秘めやかな色欲

おもち

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「あの時の会話、聞いてたんでしょ?どうしてそこだけで全部判断するの」

「な、んのことだ...」

「そんな性格でも可愛すぎて参ってるって話だよ。思った以上に簡単に堕とせて少し興醒めしたのは確かだけど、日に日に好きって気持ちは大きくなってるから、昔付き合った女の子みたいな扱いは絶対にしないって、光悦に言ったんだけど」


サーッと血の気が引く顔を両手で覆う。

「...それ、ほんと?」


「嘘だったら毎日鏡夜の家行かないよ...。脛蹴られるし、全然話聞いてくれないし、君からストーカー扱いもされちゃうし。おまけに、火事の日に鏡夜を探し回ってほぼ眠れなかったから散々な1週間だったけど」

ポカン、とした表情を浮かべる俺に、優しく笑いかける。

「君が無事でよかった...」

「...」

再び目頭がじわりと熱くなり、大粒の涙がぽろぽろと溢れた。

「ぅ、ふぇえん...、っごめん...っ、ごめんねぇ...」

あんな態度を取ったにも関わらず、俺のことを心配してくれていたなんて...。


「いいよ...オレも誤解を招くような言い方をしたし、鏡夜のことも傷付けたから...ごめん。ちゃんと仲直りしよ?」

真っ白なシーツの海を、光が照らす。

その白に反射して、辺りが輝くと、彼は目を細めて笑った。

「ね?」

「ぐすっ、ぅん...仲直り、...」

広げられた彼の腕の中に飛び込み、ぎゅう、と抱き着く。
黒田の匂い、温かな体温にうっとりと頬を染めた。

「よかった...こうして抱き締めることも、もう出来ないのかと思った...。安心したらお腹すいちゃったな、鏡夜は?」

額に口付けながら、優しく背中を擦ってくれる彼の服をキュッと掴む。

「パンケーキ...」

「パンケーキがいいの?」

「ん...」

「ふふ、分かったよ」

俺から身体を離そうとする黒田の身体を再び強く抱き締めれば、彼は甘く掠れた声を漏らす。

「...どうした?」

「ぁ、の...、俺...先生と...また一緒にいてもいいの、...?」

不思議なものを目の当たりにしているかのような表情。

彼の表情から、何か変なことを言ってしまったのかもしれないと不安になる。

「...」

つーか、本当に夢じゃない、よな?

「おっ...俺に直して欲しいところとか...もっとこうして欲しいってところがあったら、それに近付けるように頑張るって言うか...、俺も、あんたと一緒にいるの好......嫌いじゃないから...どうせならあんた好みに」

「鏡夜」

ぺち、と両手で頬を包み込まれる。
彼の綺麗な目に見つめられるだけで、嫌にドキドキしてしまい、呼吸をするのも忘れそうだった。

「直して欲しいところなんて1つもないよ」

「でも...俺の性格面倒って...」

「面倒だし厄介な性格してる」

ぐうの音も出なくて、うっ、言葉を詰まらせる。
そんな男の何を可愛いと言っていたのかを問いただす前に、彼がまた口を開いた。

「最初はただ、他の男に抱かれてるってことが単純におもしろくなかったんだ。かっこよくも無い男に抱かれに行ったり、連絡取り合うこともムカついた。それが嫌で無理矢理恋人関係になったのに、君はひたすらに可愛くて困ったよ。お弁当作ってくれたり、猫のぬいぐるみ大事にしてくれたり、結構泣き虫だったり、意外とよく笑ったり...」


黒田の心臓が俺と同じくらい、早い。


「少しずつ本当の君を知っていけるのが嬉しくて、可愛くて堪らない...。もうオレの傍から離れないで」

「っ...」

吸い込まれそうな程の真剣な瞳に、涙を零しながら眉尻を下げる。

「好きだよ、鏡夜...」




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