11 / 17
8.
しおりを挟む─ ラフィアside ─
あれから後もヴィンセントとロザリーが絡んでくるけれど、シュライク様に軽く遇われ腹立たしげに去って行く。
絡んで来ない時は、此方をジッと見ていたヴィンセントだけど、最近では粘着質なジットリとした視線を寄越してくる。
その視線が気持ち悪くて嫌な思いをしていると、私の頭をポンポンとするようになったシュライク様。
これって…やっぱり子供扱いされてる…?
わかっているけど……なんか……辛いような……?
そして何時からか、エスコートするように差し出されるシュライク様の手に自分の手を乗せると、顔に熱が集まりドキドキと胸が高鳴るように。
でも…そんな風に赤面してドキドキするのは私だけなんだと思う…。
恐らくシュライク様にとっては単に紳士的な、ごく当たり前の行動なのだから勘違いしないようにしないと…。
でも、心はままならない。
そう自分に釘を刺しても、切ないような胸が締め付けられるような想いは、日に日に増して戸惑うばかりだった。
それでも、周囲に気付かれないように顔に出さずに振る舞う。
正直、辛い……。
今のところ、シュライク様が婚約したという話は無い。だけど時間の問題だと思う。
シュライク様は侯爵家の嫡男だから卒業までに婚約者を決める事となるだろう。
けれど、高位貴族は高位貴族同士の婚約が殆どで、身分差から低位貴族も低位貴族同士の婚約が殆どとなる。
身分差がある為、子爵家令嬢の私は侯爵家嫡男のシュライク様の婚約者候補にすらなれない。
というか、彼の周囲の人間が赦さないだろう。
単なる友人でしかない私はその時どんな顔をすればいいのだろう?
その事を想像している今ですら胸が締め付けられるように痛いのに……。
そして気付けば私達は高等科に進級し、来年の春には学園を卒業する年になっていた。
△▽△▽△▽△▽△▽△
その日 ──
体調不良で早退したベレッタ様に付き添ってバート様も早退し、シュライク様は早退したお二人の代わりに生徒会の仕事に追われ、彼を待つ私は一人で図書室を訪れた。
誰も居ない教室でシュライク様を待つよりも、利用者が少ないとしてもまだ人気がある図書室で待つ方が安心できるからだった。
でも、そんな事は彼…ヴィンセントには関係無かったらしい。
最近の彼の交友関係は、あまり評判の良くない令息達とも付き合いがあると噂で聞いていた。
だからヴィンセントが、その令息達と一緒に図書室に入って来たのを見て、しまった!と思った。
案の定、彼等は図書室に居た他の生徒達を追い出しに掛かり、それに気付いた私が図書室から出ようとしたのを止められた。
彼等を迷惑そうに見る生徒や、私の事を気の毒そうに見る生徒達が、そそくさと図書室から出て行くのを見ながら、私はこの後の事を想像して血の気が引く思いだった。
最後の生徒が出て行った後、扉は閉ざされ鍵を掛けるカチャリという音が図書室に響く。
ヴィンセントとその友人達が、後退る私の方にニヤニヤと嗤う顔を向ける。
「そんなに震えて寒いのかな~?」
「温めてあげるからおいでよぉ。」
などと陳腐な台詞みたいな事を言いながら、目だけはギラつかせゲラゲラ笑う。
「いやいや、寒くなんて無いしそもそもあなた達に温めて欲しいなんて思ってないから。」
つい、うっかり本音を言ってしまった。
「ふ~ん。折角優しくしてやろうと思ったのに。僕ちゃん傷付いちゃったなぁ。」
「ってゆ~か、可愛くねぇ女。」
「まあいいや。ヴィンセント~わからせてあげたらぁ?」
彼の友人達がまたゲラゲラ笑う。
ヴィンセントが私の方に足を踏み出したのを見て私は駆け出した。
ピュイーッ!
誰かが指笛を吹いたと同時に「ヒャッハーッ!!」という叫び声と共に男達の足音が響く。
直ぐに追い付かれないように本棚を利用して逃げた。
「おい、そっちに回り込め!」
「そっち行ったぞ!」
と、声が上がる。
いくら図書室が広いと言っても、出入り口は押さえられ、体格も体力も上の男子生徒達から追われれば逃げ切れないのは端からわかっていた。
けれど、図書室から追い出された生徒達の中の誰かがシュライク様か教師に報せてくれれば……。という思いで時間を稼げるだけ稼ごうとした。
尤も、誰も報せてくれなければ体力の無駄遣いになってしまうのだが……。
でも、誰かが報せてくれたと信じるしかなかった。
ッ!?
