2人の男に狙われてます

おもち

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神崎七王

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ーーーーーーー

俺は生まれながらにして、周りが羨むものを全て持っていた。

幼稚園から中学まではエスカレーター式で進学。
幼少の頃こそ可愛かった周りの友人も、物心がつくにつれ自分の持って生まれた環境をひけらかすようになった。

マウントの取り合いやスクールカーストにうんざりした俺は、中学卒業を機に別の高校に通うこととなる。

大体の物は常に自分の周りに用意され、ほぼ皆無な物欲の中、やっと欲しいと思ったものがいざ手に入れば「なんだこんなものか」とすぐに投げ捨ててしまう。

何でも簡単に手に入ってしまう環境、何でも簡単に与えて貰える環境で育ってしまったからであろう。

気付いた時には時すでに遅く、何かを欲しいと思うこともなければ、手に入れた物も大切に出来ない人間になっていた。


「神崎さん、先月の顧客リストをまとめておきました」

「ああ、悪い」

従業員は100名程度。
父親から小さな宝石店の経営を任されてから、早数年。

後継者が欲しい父、いち早く独り立ちさせたいと願ってやまない母の間で育った俺は、高校入学と同時に家を追い出され(ほぼ自分から出た)、オフィスと仮住まいのホテル、高校を行き来するだけの生活を送っていた。

「それにしても、今月の売上も良かったですね。神崎さんが自ら写真を撮られるようになってから、売上も評判も右肩上がりです」

「俺の写真だけじゃないよ。女性の目につくようなキャッチコピーと、公式サイトの配色やデザインに拘ったのも良かった...皆のお陰だな」

見積書に目を通しながら、紅茶を淹れてくれた及川という男にお礼を告げる。

発注書の作成や新しいデザインについての会議、やることが沢山ある中で、仕事と学業の両立は頭を悩ませる程難しかった。

学校の時間以外は及川に仕事を任せっきりにしているとは言え、週一でのミーティングには必ず出席しなきゃいけないし、従業員にばかり負担をかけるわけにもいかない。

学校終わりにオフィスに赴く生活を送っているうちに、17時から22時まで仕事、それから帰宅して学校で習ったことを復習し、明け方に寝るという習慣が染み付いてしまった。




「ふあ~...」

「なんだよ神崎、朝から大きな欠伸してさ。今日は1限目から体育だぜ~」

「だるい...眠い、汗かきたくない...」

隣で笑う深瀬は朝から元気いっぱいだ。

こいつは体育をやるためだけに学校に来ていると言っても過言じゃない...つくづく幸せな奴だと思う。

「入学して1ヶ月なのに、そんな感じでいいのかよ。可愛い女の子もいっぱい居るんだから、もっとシャキッとしろ」

「んー...」

可愛い子がいたかは謎だがジャージに着替えて体育館に集合するも、全くやる気が起きない。
新しい環境に慣れるのに必死だったことや、ここ最近の寝不足が祟ったのか、身体も重いしただただ体調が優れないの一言に尽きる。

「神崎!今日はバスケだってよ!」

絶対にやりたくない。

「...悪い、やっぱり保健室行く。先生に言っといて」

「え!?体調悪いのか?」

心配そうに眉を下げる深瀬に「サボり」、とだけ伝えて体育館を後にした。

流石に今日は早く寝るか...。
ぶっ倒れて働けなくなったら元も子もない。

異様に凝り固まった首に手を当てながら保健室に向かっていると、あろうことか曲がり角で勢いよく人とぶつかった。

誰かとぶつかるなんて全く予想していなかった俺は、角っこに頭を強打しその場に座り込む。

「...痛い...」

「わ...わぁ、ごめん...!」
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