【改稿版】それでも…

雫喰 B

文字の大きさ
上 下
60 / 60

番外編 ④

しおりを挟む

 別荘内、灯りは全て消されていた。
 一階にある厨房から忍び込んだキースは、暗闇の中音を立てないように進んで行く。

 玄関から入って正面に二階に行く為の大階段があり、階段を上った先は左右に別れて廊下が続いており、部屋が並んでいる。

 リンジーの部屋は右側の奥だった。

 厨房からも大階段の下にある納戸に行く事が出来る。

 そこまで行き見張りがいないか様子を窺うが誰もいなかった。
 まるで、別荘内に入った盗賊達全てが二階へ向かったかのようだった。

 だが二階からは物音一つ聞こえない。

『スージー…。』

 キースはリンジーの専属侍女である妻の名を口にした。
 最悪の事態を想像し、嫌な予感に心臓がドクドクとその鼓動を速める。

 息苦しさを堪え、足音を立てないように二階へと向かった。

 途中、階段や廊下に盗賊の死体が転がっていた。
 全て一撃目か二撃目で殺されているようだった。

 新入りの護衛騎士ではこうはいかない。恐らくローランドだろう。

 知らぬ間にそこまで腕を上げた後輩に舌を巻く。

 この先もずっとリンジーの傍にいる為に、並々ならぬ覚悟と努力で腕を上げたのだろう。

 とはいえ、多勢に無勢。
 警備隊から逃げおおせてここまで来た輩を相手に、如何に腕を上げようと無事では済まないと思う。

 事実、無事であるならその姿を見せてもおかしくはない。
 それは盗賊にも同じ事が言える。
 
 だが、どちらも姿を現さないという事は双方ともたおれたのか。

 否定するかのように首を振った。
 腕を上げたローランド、お嬢様の為と剣術の訓練を頑張った妻。
 あの二人がそう易々とやられたりはしない筈だ。

 皆生きている。そう信じたいのに、この静けさは何だ。
 
 様子を窺い一つ一つ部屋の中を確かめる度に不安ばかりが募っては打ち消すのを繰り返した。

 そしてとうとうリンジーの部屋を残すのみとなった。

 ドクドクと自分の鼓動が煩い。
 部屋の中からは物音一つしない。
 
 覚悟を決めると、祈るような思いで息を詰め部屋の中を見た。

 何人か転がっている死体の顔を一つ一つ確認していく。

 その中に新入りもローランドもいなかった。勿論、リンジーとスージーも。

 隣の衣装部屋を覗いたが誰もいない。盗賊の死体が二つ転がっていただけだった。
 
 残るは寝室のみ。

 と、そちらの方から何か聞こえたような気がした。
 そっと忍び寄り中の様子を窺う。
 扉とベッドの間に置かれた応接セット、そのソファーの後ろに凭れるような形で床に座る人影が見える。

『誰だ?』

 暫く様子を窺うも、動く気配がないので近づき、喉元に剣を突き付けたところで新入りの護衛騎士だとわかった。

「大丈夫か?」

 声を潜めて聞いた。

 薄く目を開け、少しこちらに顔を向けると小さく頷く。

「お嬢様は?」

 そう聞くと、ゆっくり右手を上げ左の肩越しに後ろを指差した。

『隠し部屋か!』

 天蓋付きのベッドと壁の間にサイドボードがあり、それを退けると隠し部屋への小さな扉がある。
 
 中は狭いが二重扉になっており、二枚目の扉は金属製で鍵も二重。
 金属製の扉の装飾にしか見えない模様の一つをずらすと鍵穴があり、その鍵はローランドとスージーと自分が持っている。

 だが、その鍵を開けても内鍵を開けないと扉が開かない仕組みだった。

 まさか……?

