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*劇場でラフィアを誘拐する所から始まります。
─ ロザリーside ─
意識を失ったラフィアを支えきれずに蹌踉けた私を、劇場スタッフの制服を着た侍女サラが支えてくれたので何とか転ばずに済んだ。
サラは幼い頃から私の専属侍女として仕えてくれている。
私が多少の我が儘を言っても大抵の事は聞いてくれて甘えられる姉のような存在だった。
そんな彼女でも、今回の事は辞めるように何度も言ってきた。
でも、ヴィンセント様と婚約したい私は初めて彼女に命令したの。
意識を失ったラフィアと、真っ青になって震えながらも手伝ってくれたサラの顔を見て後悔したわ。
けど…もう後戻りなんて出来ない…。
二人で両側から肩を担いで引き摺るように裏口からラフィアを運び出した。
其処には家紋も付いていない質素な馬車が停めてあり、私達を見た護衛のカイトがラフィアを馬車まで運んで乗せてくれた。
そして、私達も乗り込むと御者台に座ったヴィンセント様の部下が馬に鞭を入れ、大急ぎでその場から走り去った。
深い後悔に胸は痛み、ガタガタと震えだし涙が溢れた。
「お嬢様……。」
「…サ…ラ。ご、ご…め…さい。」
サラと彼女の恋人であるカイトを無理矢理巻き込んでしまった罪悪感に胸が潰れそうだった私は、二人に謝りながら泣きじゃくった。
少しして落ち着いた私にカイトが聞いてきた。
「お嬢様、クドいようですが…コルト子爵令嬢には絶対に危害を加えず、明日の朝には解放…されるのですね?」
「…ヴィンセント様からはそう聞いているわ。誰かに攫われたという事で婚約を解消させるだけだって…。ラフィアには絶対に危害を加えないって。」
「わかりました。」と答えたけれどカイトは何かを考え込んでいるみたいだった。
△▽△▽△▽△▽△▽△
重苦しい空気の中、馬車は止まった。
恐らく、最近クラーク家が入手したという街外れにある小さな邸宅だと思う。
「悪いが中まで運び入れてくれ。」
御者をしていたヴィンセント様の部下の人に言われて、ラフィアを肩に担いだカイトに付いてフードを目深に被った私とサラも邸宅の中に入った。
入り口で、二階の一番奥にある部屋にラフィアを運ぶように指示され、その部屋まで行き彼女をベッドに寝かせるとカイトとサラが部屋を出ようとした。
「…待って……。」
呼び止める私の声に二人は何事かと訝しみながら振り返る。
ベッドの上に横たわる彼女を見て、やっぱりこんな事は駄目だと思った。
そして、計画の最終打ち合わせの為にクラーク家を訪れた時に、偶々聞いてしまったヴィンセント様と従兄弟の会話を思い出していた。
「しかしお前も変わったよな。自分に惚れてる女を結婚を餌に利用するなんて、以前のお前からは考えられないぜ。」
「俺だってそれぐらいの事はできるさ。」
「くっくっく…。その女も可哀想にな。利用されるだけ利用されて、挙げ句に罪を着せられて捨てられるんだからな。」
「いつもえげつない遣り方ばかりのお前に言われたくないものだな。まあ、褒め言葉と思っておくよ。」
何て馬鹿だったんだろう。
恋に目が眩んで騙されていたなんて。
でも、このままじゃ……。
私はサラとカイトに命令したの。
ラフィアと私のドレスを交換して彼女を連れて逃げるように。
そして、保護して貰えるように。
だって二人が拒否するから命令するしかないわよね。
暗くした部屋の中、ベッドの上でラフィアの身代わりをした私は頭までシーツを被った。
どの位の時間が経ったのだろう。
あの後騒ぎが起きていない所をみると二人はラフィアを連れて逃げるのに成功したみたい。
この後、私はどうなるんだろうと考えると怖くて仕方なかったけど、それ以上にヴィンセント様に騙されていた事が悲しかった。
あの口付けも初めても「愛している。」と言った事も全てが嘘だったんだと思うと悲しくて…。
しかも騙されていたとわかってもっと悲しくなった。
何より、大好きな両親やサラやカイトに申し訳なくて、迷惑を掛けてしまった自分に腹が立った。
でも、自業自得よね。
せめて両親やサラやカイトにこれ以上迷惑が掛からないようにしないと…。
そんな事を考えていたら音も無くドアが開き、一筋の光が部屋の中に入って来た。
その光は一瞬広がった後消えたけど、人の気配を感じた。
その気配がこっちに近付いて来ているみたいで心臓の鼓動がバクバクと打ちどんどん速くなる。
格好付けてラフィアの身代わりに残ったけど、やっぱり怖い!
ベッドの端に誰かが座ったみたいな音がしたかと思うとすぐ隣の位置のマットが少し沈んだ。
「ひっ!」
頭に手が触れた途端に悲鳴を上げてしまった。
「…ラフィア、恐がらないで。」
「ッ!?」
そう言って頭を撫でたり髪を梳いている。
騙されていたとわかっても何処かで信じてたんだと思う。
だけど、その声は紛れもなくヴィンセント様の物で酷くショックを受けた。
「もう大丈夫だから泣かないでラフィア。」
私に話す時よりも優しい声に心が軋み、涙が溢れ肩を震わせる私の背中をラフィアだと思って撫でるヴィンセント様。
酷い!酷いわ!
信じていたのに!!
「恐がらないで顔を見せて。」
頭から被っていたシーツを引き剥がされた。
「なっ!?」
驚いているだろう彼を涙で濡れる目で睨み付けた。
~~~~~~~
*いつもお付き合い(お読み)いただきありがとうございます。
*お気に入り、しおり、エール等も本当にありがとうございます!!
