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しおりを挟む眩しい。
カーテンの隙間から差し込む光に寝返りをうつ。
俺の身体に巻き付く男らしい腕と、頭を撫でる手の心地よさに、ゆっくり目を開けた。
「...おはよ」
「......」
あれ。
恋人契約期間は終了したはずなのに、何で黒田と一緒に寝てるんだっけ。
ギュッ、とキツく抱き締めてくる黒田に疑問符を浮かべたが、これも夢だと気付き再び目を閉じる。
黒田が夢に出てくるのは、今日で何度目だろう。
彼の夢を見た後に、目覚めることが辛かった。
これも夢なら一生覚めないで欲しいと切に願いながら、 背中に腕を回す。
温かな体温に黒田の匂い...。
柔らかな肌越しに感じる彼の心音はトクン、トクンと一定の速度で呼吸をする。
離れたくない。
リアルな夢に囚われたままでいいから
ずっと一緒に居たい...。
すり、と胸板に顔を埋めた瞬間、彼の声が鼓膜を震わせた。
「鏡夜、起きて」
朝は弱い、頭が痛い。
眉間にシワを刻んだまま彼の声に耳を傾け、愁いの帯びた彼の顔が視界に入った瞬間、眠っていた脳が徐々に覚醒していった。
「...は...?」
淡く儚く、美しい...今にも泣き出してしまうんじゃないかと錯覚する程の悲しそうな表情に、思わず目を見張る。
違う。
これは夢なんかじゃない。
こんな顔をするこいつを、俺は知らない。
「ごめ...っ俺、帰る...」
身体を離そうとした途端に、腕を強く掴まれた。
「君があの日家を出ていってから、オレの毎日は退屈で、彩りのない日常と化した」
光に包まれた彼は普段より線が細く見えて...
「家が火事になったと気付いた時、鏡夜がいなくなることを想像したら怖くて怖くて堪らなかった」
長い睫毛を伏せた時に出来る睫毛の影が、より彼を可憐に見せる。
震えてる。
大きくて強い野獣が、朝の光の中では、ただひたすらにか弱い生き物に見えた。
その姿から、彼がどれだけ不安な夜を過ごしたのか、彼がどれだけ俺のことを心配したのかがハッキリと分かる。
胸が痛い。
「もうオレは...」
形のいい唇がゆっくりと開けば、彼の手が俺の頬に触れた。
「鏡夜のいない世界では、息ができない」
なんだよ、それ。
そんなの、こっちだって同じだった。
この男がいないだけで生活の全てに支障をきたしたのだ。
自然と流れる涙がベッドシーツを濡らす。
「嘘だ」
彼の姿から、嘘をついたり演技をしているようには到底見えない。
それなのに、口をついて出る発言から、彼を簡単に信用してはいけないと脳が赤信号を発していることがわかる。
「嘘じゃない」
「...嘘だ...!あんたも、俺を1人にするんだ...」
「鏡夜、オレの話を聞いて」
俺の両腕を掴んだ彼の手が熱くて、身体の奥が微かに疼く。
「...いやだ。あんたの言う通り、俺はメンタル弱小な割にプライドは馬鹿高くて、自分の思い通りにいかないと不機嫌になるゴミみたいな性格してるよ...、もう参ってんだろ?俺のこと飽きたんだろ?なのに、なんで」
下唇を強く噛み、震える声で口にした。
「なんであんたが、そんな悲しそうな顔してるんだよ...。俺はもう...誰のことも好きになりたくない...」
眉尻を下げながらはあ、と大きなため息を吐く黒田は、俯いた後に再度顔を上げる。
「その部分はしっかり聞いてるのに、なんでその後のことは聞いてないの...?」
......ん?
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