 隠し部屋に入られてしまったのだろうか。

 足音を忍ばせ素早くベッドの向こう側へと移動した。

「…っ!?…」

 そこには折り重なるように死体が転がっていた。

 下になっているのは革製の額当てをした短髪の男で、恐らく盗賊達のリーダーだろう。

 その上に重なっているのは……。

「ローランド!!」

 思わず隠し部屋の扉の方を見た。
 
 そこにはサイドボードがあるだけだった。
 リンジーとスージーの姿が無かったという事は二人とも隠し部屋に居て無事だという事だろう。

 ローランドの体を抱え上げ仰向けに寝かせた。
 顔も全身も血で汚れ、最早彼の血か返り血かわからないほどだった。

 彼も深傷を負っているのは間違いない。その証拠に呼吸は浅く、顔色も悪い。
 だが、命に別状は無さそうだった。

 キースはバルコニーに出ると連絡用の花火を打ち上げた。

 直に護衛騎士達が邸内に入って来るだろう。
 
 次にキースはベッド横のサイドボードを退けると一枚目の扉を開け、二枚目の扉をノックしてから外鍵を開けた。

 金属製の扉の内鍵を開ける音がした後、ゆっくりと開いた。

 先ずはスージーがそこから姿を見せ、続いてリンジーも姿を現した。

「ローランド!!」

 キースが声を掛ける前にリンジーがローランドに気付いて駆け寄った。
 血で汚れているのも構わずに名を呼び体を揺する。

「リンジー様、出血が多くて意識を失っていますが命の別状は無いと思われます。」

 不安そうに見上げる彼女に頷いて見せると少し安心したようにローランドの手を握り、顔を覗き込んでいた。

 隣に立って涙ぐみながらその様子を見守っていたスージーを抱き締めた。

「ち、ちょっ……?!」

 驚いている彼女の顔を覗き込んだ後、頭をワシャワシャと撫でた。

「ちょッ、何すんのよ。」

 腕の中から逃れようと暴れるが構わず抱き締め、無事で良かったと言うと大人しくなった。

 震えているスージーを抱き締めながら、恐ろしい思いをしたのだと再認識した。

「お嬢様を護って、偉かったな。」

 我慢していたのだろう。
 声を押し殺して涙を流していた。

 皆無事で良かった。
 本当にそう思った。

 そして、胸の内だけでこの先もローランドがリンジーの傍に居る事が出来る事を喜んだ。

 恐らくお館様も認められるだろう。

 この後、リンジーとスージー、負傷者達は無事だった客間で休む事になり、それ以外の者は別荘の周囲で野営する事になったのだった。

 そして夜明け前にお館様、カスペラード伯が到着した。

 事後処理は、マーカスとタークスがする事になり、キースとスージー、ローランドは休暇を取るように命じられ(でないと三人とも仕事をするから。)、領都の邸に戻された。

 勿論、リンジーも一緒だった。

 そして、キースの予想通りローランドがリンジーの傍に立つ事に異を唱える者はいなくなった。



 数年後、キースとスージーの子供達はローランドとスージーの子供達に仕える事になるのだが、それはまた別の話である。



── 完 ──


 
 長い間更新出来ずにすみませんでした。

 【感謝御礼!!】なのに……。

 本当に申し訳ないです。

 他の更新が滞っている物語も読んで下さる方がいる限り更新、完結させる予定ですので長い目で見て頂ければ幸いです。

 物語を紙に書き留めておければいいのですが、入力する時になって登場人物達が好き勝手に暴走して話が全然違う方向に……。

 で、書き直しになったのがこの物語で、他の物語も紙に書き留めると同じ事に……。

 なので、登場人物の名前や設定、プロット、決まっている台詞等以外は紙に書き留めていません。

入力するだけなら楽なんですけど……。

 物語に没入して書く為、二千字~三千字を書くのに二~三時間掛かります。

 なので、少しずつ書いていったりしています。

 おまけに他の事も掛け持ち、読み専状態……。(しかも、最新話になかなか追いつけない。でも、お気に入りの作者様の作品は面白いので読みたい!我が儘ですみません。;)

 また物語でお会い出来る日を楽しみにしています。

 お読み頂き本当にありがとうございました


 
 
 
 


 
 

 


 

 
 

 
しおりを挟む
感想 5

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(5件)

ぶどう味
2022.09.24 ぶどう味

完結お疲れ様でした。

更新してくださり感謝してます!

