秋霖

雫喰 B

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南部辺境伯領で行われた東部・北部・南部辺境騎士団による合同訓練中、魔獣の襲撃を凌いだものの、俺は片目を失いかけるほどの怪我を顔に負った。

 そして、大怪我を負ったニアと婚約者であるニアを蔑ろにした上、ラフレシアとのによるライアンの有責として二人の婚約は破棄され、ニアは心機一転とばかりに冒険者になり以前から気になっていた魔獣と失われた魔法の事を調べる為の旅に出た。

 ニアの父親であるオルカリオン・カーネリアン辺境伯から彼女の護衛を頼まれた俺も勿論一緒だ。

 二人だけの旅になると心浮かれていた俺は、初日から見たくも無い顔を見る羽目になり、正直言って面白くなかった。

 何故か婚約破棄された筈のライアンが同行する事になり、そのライアンのお目付役として、シトリン・カーライルまでいた。

 有り得ない!
 何故、婚約破棄されたライアンがニアと行動を共にするんだ?
 おまけにシトリンだと!?
 なんで選りにも選ってシトリンなんだ?
 お目付役としてこれほど頼りにならない奴はいないだろう?

 だが、ライアンの父である南部辺境伯のセドリックやニアの兄であるアレクサンデル(アレク)からの通達書まで携えている彼等を追い返す事などできない。

どうしてこうなった?

 本来なら俺とニアの二人旅の筈が、何故かライアン恋敵シトリンお邪魔虫が一緒の四人旅。

 お供の護衛二人にう○かり八兵衛って……何処ぞのじゃあるまいし。

 思わず大きな溜息を吐いてしまう。

 そんな俺の気も知らず、早速ニアにちょっかいを出して平手打ちを食らっているライアンとそれを見てへらへら笑っているカーライルにチベスナ顔になる。

 陰鬱な気分にどっぷりと嵌まり込んでいる俺の耳に、明るく軽やかなニアの声が聞こえた。

「ハロルドー!置いて行くわよー!」

 ニアが俺に言うのを聞いて馬の腹を軽く蹴り駆けさせると、すぐ後ろに追い付いた俺を振り返る彼女の笑顔に胸が騒めく。

 俺の身近に居る奴等は、俺がニアを女として愛している事を知っている。

 恐らくニアも……。

 しかし、北部辺境伯家の決まりにより従兄妹同士の俺達は結婚できない。
 血族同士の結婚は禁忌とされているのだ。

 家を捨て、国をも捨てれば結婚できるのだろう。
 だが、その場合は故郷の土を踏む事は二度と叶わない。
 
 俺は兎も角、ニアには其処までの気持ちは無いのだと思う。
 だから俺は、この先彼女に自分の気持ちを伝えるつもりは全くない。

 何より、彼女ニアはまだ彼奴ライアンを愛している。

 口に出して言わないが、いつも彼女を見ている俺にはわかる。
 そして……
 彼奴……ライアンも彼女の事を……。

 二人が何かを約束している訳じゃない。だが、ライアンが正式に廃嫡され、からも解放されたら…。

 その暁には、二人はこのまま野に下り一生を共にする事を考えているのだと……。

 その時には応援するつもりだったんだ。
それは二人を監視する為のお目付役のシトリンも同じだっただろうと思う。

 そして二人が幸せに暮らし、執念と化した俺の初恋も終わるのだと……そう信じていたんだ。


△▽△▽△▽△▽△▽△


 愛する女と恋敵ライアン、そして空気を読まず自ら墓穴を掘るようなツッコミを入れる元同僚シトリンとの旅は思っていた以上に楽しかった。

 楽しすぎて自分達の役目を忘れてしまいそうなほど、このまま旅を続けていたいと望むほど本当に楽しかったんだ。



 途中立ち寄った国で魔獣討伐に加わったり、魔獣関連の文書や記録などを調べたりしながら、最終的にこの大陸の西側に位置するバーデンウッド王国とは反対側(大陸の東側)にあるリーフェンドルフ王国に辿り着く事となる。


 これまでに調べてわかった事はそれほど多くない。

 リーフェンドルフ王国の南に位置するバルディア王国その国境に近いファルクフェルト領で魔獣が大量発生し、その討伐に参加した事で領主であるアーガス・ファルクフェルトと知己を得る事となり、領邸の書物庫での閲覧を許可された。

 書物庫に保管された魔獣関連の書物や記録は希少なだけでなく、これまでに見たどの書物や記録よりも詳細で魔獣の種類も多く精緻な図解付きで閲覧する事ができた事はとても勉強になり有難かった。

 カーネリアン辺境伯家やガーネット辺境伯家が所蔵している物とは比べ物にならないほど詳細な物が沢山あり、特に魔獣に関して新しくわかった事も多かった。

 
 そんなある日、領主のアーガス殿から
「隣国のリーフェンドルフ王国には“最後の魔法使い”がいるという噂があるのを御存知か?」
と言われた。

 此処へ来るまで自分達が知っている事以外で魔法の魔の字も聞いた事等無く、当然そんな魔法使いの噂など一切聞いた事など無かった。

 だから俺達がそれを確かめる為に次の目的地をリーフェンドルフ王国にしたのは至極当然の事だった。

 だが、リーフェンドルフ王国こんな国になんか来るんじゃなかったと、後々酷く後悔する事などこの時の俺達は思ってもみなかったんだ。

~~~~~~~~~

お付き合い(お読み)いただきありがとうございます!
お気に入りやしおり、エール等も本当にありがとうございます!!


 
 

 
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