50 / 60
50.中途半端 ①
しおりを挟む僕は一生忘れないだろう。
あの姉妹の最後の時を…。
あの日、ヤコブ村に二人の騎士がやって来た。
本物の(警備隊員ではない)騎士を見たと、僕に言いに来た友人達は、興奮冷めやらぬといった感じで、口々にその格好良さを力説していた。
でも、シャロの事があるから、彼女がやった事がバレやしないかと、僕は不安でいっぱいで、友人達のように憧憬の対象として見る事ができなかった。
二人の騎士は僕の予想通り、事件について村人達から話を聞く為にこの村に来たのだった。
殆どの村人が話を聞かれたけど、まだ僕の所までは聞きに来ていなかった。
でも、村で見掛ける度に僕の方を見ていたのは知っていた。
だから、時間が経つにつれて、二人を見る時の僕の顔色は悪かったのだとと思う。
二人から、話が聞きたいからと呼び出された時、身構えていた僕は肩透かしを食らった。他愛もない世間話をしだしたからだ。
そして、僕が気を緩めた瞬間、いきなり核心を突いた質問をされた。
「君は、あの姉妹がした事を知っていたね。」
いきなりそう聞かれた僕は、動揺した事でそれを認める形になってしまった。
心の中で彼女に謝った。
『ごめん…シャロ。僕には、この二人の追及から逃れる術はないよ…。』
とはいっても、シャロがリーゼロッテを止める時間ぐらいは何とか稼ぎたかった。
けど、僕はバカだった。
黙秘して時間稼ぎをした為に、君を永遠に失う事になってしまったのだから…。
やがて、ポツリポツリと知っている事を話していくと、タークスの後ろにいたマーカスという名の騎士の顔が徐々に険しくなっていった。
そして、僕がマーカスの顔色を窺って、チラチラと見ていた事に気づいたタークスが彼に聞いた。
「マーカス、何かあるのか?」
「…いや…俺の気の所為ならいいんだが…。」
眉間に皺を寄せて言う彼を見て、タークスの顔色が変わった。
「マジかよ…。」
呟いた彼の言葉が凄く気になった。
「何です?」
僕は思わず聞くと、マーカスが
「イアンだっけ?お前にも一緒に来てもらわないと…。おい、タークス、戻るぞ。」
「何だよ…まさか、そうなのか?」
「あぁ、類友だな…。」
何か二人だけで分かるような話をしている。
そして、警備隊の騎士に、僕の家族へ伝言を頼んでいるのを見て、嫌な予感しかしなかった。
「姉妹を村長夫妻の養子にする時に、その後見人になったローランドに事情を説明させる為にイアンを、領都に連れて行く。」と言っていたからだ。
そこからは、馬に乗れるかどうか聞かれ、乗れると言うと、急ぐから馬に乗れと言われた。
途中で話を聞こうと思って聞いたけど、はぐらかされるだけで、肝心な事は教えてもらえなかった。
訳も分からず、殆ど休憩無しで馬を走らせる。
ただ、途中でタークスが「それだけ深刻って事か…」と、呟いた。
それを聞いた僕は、自分がした時間稼ぎの所為で、とんでもない事になっていると気づいた。
丸三日、殆ど休憩無しで馬を走らせ、目的地に到着した時、フラフラだったけど、必死で走った。
そして、僕が見たのは姉妹の最後の姿だった。
姉のリーゼロッテは既に死んでいて、シャロも意識を失っていた。
何度も彼女を呼んだ。
けど…シャロの眼は、二度と開かれる事はなかった。
僕はそこで彼女の言葉の本当の意味を知る。
だから彼女は僕に“生きて”と約束させたのだ。
…なのに僕は、そんな事にも気づかずに…。
時間稼ぎなんて、中途半端な事をしたから…。
~~~~~
「お館様がお呼びです。」
と、キースに言われ、執務室を兼ねている書斎に行った。
扉をノックすると、中から「入れ。」と、返事があったので中に入った。
「ご無沙汰しております。お呼びだと聞いたのですが、何かご用ですか?」
父の前まで行き、挨拶もそこそこに切り出した。
椅子から立ち上がり、私にハグをした後、片手でソファーの方を指し示した。
勧められるままに移動すると、向かい側に座り、執事にお茶を淹れさせた。
お茶を一口飲んだ後、暫く何から話すか考えているようだった。
手に持ったカップをテーブルに置き、話し出した。
「少しだが、立って歩けるようになったと聞いた。」
「はい。…でも、お話というのはその事ではないのでしょう?」
少し黙った後溜め息混じりに言った。
「う…いや、まぁ…そうだな。」
何処か歯切れが悪い。
「あの姉妹は…一体…?」
「ローランドが北部辺境の砦で警備隊にいた時…と言っても、五年程前に保護したそうだ。」
「五年前…というと、当時はまだ子供ではないですか?!」
「ああ、そうだ。そして、ノーザンアークの攻撃部隊にいたらしい…。」
「戦闘に参加していたと…?」
「戦闘に参加していたのは、姉の方だけのようだが、ローランドとキースが保護した後、砦近くのヤコブ村の村長夫妻が養子にした時にローランドが後見人になったという話だった。」
