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電話
しおりを挟む汗でベタベタになった身体をシャワーで洗い流し、リビングへ戻れば既に夕食がテーブルに並んでいた。
「主任、お昼食べなかったんですね」
「あ、うん...せっかく作ってくれたのにごめん、ずっと寝てて...」
椅子に座る私の前に、1人用の土鍋が用意される。
「いいですよ。もう食べれます?顔色もいいし、熱も下がったみたいですが」
「平気、ありがと」
若王子と久しぶりに食卓を囲む。
一人暮らしの男の食卓とは思えないほどバランスのとれた料理に、毎度ながら感心した。
「...何か、あったんですか」
「何かって?」
「帰って来てから様子がおかしかったので、嫌なことでもあったのかと」
「ああ、昔の...5年前の夢をみただけだよ。あまりにもリアルでさ...少し嫌なことを思い出したんだ。でももう大丈夫!」
お粥も大変美味しいのだが、彼が食べているお魚も食べたい...。
じっと見つめていると、察した彼は小皿に魚や野菜を取り分けてくれた。
「5年前って、丁度僕が教育実習で来た年ですよね。その時の貴方は、顔を腫らして青あざとか切り傷だらけだったな」
「はは...まあ、色々あったんだよ」
「少しして、傷が治った貴方の顔を見た時...こんなに綺麗な顔を殴る輩がいることに殺意すら覚えました」
笑顔で怖いことを言うんじゃないよ。
でも若王子は、父や義父母に楯突くことが出来なかった私の代わりに、怒りを露にしてくれているのだ。
「ありがとう、私の代わりに怒ってくれて」
「いえ...。もう二度と、貴方をそんな目に合わせませんから」
.......王子様過ぎる。
夕食を食べ終えると、彼は早々にシャワーを浴びに行ってしまった。
あまり長居する訳にもいかないし、帰る準備でもしようかな。
寝室にスマホを取りに行くと、ベッドの上で光を放っていることに気付く。
「ん...?」
大量のメッセージと着信、神崎からだ。
「もしもし」
『せんせ!?やっと出た...今どこにいんの!?』
「あー...っと、友達の家。ちょっと体調崩したから休ませてもらってたんだ」
『そっか、声聞けて安心したよ...昨日から帰ってこないし、今日も休んじゃうし心配した』
電話越しに聞く、神崎の安堵した声に笑みが溢れる。
「ごめんごめん、ちゃんと明日は学校に行くよ。それより神崎、髪の毛は染めた?」
『うん、真っ黒になっちゃった。クラスの人達には結構好評だけど、落ち着かない...』
「ふふ、楽しみだな。明日の朝、見せに来てくれる?」
『もちろん、学校着いたら職員室に寄るね』
緩む口元をキュッと結び、小さく咳払いをした私に、電話の向こうの男は「そうだ」と続け様に口にした。
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