後ろを振り返り、まだ追い付かれないとわかって前を見たと同時に手首を掴まれると、そのまま引っ張られ転倒した。
急いで立ち上がり逃げようとしたが目の前に男子生徒が居たので反対方向に逃げようとするも他の男子生徒が……。二人から距離を取ろうと後退るが後ろから抱きつかれた。
「い……や、離して!!」
身を捩り腕から逃れようとするが逃れられない。
前から人の気配を感じて、其方を見上げた。
気不味そうな表情を浮かべたヴィンセントと目が合った。
そんな彼と目を合わせ睨み付けると罪悪感からかヴィンセントが目を逸らす。
「ヴィンス、早く遣っちまおうぜ!」
友人の言葉に促され、私に向かって手を伸ばしてくる。
「シュライク様!!」
心の中で名を呼び、強く目を閉じた。
バァーンッ!!
図書室の扉がぶち破られ、扉の前に居た男子生徒ごと吹っ飛び、その男子生徒は扉の下敷きに。
全身に怒気を纏ったシュライク様が室内に入って来ると、鬼のような形相でヴィンセントと彼の友人達を射殺さんばかりに睨み付けた。
「なっ……。」
「あっ……。」
次の瞬間、私を捕まえていた男子生徒の腕を取ったかと思うと、その体が回転するように床に叩き付けられ、私はシュライク様の腕の中に。
片手で私を抱き、空いた方の手で握った拳をヴィンセントの顔面に突き出す。
その拳を鼻先で寸止めしたまま
「こんな巫山戯た真似を二度とするな!次は本当に叩き込むぞ!」
と言うと、顔を青くしたヴィンセントが二、三歩下がって尻餅をつく。
「その顔、二度と俺達に見せるな。」
シュライク様は膝が震えている私を横抱きにして図書室を出て行く。
忙しい中、助けに来てくれた。そんなシュライク様が頼もしく思えるのも無理はない。
その騒動後、私とシュライク様の距離が縮まるのに然程時間は掛からなかった。
~~~~~~~~~
*いつもお読みいただきありがとうございます。
お気に入り、しおり、エール等も本当にありがとうございます!!
10
お気に入りに追加
96
あなたにおすすめの小説

五歳の時から、側にいた
田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。
それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。
グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。
前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。

皇太子夫妻の歪んだ結婚
夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。
その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。
本編完結してます。
番外編を更新中です。

三度目の嘘つき
豆狸
恋愛
「……本当に良かったのかい、エカテリナ。こんな嘘をついて……」
「……いいのよ。私に新しい相手が出来れば、周囲も殿下と男爵令嬢の仲を認めずにはいられなくなるわ」
なろう様でも公開中ですが、少し構成が違います。内容は同じです。

蔑ろにされた王妃と見限られた国王
奏千歌
恋愛
※最初に公開したプロット版はカクヨムで公開しています
国王陛下には愛する女性がいた。
彼女は陛下の初恋の相手で、陛下はずっと彼女を想い続けて、そして大切にしていた。
私は、そんな陛下と結婚した。
国と王家のために、私達は結婚しなければならなかったから、結婚すれば陛下も少しは変わるのではと期待していた。
でも結果は……私の理想を打ち砕くものだった。
そしてもう一つ。
私も陛下も知らないことがあった。
彼女のことを。彼女の正体を。
【完結】お飾りの妻からの挑戦状
おのまとぺ
恋愛
公爵家から王家へと嫁いできたデイジー・シャトワーズ。待ちに待った旦那様との顔合わせ、王太子セオドア・ハミルトンが放った言葉に立ち会った使用人たちの顔は強張った。
「君はお飾りの妻だ。装飾品として慎ましく生きろ」
しかし、当のデイジーは不躾な挨拶を笑顔で受け止める。二人のドタバタ生活は心配する周囲を巻き込んで、やがて誰も予想しなかった展開へ……
◇表紙はノーコピーライトガール様より拝借しています
◇全18話で完結予定

アルバートの屈辱
プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。
『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。

家出したとある辺境夫人の話
あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
『突然ではございますが、私はあなたと離縁し、このお屋敷を去ることにいたしました』
これは、一通の置き手紙からはじまった一組の心通わぬ夫婦のお語。
※ちゃんとハッピーエンドです。ただし、主人公にとっては。
※他サイトでも掲載します。

変な転入生が現れましたので色々ご指摘さしあげたら、悪役令嬢呼ばわりされましたわ
奏音 美都
恋愛
上流階級の貴族子息や令嬢が通うロイヤル学院に、庶民階級からの特待生が転入してきましたの。
スチュワートやロナルド、アリアにジョセフィーンといった名前が並ぶ中……ハルコだなんて、おかしな
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる