彼が見詰めているのは……

雫喰 B

文字の大きさ
上 下
12 / 17

9.

しおりを挟む

「(無体を働かれる前に)間に合って良かった!」

 医務室に着いた後、私を横抱きにしたままベッドの端に腰掛け、そう言ってギュッと抱き締めたシュライク様の体が震えていた。
 
「…シュライク様、助けに来て下さってありがとうございます。」

 彼の震えに気付いた私は、横抱きにされた恥ずかしさも忘れ、そっと彼の頬に手を伸ばした。
 
 伸ばした自分の手も彼と同じく震えていた。
 

「護ると言っておきながら護れず怖い思いをさせてしまって……。」
「いいえ!護って下さいました。」
「だが……!!」
「シュライク様は間に合って下さいました!でなければあの後どうなっていたかと思うと…。」
「ラフィア…。」

 けれど、責任感の強い彼は辛そうな表情を浮かべている。
 彼の頬に手を当てたまま、大丈夫というように(ぎこちなかったかもしれないけど)微笑んだ。

 彼は頬に当てた私の手を握り、口元に持って行くと手のひらに口付けた。

「にゃっ(なっ)…!?」

 ……動揺して訛ってしまった。
 どうしよう……恥ずかしい!

 シュライク様は、一瞬目が点になった後、肩を震わせてくっくっと笑っている。

「…そっ、そんなに笑わなくても…。」
「でも…にゃっ…!?って…くっくっ。」

 一頻ひとしきり笑った後、私を見詰めてからそっと抱き締めると言った。

「ラフィアに何かあったら正気でいられない。君が…ラフィーが好きだ。ヴィンセントとの事があったから俺の気持ちが負担になったらと思って言えなかった。でも今回の事で思ったんだ…君を護りたい…いや、護らせてくれ。」

 その言葉にドキドキと胸が高鳴る。
 
「…すまない。怖い思いをしたばかりだと言うのに、付け入るような事を言ってしまった。でも…本心なんだ。これが愛かどうかなんてわからない。でもいつだって君の傍に居たいし笑顔を見ていたい。それに何かあったら助けたいし護りたい。だから君の事を好きなのは間違いない。いや、好きと言うよりも大好きだ。いや、愛しているって言いたいぐらい想ってる!…迷惑…だろうか?」

 彼からの突然の告白に頭が追いつかない。

 えっ?い、今好きって言った?しかも大好きって…愛しているって…。それとも都合良く私の願望がそう聞こえたように思わせただけ?

「…その…聞き間違いじゃないから。ラフィアが大好きだ愛している。」

 ど、ど、ど、どうしよう…。
 聞き間違いじゃない?ほんとに?
 嬉しい!

 でも、言われ慣れない言葉に何だか頭がフワフワするような…?
 顔に熱が集まって…心臓の鼓動が速過ぎて…限界突破しそう!
 あ…だめ…何も考えられない!?

 とうとう私の頭も心もキャパオーバーを起こし、そのままベッドに沈む事となった。

 後日、保健医からベル(ベレッタ)様が聞いた話によると、私が気を失ったとオロオロワタワタとしたシュライク様が「どうしたらいい?」と保健医に詰め寄ったらしく、その姿を思い出した保健医がひーひー言いながら笑っていたという。


△▽△▽△▽△▽△


 あの後、知恵熱なのか発熱した私は一週間学校を休む事になり、次に登校した時には事件時に図書室でヴィンセントと一緒に居た男子生徒達は退学処分となっていた。

 そしてヴィンセントは、バート様やベル様、シュライク様が予想していた通り侯爵家の力を使って責任を逃れたらしく、シュライク様は特に口惜しそうだった。

「力いっぱい殴ってやりたかっただろうに…よく耐えてくれたと思うよ…。」

 ポツリと呟いたバート様の言葉──

 その言葉の意味を、クラーク伯爵家の裏側の一端をその時になって知った。

 図書室での騒動は、あの日ベル様が体調不良で早退され、それに付き添う形でバート様も早退された状況を利用したヴィンセントに恥を掻かせた私への報復(と言っても逆恨みでしかないのだが……。)、そして目障りなシュライク様を貶める為の物だった。

 
 この国の低位貴族の子女はあまり政に興味が無い。
 と言っても、全てではなく、商会を経営している貴族家や文官を目指している者は例外であるし、関心を持つ生徒達も居る。

