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2-②【改稿版】
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存在感が薄く、これと言った特徴も無い私……。
そんな私とは対照的に学園に通うようになって以降、男子生徒から何度も告白されているロザリー。
ヴィンセント様だってそんな彼女から告白されたなら喜びこそすれ断る理由など無いと思っていた。
なのにこの日の夕食後、思い掛けない出来事が私を待っていた。
夕食後、自室で寛いでいた私はいつもより早く帰宅した父に呼び出され、執務室へと向かい扉をノックする。
「入れ。」という父の声の後、重い扉を開いて中へと入った。
驚くことにソファーに並んで座っている両親の姿が。
二人に促され正面の位置に座ると目の前にお茶を置いて侍女が部屋を出て行く。
人払いをした?
そこまでするほど重要な話って何?
何かやらかしただろうか?と必死で考えるも心当たりは無い。無い筈である。いや、無いと思いたい!
「改まって執務室に呼んだ上、人払いまでするなんて…何かあったかしら?」
動揺を隠しニッコリ微笑んだつもりだが、表から見えない所に嫌~な汗をダラダラと掻きまくっている私。
身に覚えは無い筈なのに、両親の笑顔が何だか怖くて落ち着かない。
そして、これから死刑判決を聞かされる囚人のような心地の私に、真剣な表情をした父から告げられたのは私の縁談話だった。
「ラフィーに婚約の打診があったんだよ。」
「へ?」
思わず口を衝いて出てしまった変な声に、父が苦笑しながら私に向けて釣書を差し出してくる。
「信じられないような話だが、先方から是非にと言われてな。」
是非にと言われてと聞こえたけれど、聞き間違い…じゃないわよね?
と、狐につままれたような思いで私の方に差し出されたそれを受け取り、開いて見た私は衝撃を受けた。
釣書に添えられた絵姿は、いつも此方をを見ていた男子生徒…ヴィンセント・クラーク伯爵令息の物だったからだ。
「気持ちを伝えようと思っているの。」
そう言って恥ずかしそうに頬を赤らめていたロザリーの顔が頭に浮かぶ。
胸が痛い…。
降って湧いた縁談に喜んでいる両親には申し訳ないけれど素直に喜べなかった。
「お、お断りする事はできないの?」
釣書から顔を上げ口にした言葉。
それを聞いた途端、父の眉間に皺が刻まれたかと思うと、苦い物を噛み潰したような顔と常に無い低い声で言われた。
「相手の方が爵位が上なのだから断れる訳が無いだろう。しかも上司を通して持ち込まれた話なんだぞ。」
「え…そ、そんな…。」
断れないという事が嫌と言うほど分かり、絶望的な気持ちになる。
学校でどんな顔をしてロザリーに会ったらいいの?
悲しみに暮れる彼女の顔しか思い浮かばない上、気不味くて如何したらいいのかわからない。
そういった思いが頭の中を駆け巡っていた所為で何も言い返せなかった。
そして何も言えなくなった私に、この縁談を受け容れたと勘違いした両親が喜んで何か言っていたけれど、何も耳に入ってこなかった。
明日は休み明け、登校したくない気持ちでいっぱいだった私はベッドの中でまんじりともせず朝を迎えた。
△▽△▽△▽△▽△▽△
登校したくなくて朝なんて来なくていいのにと思っていようと、それでも日は昇り朝がやって来る。
重い足取りで仕方なく馬車に乗り学園に着いた私は、如何したらいいかわからないまま馬車から降りた。
にしても、タイミングが悪い、いや悪すぎる。
何でこんなタイミングで婚約の打診が来るかなぁ。もう、ほんと勘弁して欲しい。
そんな事を思いながら溜め息を吐きつつ教室に向かった。
そして、教室の扉を開けて中の様子を見る。
幸い(?)な事に、いつも一緒に昼食を食べている友人の中で登校しているのはロザリーだけだった。
真っ直ぐ彼女の元へ行き、休憩時間に二人だけで話がしたいと、大切な話だからとだけ告げた。
ロザリーは、「やだラフィーったら、真剣な顔して怖い~。」と言いつつもOKしてくれた。
もう、こうなったら仕方ない、腹を括ろう!!
他人から婚約の話がロザリーの耳に入るよりも私の口から伝えた方がいいかもしれないと考えた愚かな私は、ロザリーに正直にありのまま伝える事にした。
それ以外に何もいい考えなんて思い浮かばなかったからだ。
相手の方が爵位が上で、文官をしている父の上司を通して持ち込まれた話である為、此方から断れないのだと。
決してロザリーの恋を邪魔するつもりなんて無かった。勿論、彼を横取りするつもりも無いのだと誠心誠意伝えた。
「ほんと、ごめんなさい!まさかこんな事になるなんて…何て言ったらいいのか…。」
言い終えてロザリーを見ると、顔色は青く握り締め胸に当てた手の指は白くなっていた。
少しの沈黙の後、
「い、いいのよ!気にしないで。だって、誰と婚約させられるかなんてわからないんだし。それに家同士の都合もあるのだから…。し、仕方ないわ。」
「本当にごめんなさい!」
ショックを受けているだろうに私を気遣って言ってくれるロザリーに対して本当に申し訳ない気持ちでただ謝る事しか出来なかった。
この時の私はロザリーのこの対応に救われた思いだった。
それに、変に拗れなくて良かったと思っていたんだけど……。
しかし、この時の私の考えが甘かったのだと少し後になって悔やむ事になる。
~~~~~~~
*いつもお付き合い(お読み)いただきありがとうございます!
