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3- ①【改稿版】
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最初はほんの違和感だった。
婚約者であるヴィンセント様が、学校では私に近寄る訳でも声を掛ける訳でもないのは変わらず、以前ほどではないもののロザリーを時々見詰めていたのは知っていた。
私にしてみれば、やはり彼が見詰めていたのはロザリーだったのだと改めて認識するに至っただけの事で、自分の中の淡い恋心かな?と思っていた気持ちも今ではすっかり鳴りを潜め騒つきもしない。
それとは別の何かに違和感を感じていた。
が、ある日その正体がわかった。
徐々にではあるが近付いているのだ。
二人の距離が。
そうして注意深く見ているとアイコンタクトを取っている事に気付いた。
ロザリーが愁いを帯びた視線を向けると、ヴィンセント様が眦をほんのり染めた熱い視線を返している。
まるで目で想いを伝え合っている様だ。
それに気付いた私は、この婚約から解放されるのではないかと期待した。
クラーク伯爵家から申し込まれた政略とは言えないような互いに何の利も無い婚約なのだから、ヴィンセント様とロザリーとの関係が上手くいけば、さっさと私との婚約を解消してロザリーと婚約するだろう。
そう期待したとしても仕方ないと思う。だって、彼等以上に私がそれを望んでいたのだから。
けれど、期待というのは裏切られる為にあるのだろうか?
私とヴィンセント様の婚約が解消される気配はこれっぽっちも無かった。
なんで???
爵位も家格も彼方が上なのに!
△▽△▽△▽△▽△
そして状況は悪い方へと加速する……。
あっという間に私は思い合う二人の邪魔をして引き裂く悪役令嬢。
のみならず、親友の恋人を奪うのが好きな女とまで言われている様だ。
何が如何してこうなった!?
クラーク伯爵家から望んで申し込まれた婚約の筈が、いつの間にか私が親に頼み込んで父が上司に拝み倒して申し込んだ事になっていた。
何故!?
道理で最近は、疲労感たっぷりの父が以前よりも遙かに遅い時間に帰宅する訳だ。
そして私の方も全く面識の無い生徒達から(勿論、他学年の生徒達からの分も含まれる。)謂れの無い誹謗中傷を受け、嫌がらせも受けている。
まるで何処かの三文小説の様だ。
以前の針の筵状態もキツかったが、現在の状況はそれ以上である。
四面楚歌……。
味方など何処にも居ないかのような、いつ終わるとも知れない毎日。
流石に心折れ、膝を突きたくなる。
なのに、目の前ではヴィンセント様とロザリーが恋人達といった風情で寄り添いイチャコラしているのを見せつけられる。(しかも周囲がその関係を認めている)
いつまでこの三文芝居に付き合わねばならないのか……。
△▽△▽△▽△▽△
前回以上に変わりそうにない最悪な状況の中でも、何か落ち着かないような…何かが変わるかもしれないような…?そんな淡い期待とも言えない予感を感じ、一人で過ごす時間を無駄にしたくないけれど、かと言って何をしたらいいのかわからず、しかしその時間を有意義に使いたくて学生の本分である勉強を頑張る事にした。
それが功を奏したのか成績が上がると共に学年順位も上がり、初等科が終わって中等科になった時には成績上位者の集まるAクラスに編入されていた。
中等科でAクラスに編入された私は、Aクラスのみ毎朝行われる小テストの勉強をする時間を作る為に、登校時間をそれまでより早くした結果、元クラスメイト達と顔を合わせる事も無くなった。
そう、必然的にあの二人とも顔を合わせずに済んだのだ。
それだけでも精神的にはかなり楽になった。
そして、そのお陰かわからないが嫌がらせの類も減っていったのだ。
Aクラス万歳!
小テストよありがとう!!
