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しおりを挟む「何故こんな問題が分からない。来年受験生だと言う自覚はあるのか?」
静まり返った教室に、冷ややかな声が響いた。
生徒の「怖い先生」を見る目。
授業中に私語をすることも、居眠りすることも、スマホを弄ることも...
そんな愚かな行為をする生徒は1人としていない。
「すみません...」
「今までの方式を応用すれば解ける問題なんだがな...。全く君のお陰で時間配分が狂ってしまった。仕方がないので今日の授業はここまでとする」
課題を出し、来週は小テストがあることを伝えれば生徒たちはやるせないような目でこちらを見つめた。
「明日の授業中、課題の採点を行う。忘れてきた者に単位はないと思え」
予鈴と共に教室を出て一息吐くと、見覚えのある頭が見えた。
「おい、神崎」
「げ...」
最近の若者は何故こうもだらしないのか。
廊下でばったり出会した神崎と言う生徒は、あからさまに嫌そうな顔をこちらに向けた。
ムラなく綺麗に染められたブロンドヘア、大量に開けられたピアスに着崩した制服。
3-Aの神崎七王は、俺に臆しない生徒の1人であった。
入学当初からこの身嗜みのせいで目を付けられていた神崎は、蓋を開けてみれば頭脳明晰、スポーツ万能。
素行もよく、誰にでも優しかったため生徒だけではなく教師からも人気があった。
他の教師に神崎について相談するも、「まあ、神崎はあんな身嗜みでも悪いことをする子じゃないし、いいんじゃね?」みたいな甘えた意見が一部からチラホラと出てきている。
馬鹿なのか?神崎の服装だけを許すわけにもいかんだろうが。
しかも、担任である学年主任はボケッとしていて生徒にも甘い。
学年主任がこいつの身嗜みを指摘したところで舐められて終わり。
直るはずが無いのだ。
「何だよ、また頭髪のことか?」
「当たり前だ。もう受験生だろ、そろそろ黒に染めてピアスも外せ、あとワイシャツのボタンも開けすぎ」
ここは生活指導として、俺がビシッと言わなければ...。
「めんどくせ...流石に受験当日、この身なりで行かねーんだからいいだろ」
「...あのな、貴様みたいに受験当日は~とか言う奴に限ってボロが出るんだ。大事な日に何かあったら...」
「へぇ...」
壁に寄りかかった神崎が目を細めて笑い、思わず息を飲んだ。
普段ポーカーフェイスのこの男が笑う時なんて、大体よからぬ事を言い出す前だということを俺は気付いていたからである。
「俺のこと心配してくれてんだ...あんたって意外と可愛いとこあるよね、碓氷鏡夜せんせ」
「は、...貴様、教師に向かって可愛いなどと...」
ぐっ、と拳を握りこんで反発しようとした瞬間
「神崎~、今日の帰りうちらとカラオケ行こ~」
わらわらと集まってきた3-Aの女子生徒は、俺が見えていないのか、あっという間に男を取り囲む。
香水の匂いをさせ、男に胸を寄せる姿には胸焼けがした。
「じゃ碓氷先生、またね」
「あ、碓氷いたんだ~。ねえねえ、それより神崎、新しく出来たカフェ知ってる?」
「あ、おいこら!まだ話は...!」
両手に花状態のまま、すたこらとその場を立ち去った神崎にフツフツと湧き出す怒りを堪える。
神崎七王
貴様のせいで3年生の身嗜みと生活態度は崩壊している...。
見ろ、あの女子生徒達のスカート丈を。
濃い化粧や装飾品をジャラジャラ着けるなんて言語道断。
学校の秩序を乱すなんぞ、絶対に有るまじき行為なのに...貴様がずっとそんな調子だから、いつまでたっても3年生は、と後ろ指を指されるんだからな...!
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