2人の男に狙われてます

おもち

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神崎七王

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「神崎さん...!」

オフィスで一眼レフの手入れをしていると、及川が慌ただしく扉を開ける。

「どうした」

肩を上下させながら浅い呼吸を繰り返す彼に目線だけを送り、脚を組んだ。

「清水部長をクビにしたって、マジですか...!?」

「うん」

「絶対私情ですよね...?」

パタパタと近くに寄ってくる及川にカップを押し付けると、何も言わずにココアを淹れてくれる。

「うん」

「うんって...死にそうな顔して会社出ていきましたけど、何したんですか...」

「別に、今まで政宗から巻き上げたお金を全額返してうちを辞めるか、死ぬかを選ばせただけだよ」

はぁ、とため息を吐いた及川がココアを差し出す。

「部長がこなしていた業務の引き継ぎすら出来てないのに...」

「清水がやってた仕事は俺がやるから大丈夫」

一眼レフをケースにしまい、デスクの引き出しから小さな白い箱を取り出した。

「それならいいですけど...てか清水さん、お金はお支払い出来たんですか?」

「とりあえずな。奥さんがほぼ貯金を使ってたみたいだから、金融機関から借りさせた。あとは自己破産でもするんじゃない...?」

大金が入ったアタッシュケースをポンポン、と叩けば及川は肩を竦めて見せる。

しかし...回収したのはいいが、どうやってこれを政宗に返すか。
騙し取られていた養育費だよ!って言ったら傷付くよな...。

「自己破産なんてしたら、家族共々、共倒れでしょうね...可哀想に」

「...可哀想なもんか。政宗はもっと辛い思いをしたんだから、こんなのまだまだ甘すぎる」

調べたデータを思い出すだけでも腹が立って仕方がない。
政宗を侮辱したことも、貶めたことも、騙し続けたことも許せるはずがないだろう。

カップに口付けて、そっとココアを飲む俺に及川が目を細めて笑った。
  
「神崎さん、本当変わりましたね」

「...そうか?」

「神崎さんが他人のためにそこまでするなんて思ってもみませんでした」

「政宗は他人じゃなくて、家族だから」

「はは、家族なんていないって言ってた貴方とは大違いですね。明るくなったし、よく笑うようになった...」

鞄の中に小さな箱を忍ばせ帰る支度を済ませると、アタッシュケースを小脇に抱える。

「俺もそう思うよ。じゃあ、そろそろ帰るわ」

「はい。本日もお疲れ様でした、お気を付けて」

頭を下げる男に挨拶をしてオフィスを出れば、そのままバイクに跨った。

00時30分

ボロいアパートに着き、合鍵で彼の部屋に入ると、既に室内は暗くベッドの上には愛しい人物が寝ていた。

ヘルメットと荷物をテーブルに起き、綺麗な寝顔を見つめる。

「...ただいま」

部屋の中に差し込む外の街灯の明かりが、彼の滑らかな頬を照らした。
柔らかな髪に指を絡ませ、静かに唇へキスを施すと微かに声を漏らす。

「ん...ん...?」

あ、起こしちゃった。

「んぅ、なおくん...?...今帰ってきたの?」

眠そうに目を擦り、小さな声で口にする。

「うん...起こしちゃったね、ごめん」

「大丈夫だよ、おかえり」

ふにゃって笑った顔が可愛い。
あまりの可愛さに強く抱き締め、彼の首に鼻を寄せる。

...幸せだ。

「...」

「なおくん?」

「俺...政宗のこと大好きなんだけどさ、ちゃんと大事に出来てるかな」

愛することを教えてくれた腕の中の彼に、ふと気になったことを問いかけた。

「はは、何それ。そんなこと心配してるの?私、こんなに大切にして貰えたのはじめてなんだよ?」

微かに差し込む光の中、彼が身体を起こして無邪気に笑う。

「いつも側にいてくれて、大切にしてくれてありがと」

「...」

ああ、本当

貴方を好きになって良かったーーー。


政宗が笑顔でいてくれるだけで俺は生きて行けると、心から思った。
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