などと感謝する事になるとは思わなかったが、嬉しい誤算であった事は間違いない。
あのままの状況を受け容れ続けていたら今の私は居なかっただろう。
そして最悪な結末を想像してゾッとしたのだった。
△▽△▽△▽△▽△
中等科に進級して暫くは相変わらず一人で行動する事が多かった。
が、あの初等科での毎日に比べれば天国と言ってもいいのでは?と思っている。
と言うのも、学園内では建前上身分の上下は無いと言いつつも、Aクラスの者が立ち入るスペースとBクラス以下の一般生徒の立ち入るとスペースは、はっきり分かれていた事も元クラスメイト達と顔を合わせずに済んだ理由の一つだったからだ。
勿論、登下校時に出会す生徒も居たけれど、早朝に登校して来る生徒は自主勉強をする為に来ている生徒が大半を占めており、彼等は誹謗中傷は兎も角、少なくとも嫌がらせには加わっていない。
とは言っても、離れた場所でヒソヒソと噂話をしていたり、遠巻きに見ているだけで止める事もなかったのだが……。
誰だって巻き込まれるのは嫌だというのはわかるから責めるつもりも無い。
仕方なかったのだと今では思えるようになった。
あと、変化があった事はと言うと、父の帰宅時間が少しずつ早くなってきた事と、精神的疲労がかなり軽減されたのか痩けていた頬が元に戻りつつある事だろうか。
ただ一つ「何故か気の毒がられているみたいなのだが…?」と呟いていたのが気になると言えば気になるのだけれど……。
△▽△▽△▽△▽△
一人で行動する事が多いのも仕方の無い事で…。
その理由としては、Aクラスの生徒の殆どが高位貴族家の子息令嬢の中、ウチの子爵家のような低位貴族家の子息令嬢が少ない為、中等科になったからと言っていきなり友人ができる訳ではない。
あと、ヴィンセント様とロザリーと私の醜聞は成績上位者のクラスであるAクラスにまで知れ渡っていた事もあり、少数ではあるが遠巻きに此方をちらちらと見る生徒達や私を見て何やらひそひそ話をしている生徒達がいたけれど、それでも一般クラスの生徒達に比べればかなりマシ。
何せ、Aクラスの生徒達のしている会話の内容からして一般クラスの生徒達とは違っていたからだ。
流行している事等の話はどちらも同じだが、勉強の話や他国情勢、自国や周辺諸国との関係や政治・経済の話…etc.
皆が皆そういった会話をしている訳では無いのだろうが、派閥が同じ生徒達の中でも交わされる会話の内容でハッキリとグループが別れていた。
とは言っても、同じ派閥でなくとも挨拶以外に他愛ない話をしたりはする。
そこには情報収集や情報交換、情報操作といった物が織り込まれていたりするのだが…。
やっぱり、高位貴族の子息令嬢でAクラスともなるとそこまで暇ではないのだろう。
それにある程度の腹芸も必要らしく、そういった腹芸が苦手な私は、尚更同じAクラスの生徒達との交流が難しい。
無事に卒業できるのかしら……。
何にせよ今のところ私に話し掛けて来る生徒も居ないので、休憩時間やランチの時など相変わらず一人で過ごしていると言う訳。
まぁ色々気にしても仕方ないし、絡まれない事は良い事だよね。
~~~~~~~~~
*いつもお読みいただきありがとうございます!
*お気に入り、しおり、エール等も本当にありがとうございます!!
婚約者であるヴィンセント様が、学校では私に近寄る訳でも声を掛ける訳でもないのは変わらず、以前ほどではないもののロザリーを時々見詰めていたのは知っていた。
私にしてみれば、やはり彼が見詰めていたのはロザリーだったのだと改めて認識するに至っただけの事で、自分の中の淡い恋心かな?と思っていた気持ちも今ではすっかり鳴りを潜め騒つきもしない。
それとは別の何かに違和感を感じていた。
が、ある日その正体がわかった。
徐々にではあるが近付いているのだ。
二人の距離が。
そうして注意深く見ているとアイコンタクトを取っている事に気付いた。
ロザリーが愁いを帯びた視線を向けると、ヴィンセント様が眦をほんのり染めた熱い視線を返している。
まるで目で想いを伝え合っている様だ。
それに気付いた私は、この婚約から解放されるのではないかと期待した。
クラーク伯爵家から申し込まれた政略とは言えないような互いに何の利も無い婚約なのだから、ヴィンセント様とロザリーとの関係が上手くいけば、さっさと私との婚約を解消してロザリーと婚約するだろう。
そう期待したとしても仕方ないと思う。だって、彼等以上に私がそれを望んでいたのだから。
けれど、期待というのは裏切られる為にあるのだろうか?
私とヴィンセント様の婚約が解消される気配はこれっぽっちも無かった。
なんで???
爵位も家格も彼方が上なのに!
△▽△▽△▽△▽△
そして状況は悪い方へと加速する……。
あっという間に私は思い合う二人の邪魔をして引き裂く悪役令嬢。
のみならず、親友の恋人を奪うのが好きな女とまで言われている様だ。
何が如何してこうなった!?
クラーク伯爵家から望んで申し込まれた婚約の筈が、いつの間にか私が親に頼み込んで父が上司に拝み倒して申し込んだ事になっていた。
何故!?
