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しおりを挟む「足下気をつけて」
俺の手を取る黒田が、そっと腰に腕を回してくる。
「...んだよ...仕事終わりに海なんて...」
夕食後、シャワーを浴びようと浴室へ向かう俺を拉致した彼は、早々に車を走らせ潮風が舞う夜の海に赴いた。
「たまにはね。んー...この辺でいっか」
砂浜の上に座り込んだ彼につられ、柔らかい砂の上に隣に腰を下ろす。
穏やかな夜の空気に混じった潮風が、優しく頬を撫でる。
防波堤の灯台が遠くで淡い光を放ち、静かな波の音が辺りを包んだ。
綺麗。
「...海、久しぶりに来た...」
「ふふ...社会人になると、あんまり来る機会ないもんね」
隣に座る黒田が、遠くの海を眺めながら目を細める。
「泳ぎたいな...」
「そう言えば...黒田先生は、学生時代水泳部だったんだっけ」
「そうだよ。ちゃんと聞いてたんだ」
確かに飲み会の時は黒田のことを避けていたけど...他の誰よりも真剣に話を聞いていたなんて、言えるはずがない。
「...たまたま聞こえた。水泳部ってブーメラン型の水着穿くんだろ?見たい」
「俺は膝上タイプのものだったから、そっちは穿いたことないよ...。ここまで来てオレに布面積少ない下着とか競泳水着を着せようとするのはやめてくれる?」
「あはは」
隣で軽快な笑いを零す俺を、彼は驚いた表情で見つめた。
「そっか...穿き慣れてるもんだと思ってたよ。それにしても泳げるって凄いよな...俺カナヅチだから、すぐに沈んじゃう」
キラキラと揺らめく水面をぼんやり眺めながら片手で砂を弄ぶ。
何だか酷く心地がいい。
「水の中って静かで、綺麗で、大好きなのに...泳げないのは少し悲しい」
海は人を感傷的にさせると言うが、久しぶりに来たこともあってか陽気な気分になる。
会話が尽きるまで、ずっとこうして居ることが出来たら...そんなことをしみじみと思いながら、大きく息を吸った。
「鏡夜」
甘い声で名前を呼んだ彼の身体が、そっと俺の身体に触れる。
「...?」
いつもの黒田の香りに、ほんの少しだけ混じった汗の匂いは俺の鼓動をまんまと加速させた。
頬に綺麗な指を滑らせたかと思えば、そのまま髪を梳くように差し込まれる。
大きな手が頭を撫でる気持ち良さにうっとりしていると、彼がゆっくりと口を開いた。
「キス、していい?」
「.........そ、なの...いつも勝手にしてくるだろ...」
彼の端正な顔がゆっくりと近付き、触れるだけのキスを落とされる。
肌にじんわりと汗が滲み、顔が赤くなることがわかった。
「......」
そ、外でキスしちゃった...!
ぐぐ、と手の甲で唇を抑え、あまりの気まずさに膝へ顔を埋める。
キスって、舌とか入れない方のキスか...。
唇、いつもこんなに柔らかかったっけ...、つーかなんで突然...?こいつの考えていることって全然分かんねぇ...。
大体なんで海に連れてこられたのかも...
わかんないのに。
「今年の7月7日は、天の川が綺麗に見えるんだって」
「え、?......っ!」
彼に言われた通り空を見上げれば、そこには一面の銀世界が広がっていた。
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