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しおりを挟む「凄く美味しかったよ、ありがとう」
「ん...」
「朝ご飯も作ってくれるし、ブラッシングもしてくれるし、掃除機もかけてくれるし...」
ソファーに座りながら、食後の煙草を吸う彼はニコリと笑顔を浮かべる。
「鏡夜 は本当、いいお嫁さんになるね」
「っ...」
彼が淹れてくれた紅茶を思わず吹き出しそうになった。
「黒田先生...あんた誰にでもそういうこと言ってんのか?」
「?今は鏡夜にしか言わないよ」
「...」
今は、ってなんだ...!?
そもそも答えになっていないだろうが。
大体何故俺は朝食を食べ終えてまでのんびりしているんだ。
早く帰れよ...!!
「それよりさ」
クッキーを口に頬張りながらつまらないテレビ番組を見ていると、彼の指が頬を撫でた。
「んだよ...」
「もう椿って、呼んでくれないの?」
身体をぐっ、と近付け俺の腰を抱き寄せる彼が甘美に囁く。
「...!」
今朝のことを思い出せばどんどん顔が熱くなり、「名前なんて呼んでいない」と否定する言葉さえ、口から出ることは無かった。
「...真っ赤でかわいい」
変だ。
「その声で黒田先生って呼ばれるのも好きなんだけど、名前で呼ばれるの実は結構キた...」
変だ。
「ねぇ、鏡夜」
変だ、変だ変だ。
「なんで君はそんなに、かわいいんだろうね」
「っ...」
この男にかわいいって言われると、嬉しくなるなんて絶対におかしい。
30の男が可愛かったら、普段から可愛らしい服装や髪型をした女性はどうなんだ。
きっと、自分相手に顔を赤くする男の姿が珍しいのだろう。
でなきゃ...ノンケの男が俺にかわいいなんて言うはずがない。
自己嫌悪。
「いい女が居ないからって、俺の反応見て遊ぶの止めてくれよ...」
「はは、何言ってんの...」
「だっておかしいだろ...あんたの周りにいる女は、俺からすれば可愛くて綺麗で、胸だってあって...子供を産める身体なのに...。それなのにあんたは、ゲイの俺を期待させるような言葉ばっかり並べて...」
思い出してしまう。
失恋を味わった日のことを。
鮮明に流れ込んでくる記憶に頭を抱えては、無意識のうちに口から出た言葉に、自分自身が傷付いた。
「俺が...俺が女だったら...よかったのに...」
もう12年も前のことだ。
何を今更、そんな昔のことを思い出して感傷的になっているのか。
そう言う記憶を塗り替えたかったから、色んな人間と身体を重ねた。
男でも愛されることを自分で証明するために、男を悦ばせる術を磨いた。
沢山の人間に求められることが愛されることだと思っていたから、1人として恋人は作らなかった。
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長年に渡ってぶち当たった性別の壁を、目の前の男は関係ないと一蹴したのだった。
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