続きが、ずっと気になってました。

あの馬鹿王子の親である、陛下と妃殿下には納得出来なかった、(婚約破棄しなかった)
いくら死んでやる!って言って破棄しなくても国が滅びるのに〜!って、ムキになってしまいました。

ローランドは甘かったけど周りの人達が厳しくしてくれて良かった、、
リンジーが何回も辛い目にあって可哀想だったけど最後は幸せになって良かった。(ごめんなさいローランドはどうでもいいかな)

更新大変でしたね、ありがとうございました。

解除
nico
2022.06.21 nico

ローランド、能無し認定、仲間にされてる~🤣🤣🤣
頼んないヤツ、またヘタこくゾと…
なんでそんなんが専属護衛なのかが???
変なフラグ立ってキース死なないでね~💦💦

2022.06.21 雫喰 B

いつも感想をありがとうございます。
(っ´ω`c)

 ローランド、成長するんでしょうか?
 まぁ、本編は完結してて、リンジーと結婚してるんで、成長しているとは思いますが、どの程度やら……。

 長い目で見てやって下さい。
(^◇^;)

解除
nyanchan
2022.05.18 nyanchan

二度も同じ失態を犯したアホを許して娘の婿にする領主って、人を見る目がない上に人の上に立つ力量が無い人間でしょ。
事情を知る人間とその話を聞いた人間はきっと
「領主一族の人間の命を危険に晒しても領主は許してくれるから何しても大丈夫」
って思うでしょうね。
そう思われないよう、上に立つ人間は厳しい判断をしなきゃいけないのに…
まして一度失態を犯した事を許して名誉挽回のチャンスを与えたのに、みすみすそのチャンスを逃して失態の上塗りした奴なんて普通だったら罷免や追放、悪ければ処刑という処分をされてもおかしくないはず。
なのに娘婿にまでするなんて、余程娘が可愛く無いみたい。
この父親は人を見る目がない上に親として能力も無いみたい。

2022.05.18 雫喰 B

いつもお読み頂きありがとうございます。そして、この物語や、他の物語でも感想を頂き、ありがとうございます。
 
 以前、他のスペースで、この物語の番外編を書く事をご報告しました。
 その時に、リンジーとローランド二人の事を何処まで書こうか悩みました。

 そして、割と初期の作品だったので、私の文章力の無さに、笑うしか無かったです。

 nyanchanさんと同じ解釈をした方もいるかもしれないと思い、この物語の登場人物を何処まで理解して頂けるか……?今の私の文章力で何処まで書けるか分かりませんが、その辺りも書いてみようと思いました。

 なので、ありがとうございます。

番外編を読んだ感想も書いて頂ければ有り難いです。

本当にありがとうございました。

 
 

解除

あなたにおすすめの小説

愚かな者たちは国を滅ぼす【完結】

春の小径
ファンタジー
婚約破棄から始まる国の崩壊 『知らなかったから許される』なんて思わないでください。 それ自体、罪ですよ。 ⭐︎他社でも公開します

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

悪役令嬢を陥れようとして失敗したヒロインのその後

柚木崎 史乃
ファンタジー
女伯グリゼルダはもう不惑の歳だが、過去に起こしたスキャンダルが原因で異性から敬遠され未だに独身だった。 二十二年前、グリゼルダは恋仲になった王太子と結託して彼の婚約者である公爵令嬢を陥れようとした。 けれど、返り討ちに遭ってしまい、結局恋人である王太子とも破局してしまったのだ。 ある時、グリゼルダは王都で開かれた仮面舞踏会に参加する。そこで、トラヴィスという年下の青年と知り合ったグリゼルダは彼と恋仲になった。そして、どんどん彼に夢中になっていく。 だが、ある日。トラヴィスは、突然グリゼルダの前から姿を消してしまう。グリゼルダはショックのあまり倒れてしまい、気づいた時には病院のベッドの上にいた。 グリゼルダは、心配そうに自分の顔を覗き込む執事にトラヴィスと連絡が取れなくなってしまったことを伝える。すると、執事は首を傾げた。 そして、困惑した様子でグリゼルダに尋ねたのだ。「トラヴィスって、一体誰ですか? そんな方、この世に存在しませんよね?」と──。