─ ロザリーside ─
意識を失ったラフィアを支えきれずに蹌踉けた私を、劇場スタッフの制服を着た侍女サラが支えてくれたので何とか転ばずに済んだ。
サラは幼い頃から私の専属侍女として仕えてくれている。
私が多少の我が儘を言っても大抵の事は聞いてくれて甘えられる姉のような存在だった。
そんな彼女でも、今回の事は辞めるように何度も言ってきた。
でも、ヴィンセント様と婚約したい私は初めて彼女に命令したの。
意識を失ったラフィアと、真っ青になって震えながらも手伝ってくれたサラの顔を見て後悔したわ。
けど…もう後戻りなんて出来ない…。
二人で両側から肩を担いで引き摺るように裏口からラフィアを運び出した。
其処には家紋も付いていない質素な馬車が停めてあり、私達を見た護衛のカイトがラフィアを馬車まで運んで乗せてくれた。
そして、私達も乗り込むと御者台に座ったヴィンセント様の部下が馬に鞭を入れ、大急ぎでその場から走り去った。
深い後悔に胸は痛み、ガタガタと震えだし涙が溢れた。
「お嬢様……。」
「…サ…ラ。ご、ご…め…さい。」
サラと彼女の恋人であるカイトを無理矢理巻き込んでしまった罪悪感に胸が潰れそうだった私は、二人に謝りながら泣きじゃくった。
少しして落ち着いた私にカイトが聞いてきた。
「お嬢様、クドいようですが…コルト子爵令嬢には絶対に危害を加えず、明日の朝には解放…されるのですね?」
「…ヴィンセント様からはそう聞いているわ。誰かに攫われたという事で婚約を解消させるだけだって…。ラフィアには絶対に危害を加えないって。」
「わかりました。」と答えたけれどカイトは何かを考え込んでいるみたいだった。
△▽△▽△▽△▽△▽△
重苦しい空気の中、馬車は止まった。
恐らく、最近クラーク家が入手したという街外れにある小さな邸宅だと思う。
「悪いが中まで運び入れてくれ。」
御者をしていたヴィンセント様の部下の人に言われて、ラフィアを肩に担いだカイトに付いてフードを目深に被った私とサラも邸宅の中に入った。
入り口で、二階の一番奥にある部屋にラフィアを運ぶように指示され、その部屋まで行き彼女をベッドに寝かせるとカイトとサラが部屋を出ようとした。
「…待って……。」
呼び止める私の声に二人は何事かと訝しみながら振り返る。
ベッドの上に横たわる彼女を見て、やっぱりこんな事は駄目だと思った。
そして、計画の最終打ち合わせの為にクラーク家を訪れた時に、偶々聞いてしまったヴィンセント様と従兄弟の会話を思い出していた。
「しかしお前も変わったよな。自分に惚れてる女を結婚を餌に利用するなんて、以前のお前からは考えられないぜ。」
「俺だってそれぐらいの事はできるさ。」
「くっくっく…。その女も可哀想にな。利用されるだけ利用されて、挙げ句に罪を着せられて捨てられるんだからな。」
「いつもえげつない遣り方ばかりのお前に言われたくないものだな。まあ、褒め言葉と思っておくよ。」
何て馬鹿だったんだろう。
恋に目が眩んで騙されていたなんて。
でも、このままじゃ……。
私はサラとカイトに命令したの。
ラフィアと私のドレスを交換して彼女を連れて逃げるように。
そして、保護して貰えるように。
だって二人が拒否するから命令するしかないわよね。
暗くした部屋の中、ベッドの上でラフィアの身代わりをした私は頭までシーツを被った。
どの位の時間が経ったのだろう。
あの後騒ぎが起きていない所をみると二人はラフィアを連れて逃げるのに成功したみたい。
この後、私はどうなるんだろうと考えると怖くて仕方なかったけど、それ以上にヴィンセント様に騙されていた事が悲しかった。
あの口付けも初めても「愛している。」と言った事も全てが嘘だったんだと思うと悲しくて…。
しかも騙されていたとわかってもっと悲しくなった。
何より、大好きな両親やサラやカイトに申し訳なくて、迷惑を掛けてしまった自分に腹が立った。
でも、自業自得よね。
せめて両親やサラやカイトにこれ以上迷惑が掛からないようにしないと…。
そんな事を考えていたら音も無くドアが開き、一筋の光が部屋の中に入って来た。
その光は一瞬広がった後消えたけど、人の気配を感じた。
その気配がこっちに近付いて来ているみたいで心臓の鼓動がバクバクと打ちどんどん速くなる。
格好付けてラフィアの身代わりに残ったけど、やっぱり怖い!
ベッドの端に誰かが座ったみたいな音がしたかと思うとすぐ隣の位置のマットが少し沈んだ。
「ひっ!」
頭に手が触れた途端に悲鳴を上げてしまった。
「…ラフィア、恐がらないで。」
「ッ!?」
そう言って頭を撫でたり髪を梳いている。
騙されていたとわかっても何処かで信じてたんだと思う。
だけど、その声は紛れもなくヴィンセント様の物で酷くショックを受けた。
「もう大丈夫だから泣かないでラフィア。」
私に話す時よりも優しい声に心が軋み、涙が溢れ肩を震わせる私の背中をラフィアだと思って撫でるヴィンセント様。
酷い!酷いわ!
信じていたのに!!
「恐がらないで顔を見せて。」
頭から被っていたシーツを引き剥がされた。
「なっ!?」
驚いているだろう彼を涙で濡れる目で睨み付けた。
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*いつもお付き合い(お読み)いただきありがとうございます。
*お気に入り、しおり、エール等も本当にありがとうございます!!
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