*お気に入り、しおり、エールやいいね等もありがとうございます!
そんな私とは対照的に学園に通うようになって以降、男子生徒から何度も告白されているロザリー。
ヴィンセント様だってそんな彼女から告白されたなら喜びこそすれ断る理由など無いと思っていた。
なのにこの日の夕食後、思い掛けない出来事が私を待っていた。
夕食後、自室で寛いでいた私はいつもより早く帰宅した父に呼び出され、執務室へと向かい扉をノックする。
「入れ。」という父の声の後、重い扉を開いて中へと入った。
驚くことにソファーに並んで座っている両親の姿が。
二人に促され正面の位置に座ると目の前にお茶を置いて侍女が部屋を出て行く。
人払いをした?
そこまでするほど重要な話って何?
何かやらかしただろうか?と必死で考えるも心当たりは無い。無い筈である。いや、無いと思いたい!
「改まって執務室に呼んだ上、人払いまでするなんて…何かあったかしら?」
動揺を隠しニッコリ微笑んだつもりだが、表から見えない所に嫌~な汗をダラダラと掻きまくっている私。
身に覚えは無い筈なのに、両親の笑顔が何だか怖くて落ち着かない。
そして、これから死刑判決を聞かされる囚人のような心地の私に、真剣な表情をした父から告げられたのは私の縁談話だった。
「ラフィーに婚約の打診があったんだよ。」
「へ?」
思わず口を衝いて出てしまった変な声に、父が苦笑しながら私に向けて釣書を差し出してくる。
「信じられないような話だが、先方から是非にと言われてな。」
是非にと言われてと聞こえたけれど、聞き間違い…じゃないわよね?
と、狐につままれたような思いで私の方に差し出されたそれを受け取り、開いて見た私は衝撃を受けた。
釣書に添えられた絵姿は、いつも此方をを見ていた男子生徒…ヴィンセント・クラーク伯爵令息の物だったからだ。
「気持ちを伝えようと思っているの。」
そう言って恥ずかしそうに頬を赤らめていたロザリーの顔が頭に浮かぶ。
胸が痛い…。
降って湧いた縁談に喜んでいる両親には申し訳ないけれど素直に喜べなかった。
「お、お断りする事はできないの?」
釣書から顔を上げ口にした言葉。
それを聞いた途端、父の眉間に皺が刻まれたかと思うと、苦い物を噛み潰したような顔と常に無い低い声で言われた。
「相手の方が爵位が上なのだから断れる訳が無いだろう。しかも上司を通して持ち込まれた話なんだぞ。」
「え…そ、そんな…。」
断れないという事が嫌と言うほど分かり、絶望的な気持ちになる。
学校でどんな顔をしてロザリーに会ったらいいの?
悲しみに暮れる彼女の顔しか思い浮かばない上、気不味くて如何したらいいのかわからない。
そういった思いが頭の中を駆け巡っていた所為で何も言い返せなかった。
そして何も言えなくなった私に、この縁談を受け容れたと勘違いした両親が喜んで何か言っていたけれど、何も耳に入ってこなかった。
明日は休み明け、登校したくない気持ちでいっぱいだった私はベッドの中でまんじりともせず朝を迎えた。
△▽△▽△▽△▽△▽△
登校したくなくて朝なんて来なくていいのにと思っていようと、それでも日は昇り朝がやって来る。
重い足取りで仕方なく馬車に乗り学園に着いた私は、如何したらいいかわからないまま馬車から降りた。
にしても、タイミングが悪い、いや悪すぎる。
何でこんなタイミングで婚約の打診が来るかなぁ。もう、ほんと勘弁して欲しい。
そんな事を思いながら溜め息を吐きつつ教室に向かった。
そして、教室の扉を開けて中の様子を見る。
幸い(?)な事に、いつも一緒に昼食を食べている友人の中で登校しているのはロザリーだけだった。
真っ直ぐ彼女の元へ行き、休憩時間に二人だけで話がしたいと、大切な話だからとだけ告げた。
ロザリーは、「やだラフィーったら、真剣な顔して怖い~。」と言いつつもOKしてくれた。
もう、こうなったら仕方ない、腹を括ろう!!
他人から婚約の話がロザリーの耳に入るよりも私の口から伝えた方がいいかもしれないと考えた愚かな私は、ロザリーに正直にありのまま伝える事にした。
それ以外に何もいい考えなんて思い浮かばなかったからだ。
相手の方が爵位が上で、文官をしている父の上司を通して持ち込まれた話である為、此方から断れないのだと。
決してロザリーの恋を邪魔するつもりなんて無かった。勿論、彼を横取りするつもりも無いのだと誠心誠意伝えた。
「ほんと、ごめんなさい!まさかこんな事になるなんて…何て言ったらいいのか…。」
言い終えてロザリーを見ると、顔色は青く握り締め胸に当てた手の指は白くなっていた。
少しの沈黙の後、
「い、いいのよ!気にしないで。だって、誰と婚約させられるかなんてわからないんだし。それに家同士の都合もあるのだから…。し、仕方ないわ。」
「本当にごめんなさい!」
ショックを受けているだろうに私を気遣って言ってくれるロザリーに対して本当に申し訳ない気持ちでただ謝る事しか出来なかった。
この時の私はロザリーのこの対応に救われた思いだった。
それに、変に拗れなくて良かったと思っていたんだけど……。
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