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しおりを挟む「顔に似合わずは余計だ。俺に似合わない物なんかこの世にない」
UFOキャッチャーにベッタリと張り付いて離れない俺を見て、可笑しそうに笑った彼は財布から百円玉を2枚取り出した。
「あ。こう言うの難しいんだぞ。そう簡単には取れないようになってるし、大体これは確率機と言って」
「...はい、どうぞ」
「......」
あっさり取りやがった。
もちもち触感の猫のぬいぐるみは俺の胸の中にすっぽりと収まっている。
かわいいし、抱き心地もいい。
「ぁ...ありがと。大事にする...」
「うん、素直でよろしい」
わ...。
俺に向けられた笑顔を見ると、シンプルに胸がときめく。
男慣れしているとは言え、顔よし身体よしセックスよし性格よしの人間なんて、黒田と東條くらいしか経験がない。
この男は希少種なのだ。
「鏡夜の嬉しそうな顔を見てるだけで
オレまで嬉しくなるよ」
「...」
セックスこそが愛情だと思い込んでいたが、黒田の優しさや俺に向ける表情から、僅かながらに愛情と言うものを感じ取ることができた。
なるほど、デートって楽しいな...。
「黒田先生、俺...」
「あれ...鏡夜?」
「ぴゃっ...!!」
突然背後からガッシリと肩を掴まれれば、腰が抜けそうになる。
恐る恐る後ろを向いてみれば
「響...!?なんでここに...!」
今1番会いたくない奴が後ろで目を輝かせていた。
「友達と映画見に来た帰り。つかマジで久しぶり、ちょっと痩せただろ」
「まあ...少し」
「俺とは会えないとか言ってたクセに、他の男と会ってんじゃねぇか。今度俺にも付き合えよな」
肩を組まれグッ、と距離を詰められれば、全身から火が出そうになった。
...避けていた響が、こんなにも近くにいる。
電話越しじゃない大好きな声も、胸を締め付けるような煙草の香りが混じる匂いも、いつ見ても見惚れてしまうような顔も、俺にだけ見せる笑顔も。
全部、全部遠ざけていたのに。
こんなに近くにいたら、全ての感情が掘り起こされてしまう。
「鏡夜?」
その声で名前を呼ばれると堪らなくなるが
、少し離れた所から響のことを見つめている女性を見付けては、胸がドクンと脈打った。
...何あれ、彼女?
身体が細くて顔が小さい割に、胸が大きい、可愛らしい女性。
響は、ああ言う子がタイプなんだっけ。
俺だけを見ていて欲しい、女じゃなくて俺を選んで欲しい。
好きな人のためだったら何だってする、傍にいれるのならペットにでも奴隷にでもなってやる。
その気持ちはずっと持ち合わせてるのに
自分は馬鹿だ。
告白する勇気だけはなかったなんて。
拒絶されるのが怖かった
否定されるのが怖かった
親友と言う関係が崩れて、彼の近くにいれなくなることが何よりも怖かったから
俺は...
「鏡夜、こちらは」
ニコリと微笑む黒田の声にはっ、として慌てて口を開く。
「あっ、えっと...学生時代の同級生だ。ほら、若王子先生の兄貴」
「...どうも初めまして。鏡夜と同じ高校で養護教諭をしております、黒田です」
「...響です。弟と、鏡夜がいつもお世話になってるみたいで...。それにしても先生同士なのに、「鏡夜」なんて...やけに親密なんですね?」
あ、れ。
なんか、2人とも顔が怖い...?
「っ!」
黒田から隠すように俺の前に身体を割り込ませた響が、手首をギュッと掴む。
「若王子先生のお兄さん、一体何のつもりでしょうか」
「あんたが、鏡夜に男と会うなって言ってんの...?」
ドクン
「俺と鏡夜が話すだけで不愉快極まりないオーラ出して...黒田さん、あんた鏡夜の何?」
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