の袖を引っ張る俺に、ニコリと笑顔を浮かべた黒田は、俺の頭を優しく撫でる。
「大丈夫だよ。なんと、黒田家に先月から自動餌やり器が導入されました」
「......」
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