92 / 312
92
しおりを挟む「沢山買ったね、重たかったでしょ」
抱え持っていた本の袋を軽々と受け取り車の後ろへ積んだ彼は、俺の顔を見るなり爽やかに笑った。
「...どこで時間潰したんだ?」
「お茶して、ゲーセン寄って、後は車で煙草吸ってたよ」
「ふぅん...」
こいつ、ほんとゲーセン好きだな。
車に乗り込みシートベルトを着ければ、黒田が後部座席に手を伸ばす。
「ね、見てこれ」
「...!」
ぽん、と膝上に置かれたのは、ふわふわもちもちな猫のぬいぐるみシリーズ。
「黒猫もいたから取ってきちゃった」
「...」
黒田家に忘れて以来の感触。
あまりの愛しさに、ぎゅう、と抱き締め顔を埋めた。
前取ってもらったぬいぐるみとは、表情が違う。
しかも黒猫の方がよりふくよかで、ふてぶてしい。
この手触り、抱き締めた時のフィット感がとてつもなく尊い。
「...嬉しい......大事にする...」
「君は本当に可愛いな」
俺の頬に口付けを落とす男に、胸が高鳴る。
「さて...お家帰って、一緒に夕食の準備しよっか」
「ん...」
沢山の荷物が積まれた車は、寄り道もせず、真っ直ぐ黒田家へ走る。
家に着くなり2、3回に分けて大量の荷物を下ろした。
買っていただいた服やスーツを空き部屋のクローゼットにしまい、書籍もデスクの上に置いておく。
今度本棚でも置かせてもらおうかな...どうせ本は増えるだろうし...。
「...」
口では否定しておきながら、長居する気満々である。
「一応それ、ソファーベッドなんだけど、こっちで寝ないでオレと一緒に寝ようね」
「...考えとく。どうせ次の家見つけるまでの繋ぎだし...」
「そんな悲しいこと言わないの。今日からここが君の家、ね?」
うっ、顔がいい...!!
...ここで意気揚々と「うん!」って言うのもどうかと思うし...。
つーか、これから寝食共にするって、もう本当の恋人...みたいじゃないか...?
いやいやいやいや、流石に早い。
まだ心の準備が出来ていないのに、恋人って。
30年間恋人居たことないし...特定の人に固着すること無かったし、改めて恋人だって認識するのは
「...大丈夫?疲れちゃったかな」
は...恥ずかしい...。
彼の腕が腰に回り、ぐっ、と身体を引き寄せられる。
「わっ...」
初日からこんなにドキドキしてたら...心臓がもたないのに、この男ときたら毎度毎度距離が近いんだ...!
「大丈夫だから、あ...んまり...触んな...」
彼の身体を肘で押し返すも、体格差や筋肉量の違いだろう。
ビクともしない。
「好きあってるのに触っちゃダメなの?」
「!っ...俺は、まだ好きって言ってないし...」
頬を膨らませた俺を見て、可笑しそうに笑う彼の姿が、また鼓動を加速させる。
笑った顔...結構かわいいんだよな...。
「まだ?いつ言ってくれるのか楽しみ」
あ。
完全に墓穴掘った。
21
お気に入りに追加
853
あなたにおすすめの小説



身体検査
RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、
選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

皇帝陛下の精子検査
雲丹はち
BL
弱冠25歳にして帝国全土の統一を果たした若き皇帝マクシミリアン。
しかし彼は政務に追われ、いまだ妃すら迎えられていなかった。
このままでは世継ぎが産まれるかどうかも分からない。
焦れた官僚たちに迫られ、マクシミリアンは世にも屈辱的な『検査』を受けさせられることに――!?



ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる