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しおりを挟む─ ヴィンセントside ─
父から最後通告された日以降、従兄弟のビリーがやって来た。
暫く邸に滞在する事になったのはいいが、大した用も無いのに俺の私室に顔を出すようになり正直鬱陶しい。
恐らく父は、最後通告するよりも前に俺の事を見限っていたのだろう。
男爵家の次男であるビリーはマナーのなっていない馴れ馴れしい奴でいつもヘラヘラ笑っている。
だが、悪知恵の働く要領のいい彼は目的の為ならば非情な手段を採る事ができる奴だ。
そして、父は昔から事ある毎にビリーのそういった面を見習えと言っていた。
そんなある日、
「よぅ。伯父上から何か面白そうな話を聞いたんだけど。俺も混ぜてくんない?」
ドアをノックもせずいきなり部屋に入って来て変に馴れ馴れしいビリーが俺は昔から苦手…いや、嫌いだった。
「悪いが俺だけでやる。お前を混ぜると計画を立て直さないと行けなくなるからな。」
「ちぇッ、まあいいや。何時でも良いから気が変わったら言ってくれよな。」
「多分無いと思うが気持ちだけは有難く貰っとくよ。」
彼は一瞬目を眇めたが直ぐにいつものようにヘラりと笑った。
「しかしお前も変わったよな。自分に惚れてる女を結婚を餌に利用するなんて、以前のお前からは考えられないぜ。」
ニヤニヤと嫌な笑みを俺に向けて言うビリーに内心イラッとしながらも、アルカイックスマイルで返す。
「俺だってそれぐらいの事はできるさ。」
「くっくっく…。その女も可哀想にな。利用されるだけ利用されて、挙げ句に罪を着せられて捨てられるんだからな。」
「いつもえげつない遣り方ばかりのお前に言われたくないものだな。まあ、褒め言葉と思っておくよ。」
彼は一頻り笑った後「じゃあ失礼するよ。」と片手をヒラヒラさせながら部屋から出て行った。
その後、暫くしてドアがノックされた。
部屋の壁に掛けてある時計を見ると約束の時間になっていた。
恐らくロザリーだろう。
部屋に迎え入れる為にドアを開けると予想通り彼女だった。
笑顔が少し固いような気がしたが緊張しているからだと思った。
ソファーに座るように促し、ベルを鳴らしてメイドにお茶の用意をするように指示をして彼女の向かい側に座った。
二人の目の前にお茶を置いたメイドが部屋を出た後、今回の計画の最終打ち合わせをした。
これまでにも何度か止めるように言ってきていた彼女は、今日も止めるように言ってきたが「愛している。」「君と早く結婚したいからだ。」等と甘い言葉を囁き、口付けて頷かせた。
ここまで来て止めるなど有り得ない。
もう後が無いんだ…。
涙を浮かべて不安げに俺の顔を見上げてくる彼女に安心させるように笑顔を見せながらも頭の中には父の顔とニヤニヤ笑うビリーの顔が過った。
△▽△▽△▽△▽△▽△
その日は朝からそわそわと落ち着かなかった。
計画の実行日だったからだ。
今日はシュライクとラフィアが婚約後初めてデートをする。
今、ちまたを騒がせる大人気の恋愛劇を観劇した後、有名なレストランでのディナーを予約しているらしい。
計画では観劇が終わった直後に仕掛ける事になっている。
何度も止めてきていたロザリーに一抹の不安はあるが、俺との結婚の為に上手くやってくれると思う。
この日の為に何度も頭の中でシミュレーションした。
後は上手くいく事を祈るだけだ。
今回の計画の為に最近密かに入手した郊外にある邸宅にラフィアが予定通り運び込まれたと連絡が来た。
これでシュライクに煮え湯を飲ませる事が出来る上、ビリーの鼻を明かせるとほくそ笑んだ。
そしてラフィアも手に入れる事ができ、この後も計画通り上手く行けば次期伯爵の座も確実だ。
引き出しから美しい装飾を施された小瓶を取り出して見る。
これを使わずに済めばいいがそうはいかないだろう。
祈るように両手で握り締めた後、上着のポケットに入れて部屋を出た。
フードを目深に被り、馬に跨がると駆け出す。
後ろを振り返れば従者が二人付いて来ている。
従者と言っても父がお目付役で付けた者達だ。失敗すれば即座に父に報告するのだろう。
そして俺は切り捨てられる。
父にも肉親としての情はあるのだとは思うが、伯爵家を守る方を優先させるのは分かりきっていた。
喩え実の子であっても所詮駒としか思っていないのだ。
昔からそうだった。
出来て当たり前、出来なければ「能無し。」等と悪し様に罵られる。
「ふっ。」
口を歪めて自虐的に笑う。
失敗しなければいいのだ。
上手くやり遂げてみせるだけだ。そうすれば悪し様に罵られる事は無い。
△▽△▽△▽△▽△▽△
郊外に用意した邸宅に到着した俺は、中に入ると実行役の部下に案内されてラフィアが運び込まれた部屋に入った。
申し訳程度に灯りが点いてはいるが薄暗い部屋の中、足音を忍ばせてベッドに向かって進む。
それと共に緊張して胸の鼓動が速くなる。
ベッドの側まで行くと頭からシーツを被ったラフィアが横たわっているのがわかった。
ベッドの端に座りシーツの上から彼女の頭に手を伸ばして触れると、「ひっ!」と小さな悲鳴が上がった。
無理もない。いきなり意識を失わされ攫われて来たのだから。
と同時に、このような強硬手段に出なければならなかった事が悔やまれる。
無理矢理にでも既成事実を作ってでもシュライクとの結婚を阻止しなければ廃嫡されてしまう。
それに既成事実を作ってしまえばラフィアも諦めて自分と結婚してくれるかもしれない。
「…ラフィア、恐がらないで。」
そう言って宥めるように頭を撫でたり髪を梳く。
「もう大丈夫だから泣かないでラフィア。」
恐がらせないように優しく声を掛けた。
「恐がらないで顔を見せて。」
シーツを被ったままの彼女の頭からシーツを引き剥がした。
「なっ!?」
シーツを引き剥がせば、涙で濡れた顔で此方を睨み付けて来るロザリーが居た。
~~~~~~~
*いつもお付き合い(お読み)いただきありがとうございます!
*お気に入り、しおり、エール等も本当にありがとうございます!!
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