記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした 

結城芙由奈@コミカライズ発売中
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。

貴方だけが私に優しくしてくれた

バンブー竹田
恋愛
人質として隣国の皇帝に嫁がされた王女フィリアは宮殿の端っこの部屋をあてがわれ、お飾りの側妃として空虚な日々をやり過ごすことになった。 そんなフィリアを気遣い、優しくしてくれたのは年下の少年騎士アベルだけだった。 いつの間にかアベルに想いを寄せるようになっていくフィリア。 しかし、ある時、皇帝とアベルの会話を漏れ聞いたフィリアはアベルの優しさの裏の真実を知ってしまってーーー

だから聖女はいなくなった

澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
「聖女ラティアーナよ。君との婚約を破棄することをここに宣言する」 レオンクル王国の王太子であるキンバリーが婚約破棄を告げた相手は聖女ラティアーナである。 彼女はその婚約破棄を黙って受け入れた。さらに彼女は、新たにキンバリーと婚約したアイニスに聖女の証である首飾りを手渡すと姿を消した。 だが、ラティアーナがいなくなってから彼女のありがたみに気づいたキンバリーだが、すでにその姿はどこにもない。 キンバリーの弟であるサディアスが、兄のためにもラティアーナを探し始める。だが、彼女を探していくうちに、なぜ彼女がキンバリーとの婚約破棄を受け入れ、聖女という地位を退いたのかの理由を知る――。 ※7万字程度の中編です。

どうも、死んだはずの悪役令嬢です。

西藤島 みや
ファンタジー
ある夏の夜。公爵令嬢のアシュレイは王宮殿の舞踏会で、婚約者のルディ皇子にいつも通り罵声を浴びせられていた。 皇子の罵声のせいで、男にだらしなく浪費家と思われて王宮殿の使用人どころか通っている学園でも遠巻きにされているアシュレイ。 アシュレイの誕生日だというのに、エスコートすら放棄して、皇子づきのメイドのミュシャに気を遣うよう求めてくる皇子と取り巻き達に、呆れるばかり。 「幼馴染みだかなんだかしらないけれど、もう限界だわ。あの人達に罰があたればいいのに」 こっそり呟いた瞬間、 《願いを聞き届けてあげるよ!》 何故か全くの別人になってしまっていたアシュレイ。目の前で、アシュレイが倒れて意識不明になるのを見ることになる。 「よくも、義妹にこんなことを!皇子、婚約はなかったことにしてもらいます!」 義父と義兄はアシュレイが状況を理解する前に、アシュレイの体を持ち去ってしまう。 今までミュシャを崇めてアシュレイを冷遇してきた取り巻き達は、次々と不幸に巻き込まれてゆき…ついには、ミュシャや皇子まで… ひたすら一人づつざまあされていくのを、呆然と見守ることになってしまった公爵令嬢と、怒り心頭の義父と義兄の物語。 はたしてアシュレイは元に戻れるのか? 剣と魔法と妖精の住む世界の、まあまあよくあるざまあメインの物語です。 ざまあが書きたかった。それだけです。

婚約破棄されましたが、帝国皇女なので元婚約者は投獄します

けんゆう
ファンタジー
「お前のような下級貴族の養女など、もう不要だ!」  五年間、婚約者として尽くしてきたフィリップに、冷たく告げられたソフィア。  他の貴族たちからも嘲笑と罵倒を浴び、社交界から追放されかける。 だが、彼らは知らなかった――。 ソフィアは、ただの下級貴族の養女ではない。 そんな彼女の元に届いたのは、隣国からお兄様が、貿易利権を手土産にやってくる知らせ。 「フィリップ様、あなたが何を捨てたのかーー思い知らせて差し上げますわ!」 逆襲を決意し、華麗に着飾ってパーティーに乗り込んだソフィア。 「妹を侮辱しただと? 極刑にすべきはお前たちだ!」 ブチギレるお兄様。 貴族たちは青ざめ、王国は崩壊寸前!? 「ざまぁ」どころか 国家存亡の危機 に!? 果たしてソフィアはお兄様の暴走を止め、自由な未来を手に入れられるか? 「私の未来は、私が決めます!」 皇女の誇りをかけた逆転劇、ここに開幕!

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。