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46. 呆気ない幕切れ
しおりを挟むヤコブ村で聞いた姉妹の話。相棒のタークスは、げんなりした顔をしていたが、辺境の小さな村の事件だと、退屈に思っていた俺は、俄然やる気になった。
村の住人達から聞いた話だと、蓬と、山鳥兜を間違えて食べて死んだ。とか、よくある話だと思い、適当に話を聞いていた。
それが、イアンという名の姉妹の幼馴染みから聞いていた話に興味が湧いてきた。
というのも、イアンに聞いた話が本当なら、今までその姉妹の周辺で死んだ人間の数が多すぎるし、不自然さを感じたからだった。
だが、話を聞いている内に、ヤバいと思った。彼女達が俺と同類ならば、その執着心は、半端ない。
思わず、執着された人間に同情した。
が、邪魔になるものは徹底して排除にまわるとなると、お嬢様が危ない。
タークスとイアンを連れて向かった別荘で俺達が見た光景は、一見すると、再会した姉妹の抱擁にしかみえなかった。
が、その光景が何を表すか分かっていた俺の口から出た言葉は
「遅かったか…。」
だった。
タークスとイアンが俺の顔を見るのと、ほぼ同時に姉の方の身体が傾き、地面に倒れた。
俺達は彼女達の方へ駆け出した。
~~~~~
その日、私はスージーと二人で庭を散策していた。
勿論、歩く練習を兼ねて。
車椅子から立ち上がり、スージーに片手を預けた状態でゆっくりと歩いていく。
「ここまで歩けるようになったのね…。」
後ろを振り返り、自分が歩いた距離を見て、嬉しくて感動していた。
それはスージーも同じだったみたいで、眼に涙を浮かべて、
「お嬢様の頑張りが報われてよろしゅうございました。」
と褒めてくれた。
その時、植え込みの陰からガサガサと音を立てながら何かが出てきた。
リーゼロッテだった。
「チッ!」と舌打ちをしたかと思うと、私を背中に庇うように、リーゼロッテとの間に立つスージー。
目の前のスージーがいないかのように、その後ろにいる私を見ているような昏い眼をしている彼女。
背筋がゾクゾクして、冷たい嫌な汗が背中を伝うみたいな感じがした。
『 何だか怖い…。』
それがスージーにも伝わったのか、後ろに行かせないといった風に、片手で私を庇いながら少しずつ後退る。
何時もなら、リーゼロッテと一緒に居る筈のローランドが居ない。
それどころか、キースまで居ないなんて…。
だから、私の前に出て来たのか…。
スージーを抑えて、彼女の前に出ようとした。
雇い主であるカスペラード家の者として、使用人を護る責任が私にはある。
けれど、スージーは譲るつもりは無いらしかった。
リーゼロッテが大きく一歩前に出た。一瞬、スージーの注意がそれた隙に彼女の前に出た。
「お嬢様ッ!?」
リーゼロッテの口角が上がる。
彼女の何の感情も宿っていないような眼を睨み付けた。
彼女が僅かに首を傾げた。
その時にそれは起こった。
誰かが私とリーゼロッテの間に割って入ったのだと分かるまでそれ程時間はかからなかった。
私よりも背の低い少女だと分かった。リーゼロッテがその少女の背中に腕を回した。
何かが光ったと思ったら、それは吸い込まれるように、その少女の背中に突き立てられた。
少女の背中に生えているのは、ナイフだった。
柄に装飾を施されたそれは以前、ローランドが持っているのを見た事があった。
リーゼロッテの身体が傾き、ドサリと地面に倒れ込んだ。
少女は少し振り返って私を見た後、手に持っていたナイフを捨てた。
彼女が一歩前に踏み出した時、
「動いちゃダメ!」
と言ったけれど、聞こえていなかったのか、地面に膝をつくと血塗れの手でリーゼロッテの頬を撫でている。
私は地面に縫い付けられたみたいに一歩も動けなかった。
スージーが私の肩に手を置くと首を左右にゆっくりと振った。
そこへタークスと二人の男性が駆けてきた。
リーゼロッテと少女の傍で三人共立ち尽くしていた。
少女はそんな事などお構いなしに、リーゼロッテの頬を撫でていた。
「お姉ちゃんが悪いんだよ。私を捨てて行くから…。」
「「「「「 ッ!? 」」」」」
「でも、これで…ずっと一緒…。」
そこまで言うと、リーゼロッテの胸に頭を乗せた。
「何だか眠い…から…。」
少女はそのまま瞼を閉じた。
ヒュッと誰かが息を呑んだ。
見ると、少女と変わらないぐらいの年の少年だった。
彼は恐々少女に手を伸ばすと叫んだ。
「シャ…ロン?シャロン!シャローンッ!」
そして、彼女の名を呼びながら、肩を揺すった。揺り起こすように…。
タークスが地面に片膝をつき、二人の首に指を当て、私の方を見上げると、首を左右に振った。
それを見た少年が少女の身体に取り縋り泣き叫ぶ。
タークスは彼の肩に手を置き、何か囁くと立たせた。
「…お嬢様、申し訳ありませんが、このまま御前を失礼します。」
そう言って三人は下がって行った。
そこへキースが私の車椅子を押して現れた。
「お嬢様、どうぞ。」
立っているのが辛かった私は車椅子に乗った。
そして、ローランドも何人か使用人を連れて現れた。その後ろからは、荷車を押した使用人が来ていた。
ローランドは地面に片膝をつくと肩を小刻みに震わせ、声を押し殺して泣いているようだった。
二人の亡骸は、使用人達によって荷車に乗せられ、運ばれて行った。
「お館様がお呼びです。」
それだけ言うと、青い顔をしたスージーを連れて先に別荘に戻って行った。
残された私は、ローランドに何て言ったらいいか分からなかった。
「先に戻るわね。」
それだけ言い置いて別荘へ向かった。
その後方で、ローランドはまだ俯いて肩を震わせていた。
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