父から聞いて初めて知った。
ローランドは姉妹の事…少なくとも、リーゼロッテの事は村長夫妻の娘だと…兄のように慕っていた自分を追いかけて来た。としか教えてくれなかった。
では、やはりあの少女はリーゼロッテの妹で間違い無いという事になる。
姉妹で刺し違えるなんて…。
その事に気分が悪くなる。
顔色が悪くなった私を気遣ったのか、この件に関してそれ以上の事は教えてもらえなかった。
が、後日、詳細を教えてもらう約束を取り付けて、その日は部屋を下がったのだった。
0
お気に入りに追加
121
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完結】美しい人。
❄️冬は つとめて
恋愛
「あなたが、ウイリアム兄様の婚約者? 」
「わたくし、カミーユと言いますの。ねえ、あなたがウイリアム兄様の婚約者で、間違いないかしら。」
「ねえ、返事は。」
「はい。私、ウイリアム様と婚約しています ナンシー。ナンシー・ヘルシンキ伯爵令嬢です。」
彼女の前に現れたのは、とても美しい人でした。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
帰国した王子の受難
ユウキ
恋愛
庶子である第二王子は、立場や情勢やら諸々を鑑みて早々に隣国へと無期限遊学に出た。そうして年月が経ち、そろそろ兄(第一王子)が立太子する頃かと、感慨深く想っていた頃に突然届いた帰還命令。
取り急ぎ舞い戻った祖国で見たのは、修羅場であった。
【掌編集】今までお世話になりました旦那様もお元気で〜妻の残していった離婚受理証明書を握りしめイケメン公爵は涙と鼻水を垂らす
まほりろ
恋愛
新婚初夜に「君を愛してないし、これからも愛するつもりはない」と言ってしまった公爵。
彼は今まで、天才、美男子、完璧な貴公子、ポーカーフェイスが似合う氷の公爵などと言われもてはやされてきた。
しかし新婚初夜に暴言を吐いた女性が、初恋の人で、命の恩人で、伝説の聖女で、妖精の愛し子であったことを知り意気消沈している。
彼の手には元妻が置いていった「離婚受理証明書」が握られていた……。
他掌編七作品収録。
※無断転載を禁止します。
※朗読動画の無断配信も禁止します
「Copyright(C)2023-まほりろ/若松咲良」
某小説サイトに投稿した掌編八作品をこちらに転載しました。
【収録作品】
①「今までお世話になりました旦那様もお元気で〜ポーカーフェイスの似合う天才貴公子と称された公爵は、妻の残していった離婚受理証明書を握りしめ涙と鼻水を垂らす」
②「何をされてもやり返せない臆病な公爵令嬢は、王太子に竜の生贄にされ壊れる。能ある鷹と天才美少女は爪を隠す」
③「運命的な出会いからの即日プロポーズ。婚約破棄された天才錬金術師は新しい恋に生きる!」
④「4月1日10時30分喫茶店ルナ、婚約者は遅れてやってきた〜新聞は星座占いを見る為だけにある訳ではない」
⑤「『お姉様はズルい!』が口癖の双子の弟が現世の婚約者! 前世では弟を立てる事を親に強要され馬鹿の振りをしていましたが、現世では奴とは他人なので天才として実力を充分に発揮したいと思います!」
⑥「婚約破棄をしたいと彼は言った。契約書とおふだにご用心」
⑦「伯爵家に半世紀仕えた老メイドは伯爵親子の罠にハマり無一文で追放される。老メイドを助けたのはポーカーフェイスの美女でした」
⑧「お客様の中に褒め褒めの感想を書ける方はいらっしゃいませんか? 天才美文感想書きVS普通の少女がえんぴつで書いた感想!」
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
果たされなかった約束
家紋武範
恋愛
子爵家の次男と伯爵の妾の娘の恋。貴族の血筋と言えども不遇な二人は将来を誓い合う。
しかし、ヒロインの妹は伯爵の正妻の子であり、伯爵のご令嗣さま。その妹は優しき主人公に密かに心奪われており、結婚したいと思っていた。
このままでは結婚させられてしまうと主人公はヒロインに他領に逃げようと言うのだが、ヒロインは妹を裏切れないから妹と結婚して欲しいと身を引く。
怒った主人公は、この姉妹に復讐を誓うのであった。
※サディスティックな内容が含まれます。苦手なかたはご注意ください。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
人生を共にしてほしい、そう言った最愛の人は不倫をしました。
松茸
恋愛
どうか僕と人生を共にしてほしい。
そう言われてのぼせ上った私は、侯爵令息の彼との結婚に踏み切る。
しかし結婚して一年、彼は私を愛さず、別の女性と不倫をした。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる