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おまけ
しおりを挟む「で、気付いたらこうなっていたんですね」
「ええ...、でも今は心を入れ替えているんです。今まで愛なんていらないと思っていましたが...貴方なら...」
おかわりしたパフェを食べ終え、紙ナプキンで口を拭く。
神崎は胸糞悪い話を聞いてばかりで、かなり不機嫌なご様子。
時間もない。
さっさと話を片付け無ければ、愛しの姫神と鉢合わせしてしまう。
「それは良かった。この後のご予定は?」
「ああ、実は...1番初めの旦那から再婚して欲しいと頼まれまして...」
いやいや、それはお前が言ったんだろ。と思わず飛び出てしまいそうな言葉を2人は懸命に堪えた。
「再婚する気は更々無いのですが...向こうのストーカー行為に拍車がかかってきているんです...」
「亮介、この人もうキチガ...っ!痛いよ...」
「ストーカー行為!?それは大変だ。養育費を毎月貰っていたのなら尚更、再婚を断れば何をしてくるか分かりません。ここにお金があります。実際の養育費が幾らかは存じあげませんが、この際お金を渡して身を引いてもらいましょう。今後家族の身は僕が守りますから」
女性のテーブルにアタッシュケースを置き、撤退すべく荷物を纏める。
が
「まずい...」
姫神が入店してしまった...!
「どうされたんです?...ああ、こっちよ」
軽く手を上げた女性の元へゆっくりと歩み寄る姫神に気付かれないよう、予め用意していた帽子とサングラスを各々着用した。
変装のつもりだ。
「ごめんね、おまたせ。今スマホが手元に無くて遅くなってしまった」
綺麗な仕草で椅子に腰をかける姫神が、あまりにも神々し過ぎて息が出来ない。
他の人間は全て雑草か石ころに見える程、可愛いし美しい...大好物のパフェやショートケーキが喉を通らない経験をしたのはこの2人が初めてだろう。
「久しぶりだね、少し痩せた...?」
「まあ...色々あってね。政宗くんは相変わらず元気そう」
元気そう。
なんて、残酷な言葉を吐き捨てるのだろうか。
ボロ雑巾の様な姫神を目の当たりにし、涙を流す姿が記憶に刻み込まれた若王子は、その言葉を聞いて血が滲む程強く唇を噛み締めた。
悔しかった、やるせなかった、許せなかった。
ただ
「うん、今は毎日が楽しくて幸せだからね」
その言葉だけで、どれだけ心が救われたか。
「そう...それは良かった。やっぱり、連絡した件は忘れて欲しいの...あとこれ...」
テーブルの上に乗せたアタッシュケースを姫神に差し出せば、彼は頭上に疑問符を浮かべながら微笑む。
「くれるの?」
「ええ」
中身も確認せずお土産だと思って笑顔で受け取る姫神を見て、ああこの人は絶対に詐欺に引っかかるな、と思ったことは言うまでもない。
「ずっと騙してたけど、実は政宗くんの子供なんて最初から居なかったの。だからもう、養育費も送ってくれなくて大丈夫」
何年経っても優しい彼に罪悪感でも覚えたか。
一瞬驚いたように目を見開いた姫神だったが、それも束の間、優しい声音で「そっか」と呟く。
何年間も金を毟られ続けた男とは思えないほど穏やかな顔をする姫神の後ろから、丁度夕日が差し込んだ。
細かな埃の粒子が光を帯び、より彼を美しく、幻想的に見せる。
「じゃあ、あまり無理をしないように」
「うん...」
ほんの僅かな時間だったが、彼の心からスッ、と重荷が解けた瞬間だったのかもしれない。
穏やかな顔をした彼の唇から、今度は愛した女性へ
「さようなら」
別れを告げた。
「亮くん、なおくん。こんなところで何してるの?早くお家、帰ろ」
席を立ち、2人の腕を掴んだ姫神は満面の笑顔で口にする。
変装は完璧だったのにバレていたらしい。
「えっ、ちょっと...どう言う...」
「七王、これ持って政宗さんとお店出て」
アタッシュケースを持たせ店を出るように促せば、それまで無表情だった神崎の顔に笑みが浮かぶ。
「...政宗、今日のご飯何にしよっか」
「ん~、まだ暑いからねぇ。素麺?」
「昨日も素麺だったでしょ」
他愛もない会話を交えて店を出た2人を確認してから、隣の席の女性に視線を落とす。
「はは...酷い顔してますね。あんまり知らない他人のこと、簡単に信用しない方がいいですよ」
「...ぇ、あ...あ」
「それとご主人のこと、心中お察しします...あそこまでする必要は無かったとは思いますが、まだ高校生のガキなので許してやって貰えます?」
財布からお札を抜き、卓上の伝票に添える。
荷物を抱えた若王子が店を出る前に、「ああ、そうだ」と笑顔で振り向いた。
「貴女の口から出た胸糞悪い話、全部録音してますから...ご実家にお送りしますね。是非ご家族で笑いのネタにでもしてください」
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