【改稿版】それでも…

雫喰 B

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50.中途半端 ①

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僕は一生忘れないだろう。
あの姉妹の最後の時を…。

    

    あの日、ヤコブ村に二人の騎士がやって来た。

    本物の(警備隊員ではない)騎士を見たと、僕に言いに来た友人達は、興奮冷めやらぬといった感じで、口々にその格好良さを力説していた。

    でも、シャロの事があるから、彼女がやった事がバレやしないかと、僕は不安でいっぱいで、友人達のように憧憬の対象として見る事ができなかった。

    二人の騎士は僕の予想通り、事件について村人達から話を聞く為にこの村に来たのだった。

    殆どの村人が話を聞かれたけど、まだ僕の所までは聞きに来ていなかった。
    でも、村で見掛ける度に僕の方を見ていたのは知っていた。

    だから、時間が経つにつれて、二人を見る時の僕の顔色は悪かったのだとと思う。

    二人から、話が聞きたいからと呼び出された時、身構えていた僕は肩透かしを食らった。他愛もない世間話をしだしたからだ。

    そして、僕が気を緩めた瞬間、いきなり核心を突いた質問をされた。

「君は、あの姉妹がした事を知っていたね。」

    いきなりそう聞かれた僕は、動揺した事でそれを認める形になってしまった。

    心の中で彼女に謝った。

『ごめん…シャロ。僕には、この二人の追及から逃れる術はないよ…。』

    とはいっても、シャロがリーゼロッテを止める時間ぐらいは何とか稼ぎたかった。

    けど、僕はバカだった。
    黙秘して時間稼ぎをした為に、君を永遠に失う事になってしまったのだから…。

    やがて、ポツリポツリと知っている事を話していくと、タークスの後ろにいたマーカスという名の騎士の顔が徐々に険しくなっていった。

    そして、僕がマーカスの顔色を窺って、チラチラと見ていた事に気づいたタークスが彼に聞いた。

「マーカス、何かあるのか?」
「…いや…俺の気の所為ならいいんだが…。」

    眉間に皺を寄せて言う彼を見て、タークスの顔色が変わった。

「マジかよ…。」

    呟いた彼の言葉が凄く気になった。

「何です?」

    僕は思わず聞くと、マーカスが

「イアンだっけ?お前にも一緒に来てもらわないと…。おい、タークス、戻るぞ。」
「何だよ…まさか、そうなのか?」
「あぁ、類友だな…。」

   何か二人だけで分かるような話をしている。

    そして、警備隊の騎士に、僕の家族へ伝言を頼んでいるのを見て、嫌な予感しかしなかった。

「姉妹を村長夫妻の養子にする時に、その後見人になったローランドに事情を説明させる為にイアンを、領都に連れて行く。」と言っていたからだ。

    そこからは、馬に乗れるかどうか聞かれ、乗れると言うと、急ぐから馬に乗れと言われた。

    途中で話を聞こうと思って聞いたけど、はぐらかされるだけで、肝心な事は教えてもらえなかった。

    訳も分からず、殆ど休憩無しで馬を走らせる。
    ただ、途中でタークスが「それだけ深刻って事か…」と、呟いた。

    それを聞いた僕は、自分がした時間稼ぎの所為で、とんでもない事になっていると気づいた。

    丸三日、殆ど休憩無しで馬を走らせ、目的地に到着した時、フラフラだったけど、必死で走った。

    そして、僕が見たのは姉妹の最後の姿だった。

    姉のリーゼロッテは既に死んでいて、シャロも意識を失っていた。

    何度も彼女を呼んだ。

    けど…シャロの眼は、二度と開かれる事はなかった。

    僕はそこで彼女の言葉の本当の意味を知る。

   だから彼女は僕に“生きて”と約束させたのだ。

    …なのに僕は、そんな事にも気づかずに…。

   時間稼ぎなんて、中途半端な事をしたから…。

~~~~~

「お館様がお呼びです。」

    と、キースに言われ、執務室を兼ねている書斎に行った。

    扉をノックすると、中から「入れ。」と、返事があったので中に入った。

「ご無沙汰しております。お呼びだと聞いたのですが、何かご用ですか?」

    父の前まで行き、挨拶もそこそこに切り出した。

    椅子から立ち上がり、私にハグをした後、片手でソファーの方を指し示した。

    勧められるままに移動すると、向かい側に座り、執事にお茶を淹れさせた。

    お茶を一口飲んだ後、暫く何から話すか考えているようだった。
    手に持ったカップをテーブルに置き、話し出した。

「少しだが、立って歩けるようになったと聞いた。」
「はい。…でも、お話というのはその事ではないのでしょう?」

    少し黙った後溜め息混じりに言った。

「う…いや、まぁ…そうだな。」

    何処か歯切れが悪い。

「あの姉妹は…一体…?」
「ローランドが北部辺境の砦で警備隊にいた時…と言っても、五年程前に保護したそうだ。」
「五年前…というと、当時はまだ子供ではないですか?!」
「ああ、そうだ。そして、ノーザンアークの攻撃部隊にいたらしい…。」
「戦闘に参加していたと…?」
「戦闘に参加していたのは、姉の方だけのようだが、ローランドとキースが保護した後、砦近くのヤコブ村の村長夫妻が養子にした時にローランドが後見人になったという話だった。」

    父から聞いて初めて知った。
    ローランドは姉妹の事…少なくとも、リーゼロッテの事は村長夫妻の娘だと…兄のように慕っていた自分を追いかけて来た。としか教えてくれなかった。

    では、やはりあの少女はリーゼロッテの妹で間違い無いという事になる。

    姉妹で刺し違えるなんて…。

    その事に気分が悪くなる。
    顔色が悪くなった私を気遣ったのか、この件に関してそれ以上の事は教えてもらえなかった。

    が、後日、詳細を教えてもらう約束を取り付けて、その日は部屋を下がったのだった。
     



    
    


    

    


    


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