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しおりを挟む「突然押し掛けて悪いな」
「いや、全然。それより家は大丈夫なのかよ」
少し散らかった、男らしい部屋。
微かに香る煙草の匂いが懐かしくて、胸が締め付けられた。
「ん、まあ...大丈夫」
「そっか、なんかあったらすぐに言って」
コクリと頷き、彼が手渡してくれるハンガーにスーツをかける。
シャワーを浴び、用意された服に着替えてリビングに戻ると夕食が用意されていた。
「響、ご飯作れるようになったんだ...。昔は暗黒物質製造機だったのに」
「そりゃあ、一人暮らし歴は長いからな。口に合うかは分からないけど」
見た感じ、変なところは...ない。
暗黒物質を「食え」と出された時より、遥かに上達しているのは目に見えてわかる。
そこまで凝った料理とは言えないが、今の自分には物凄くありがたくて、温かだった。
「「いただきます」」
ぱくっ
「うん、今日は結構上手く出来たかも」
..........甘っ。
なんだ、この甘ったるい味は。
何を入れたらこんな味になる。
箸が進まない俺を見て、目の前に座る響は眉を下げた。
「もしかして...美味しくない?」
うっ、そんな悲しそうな目で俺を見るな。
失神しそうになる程可愛い顔しやがって...!
「いや...美味いよ、上手になったな」
「だろー?沢山食べていいぞ」
満面の笑み。
ああ、俺はお前の顔で白米が食えるよ。
「何で味付けしたの?」
「ココナッツオイルと、醤油、砂糖、料理酒、みりん...あと黒糖」
ココナッツオイルと黒糖は絶対要らなかっただろ
何を食べても、美味い!美味い!と言うところは、昔から変わっていないようだ。
味覚音痴で料理下手。
こいつの食生活が心配だ。
なんとか彼が作ってくれた料理を平らげ、後片付けをしながら、ついでに掃除。
仕事柄多忙な人物であるため、部屋が散らかっているのは仕方の無いことだろうが、流石にもう少しまともな生活を送って欲しいものだ。
「響、パンツ落ちてる」
「え、嘘。恥ずかしい」
学生時代からなんら変わらない響に、少しだけ安心した。
「やっぱり、鏡夜以上にいい人、見つからないよな...」
テキパキと働く俺の姿を見ながら、彼がボソッと呟く。
「何を今更」
鼻で笑いながら、ソファーの上に積まれた洗濯物を畳んでいると、お茶を淹れてくれた響が隣に座った。
「性格も良くて家事も出来て、頭もいいし」
あ、れ...なんか近い...。
触れ合った肩や太腿が熱くて、見られていることが恥ずかしくなった俺は、咄嗟に俯く。
「それに...どんどん綺麗になってく...」
「っ...馬鹿か、30の男に綺麗って...。でも、俺が女だったらお前と結婚してやったのに...なんて」
笑いながら冗談交じりに伝えると、彼の手が洗濯物を畳む俺の手に触れた。
「、え...?」
ドクン、ドクンと高鳴る心臓に赤く染まる頬。
唇が触れてしまいそうな程、近くにある顔に軽く目を見開いた。
「...響、なに...」
「...いや...ごめん、何してんだろ俺。ちょっと頭冷やしてくる」
煙草を手に取り、ベランダへ出た彼の耳が赤く染っていることに気付いては、こちらも恥ずかしくなって下唇をキュッ、と噛んだ。
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