道理で最近は、疲労感たっぷりの父が以前よりも遙かに遅い時間に帰宅する訳だ。
そして私の方も全く面識の無い生徒達から(勿論、他学年の生徒達からの分も含まれる。)謂れの無い誹謗中傷を受け、嫌がらせも受けている。
まるで何処かの三文小説の様だ。
以前の針の筵状態もキツかったが、現在の状況はそれ以上である。
四面楚歌……。
味方など何処にも居ないかのような、いつ終わるとも知れない毎日。
流石に心折れ、膝を突きたくなる。
なのに、目の前ではヴィンセント様とロザリーが恋人達といった風情で寄り添いイチャコラしているのを見せつけられる。(しかも周囲がその関係を認めている)
いつまでこの三文芝居に付き合わねばならないのか……。
△▽△▽△▽△▽△
前回以上に変わりそうにない最悪な状況の中でも、何か落ち着かないような…何かが変わるかもしれないような…?そんな淡い期待とも言えない予感を感じ、一人で過ごす時間を無駄にしたくないけれど、かと言って何をしたらいいのかわからず、しかしその時間を有意義に使いたくて学生の本分である勉強を頑張る事にした。
それが功を奏したのか成績が上がると共に学年順位も上がり、初等科が終わって中等科になった時には成績上位者の集まるAクラスに編入されていた。
中等科でAクラスに編入された私は、Aクラスのみ毎朝行われる小テストの勉強をする時間を作る為に、登校時間をそれまでより早くした結果、元クラスメイト達と顔を合わせる事も無くなった。
そう、必然的にあの二人とも顔を合わせずに済んだのだ。
それだけでも精神的にはかなり楽になった。
そして、そのお陰かわからないが嫌がらせの類も減っていったのだ。
Aクラス万歳!
小テストよありがとう!!
などと感謝する事になるとは思わなかったが、嬉しい誤算であった事は間違いない。
あのままの状況を受け容れ続けていたら今の私は居なかっただろう。
そして最悪な結末を想像してゾッとしたのだった。
△▽△▽△▽△▽△
中等科に進級して暫くは相変わらず一人で行動する事が多かった。
が、あの初等科での毎日に比べれば天国と言ってもいいのでは?と思っている。
と言うのも、学園内では建前上身分の上下は無いと言いつつも、Aクラスの者が立ち入るスペースとBクラス以下の一般生徒の立ち入るとスペースは、はっきり分かれていた事も元クラスメイト達と顔を合わせずに済んだ理由の一つだったからだ。
勿論、登下校時に出会す生徒も居たけれど、早朝に登校して来る生徒は自主勉強をする為に来ている生徒が大半を占めており、彼等は誹謗中傷は兎も角、少なくとも嫌がらせには加わっていない。
とは言っても、離れた場所でヒソヒソと噂話をしていたり、遠巻きに見ているだけで止める事もなかったのだが……。
誰だって巻き込まれるのは嫌だというのはわかるから責めるつもりも無い。
仕方なかったのだと今では思えるようになった。
あと、変化があった事はと言うと、父の帰宅時間が少しずつ早くなってきた事と、精神的疲労がかなり軽減されたのか痩けていた頬が元に戻りつつある事だろうか。
ただ一つ「何故か気の毒がられているみたいなのだが…?」と呟いていたのが気になると言えば気になるのだけれど……。
△▽△▽△▽△▽△
一人で行動する事が多いのも仕方の無い事で…。
その理由としては、Aクラスの生徒の殆どが高位貴族家の子息令嬢の中、ウチの子爵家のような低位貴族家の子息令嬢が少ない為、中等科になったからと言っていきなり友人ができる訳ではない。
あと、ヴィンセント様とロザリーと私の醜聞は成績上位者のクラスであるAクラスにまで知れ渡っていた事もあり、少数ではあるが遠巻きに此方をちらちらと見る生徒達や私を見て何やらひそひそ話をしている生徒達がいたけれど、それでも一般クラスの生徒達に比べればかなりマシ。
何せ、Aクラスの生徒達のしている会話の内容からして一般クラスの生徒達とは違っていたからだ。
流行している事等の話はどちらも同じだが、勉強の話や他国情勢、自国や周辺諸国との関係や政治・経済の話…etc.
皆が皆そういった会話をしている訳では無いのだろうが、派閥が同じ生徒達の中でも交わされる会話の内容でハッキリとグループが別れていた。
とは言っても、同じ派閥でなくとも挨拶以外に他愛ない話をしたりはする。
そこには情報収集や情報交換、情報操作といった物が織り込まれていたりするのだが…。
やっぱり、高位貴族の子息令嬢でAクラスともなるとそこまで暇ではないのだろう。
それにある程度の腹芸も必要らしく、そういった腹芸が苦手な私は、尚更同じAクラスの生徒達との交流が難しい。
無事に卒業できるのかしら……。
何にせよ今のところ私に話し掛けて来る生徒も居ないので、休憩時間やランチの時など相変わらず一人で過ごしていると言う訳。
まぁ色々気にしても仕方ないし、絡まれない事は良い事だよね。
~~~~~~~~~
*いつもお読みいただきありがとうございます!
*お気に入り、しおり、エール等も本当にありがとうございます!!
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