 あの場でシュライク様がヴィンセントを殴っていたら仕えているバート様に責任を問い、親である辺境伯にまで難癖を付けていただろうとバートが苦い顔をして言った。

 国境を護る為に犠牲を強いている癖に、自軍を持ち軍事力でも経済力でも力を付ける事を、王家も中央にいる貴族達も疎ましく思っていてそれを隠そうともしない。

 だからこそ学園での事であろうとシュライク様がバート様の居ない場所で中央貴族の子息であるヴィンセントに暴力を振るうのは悪手なのだと。

 中央に於いては、中央貴族達の方に分があり、辺境伯や辺境周辺の貴族達には分が悪い。
 揉め事があると中央貴族達の言い分が通り易いらしい。

 今回の場合、バート様がその場に居たら中央貴族といえども真っ向から辺境伯家と遣り合うのは避けたい為、家格が上のシュライク様に有利だっただろう。

 という話を聞いた私は、改めて中央と辺境や辺境周辺との意識の差を思い知らされたのだった。


△▽△▽△▽△▽△▽△


 そしてその事件の二週間後、シュライク様がレミントン侯爵と共にコルト子爵家我が家を訪れた。

 勿論、婚約を申し込みに。

~~~~~~~

 更新が物凄く遅くて申し訳ありません。
【完結】目指して頑張ります。

 この先の展開としては、ラフィアとシュライクにはあと一山(二山かも?)越えてもらう積もりです。(鬼畜~)

※いつもお付き合い(お読み)いただき、ありがとうございます!

※お気に入りやしおり、エール等も本当にありがとうございます!!
 

 



 



 



 

 

 

 
 
しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

五歳の時から、側にいた

田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。 それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。 グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。 前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。

皇太子夫妻の歪んだ結婚 

夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。 その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。 本編完結してます。 番外編を更新中です。

【完結】番(つがい)でした ~美しき竜人の王様の元を去った番の私が、再び彼に囚われるまでのお話~

tea
恋愛
かつて私を妻として番として乞い願ってくれたのは、宝石の様に美しい青い目をし冒険者に扮した、美しき竜人の王様でした。 番に選ばれたものの、一度は辛くて彼の元を去ったレーアが、番であるエーヴェルトラーシュと再び結ばれるまでのお話です。 ヒーローは普段穏やかですが、スイッチ入るとややドS。 そして安定のヤンデレさん☆ ちょっぴり切ない、でもちょっとした剣と魔法の冒険ありの(私とヒロイン的には)ハッピーエンド(執着心むき出しのヒーローに囚われてしまったので、見ようによってはメリバ?)のお話です。 別サイトに公開済の小説を編集し直して掲載しています。

【完結】お飾りの妻からの挑戦状

おのまとぺ
恋愛
公爵家から王家へと嫁いできたデイジー・シャトワーズ。待ちに待った旦那様との顔合わせ、王太子セオドア・ハミルトンが放った言葉に立ち会った使用人たちの顔は強張った。 「君はお飾りの妻だ。装飾品として慎ましく生きろ」 しかし、当のデイジーは不躾な挨拶を笑顔で受け止める。二人のドタバタ生活は心配する周囲を巻き込んで、やがて誰も予想しなかった展開へ…… ◇表紙はノーコピーライトガール様より拝借しています ◇全18話で完結予定

三度目の嘘つき

豆狸
恋愛
「……本当に良かったのかい、エカテリナ。こんな嘘をついて……」 「……いいのよ。私に新しい相手が出来れば、周囲も殿下と男爵令嬢の仲を認めずにはいられなくなるわ」 なろう様でも公開中ですが、少し構成が違います。内容は同じです。

蔑ろにされた王妃と見限られた国王

奏千歌
恋愛
※最初に公開したプロット版はカクヨムで公開しています 国王陛下には愛する女性がいた。 彼女は陛下の初恋の相手で、陛下はずっと彼女を想い続けて、そして大切にしていた。 私は、そんな陛下と結婚した。 国と王家のために、私達は結婚しなければならなかったから、結婚すれば陛下も少しは変わるのではと期待していた。 でも結果は……私の理想を打ち砕くものだった。 そしてもう一つ。 私も陛下も知らないことがあった。 彼女のことを。彼女の正体を。

初恋の呪縛

緑谷めい
恋愛
「エミリ。すまないが、これから暫くの間、俺の同僚のアーダの家に食事を作りに行ってくれないだろうか?」  王国騎士団の騎士である夫デニスにそう頼まれたエミリは、もちろん二つ返事で引き受けた。女性騎士のアーダは夫と同期だと聞いている。半年前にエミリとデニスが結婚した際に結婚パーティーの席で他の同僚達と共にデニスから紹介され、面識もある。  ※ 全6話完結予定

魅了の魔法を使っているのは義妹のほうでした・完

瀬名 翠
恋愛
”魅了の魔法”を使っている悪女として国外追放されるアンネリーゼ。実際は義妹・ビアンカのしわざであり、アンネリーゼは潔白であった。断罪後、親しくしていた、隣国・魔法王国出身の後輩に、声をかけられ、連れ去られ。 夢も叶えて恋も叶える、絶世の美女の話。 *五話でさくっと読めます。

処理中です...