秘めやかな色欲

おもち

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めちゃくちゃ不機嫌じゃねぇか。

「...若王子先生、昔は可愛かったのにな...」

「それを言うなら貴方だってそうでしょう。僕が教師を目指したのは貴方に憧れていたからなのに」

......あれ、そうだっけ?
そう言えば昔は鏡夜さん、鏡夜さんと言って俺の後を着いてまわってたっけ...うわ、懐かしいな...。

「今となってはただの小言おじさんですからね」

「おい、誰がおじさんだ」

手帳をデスクにしまった若王子が、スマホと煙草を白衣に突っ込むと徐に席を立ち上がる。

また煙草休憩か。

「あ、そうだ。碓氷先生」

「なんです?」

「兄が、そろそろ未読無視やめて連絡寄越せってさ」

「......」

そう言い残した男は、白衣を翻しながら職員室を後にした。

手元の答案用紙を無意識にくしゃりと握り潰し、またしてもため息を吐く。

あー...本当、全てを投げ出して消えてしまいたい...。

4限目終了の予鈴と共にコンビニで買ったお弁当を持ち、自分の車へ足を運んだ。

そう言えば俺の恋人(仮)、黒田は何処でご飯を食べているのだろう。
昼時に職員室にいるのを見たことがないから、保健室...?

きっと、今頃女子生徒に囲まれながらご飯を食べているに違いない。

俺と言う可愛い恋人(仮)を差し置いて...。

「いただきます」

俺とあいつが真逆なタイプだと言うことは、自分が1番よく分かっている。
性格だって、他の人からの見られ方だって、雰囲気だって...

あー...なんか、寂しいし虚しい。
やっぱり黒田以外と関係を持たないなんて俺には無理だろうな...。

誰でもいいから抱いて欲しい、そんな気持ちがふつふつと湧き上がってくる。

スマホを取り出し、例のマッチングアプリ開いた途端

コンコン

窓ガラスを叩く音に反応して外に目を向けた。

「碓氷先生、一緒に食べよ」

「......なんでここに...」

爽やかに笑いながら車内に乗り込んだのは紛れもない黒田だった。

「会いたかったから」

「何それ、2日間ずっと一緒にいただろ。それより...女子生徒、放ったらかしにしておいていいのか」

「はは、そんなのどうでもいいよ。それより...鏡夜が寂しがってないか心配だったんだ」

心を見透かされているような、暴かれているような感覚。
本当は黒田以外の誰かに縋りつこうとする程に寂しくて、俺のことを考えて来てくれたことが嬉しかったなんて

「それは余計な心配だったな」

恥ずかしくて言えるはずがない。

「君は本当、分かりやすい...」

添加物だらけのおかずを口に含んだ俺の頬を優しく撫でる。

「かわいい」

「っ、かわいくない...」

「はは、かわいいよ。いつも1人で食べてるの?」

「...ああ、職員室だと石井先生が煩いから」

隣でコンビニ弁当を食べる黒田は、可笑しそうに目を細めた。
彼女は賑やかだもんね、と笑う彼にコクリと頷く。

「たまに一緒に食べてもいいかな。オレと鏡夜の席って案外遠いから、学校で喋る機会はほぼないし...挨拶だけで1日終わるなんて、それこそ寂しい」

「...好きにすればいい」

「あ、嬉しそうな顔してる」

「してない!!」
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