44 / 60
44. 姉妹
しおりを挟む「こんな…こんな事って…。」
椅子から崩れ落ちた私は、同じように床に転がり、のたうちまわる養父母を見て、何とか手を伸ばそうとした。
けれど、涙で視界が歪み、喉の奥が焼けるように熱くて痛いくて苦しくて、息が出来ない。
目の前の養父母の身体が痙攣しだした。二人とも白眼を剥いていたが、やがて動かなくなった。
ウソ!そんなッ?!
言葉を紡ぐ筈の唇から出たのは、「う”ぐゥッ…うぐぉぁ…。」という呻き声のような音だった。
そして私の身体も痙攣しだしたのか、小刻みに震え、ビクッ!ビクッ!と時々身体が跳ねた。
視界が完全に黒く染まる頃、誰かが私の名前を叫んでいるのが聞こえたような気がしたけれど、私の意識はそこで途切れた。
~~~~~
目の前で、床に転がり、白眼を剥いて痙攣している養父母がいる。
二人に手を伸ばした時、その姿が 7年前に死んだ母親に変わり、誰か分からない男性に変わり、最後は小さな赤ん坊に変わっていった。
私は何も出来ず、ただジッとそれを見ている事しか出来なかった。
どのくらい意識が無かったのか分からないけれど、私が目を覚ました時、無機質な感じの白い天井が見えた。
記憶に無いそれは、私の部屋の天井じゃなかった。
ぼんやりとその天井を見ながら、何故、自分がここにいるのか考えていた。
目の前で椅子から崩れ落ちた養父母…。
その光景を思い出し、起き上がろうとしたけど、頭が痛くて、視界がグラリとした直後、嘔吐した。
自分の身体に何が起きたか分からず、酷く狼狽えた。
『何? 何なの?!』
酷い頭痛と、誰かに頭を力一杯、無理矢理揺らされているかのような眩暈、そして嘔吐…。
ベッドの上に起き上がる事も出来ず、養父母や姉がどうなったかも分からない。
と、そこで養父母や私が床でのたうち回っていた時に、姉が居なかった事を思い出した。
何処かに出掛けていた?…いや、違う。なんで居なかったの?…頭が割れるように痛い。
『お姉ちゃん…何処に…?』
記憶に混乱が生じている。そう思ったけど、頭痛と眩暈が酷くて、何も考えられなくなり、私は意識を失った。
次に眼を覚ました時、白いワンピースに大きなエプロンをした女の人が、私の傍にいた。
「良かった。眼が覚めたのね。気分はどう?」
答える事が出来なくて、ゆっくりと首を左右に動かした。
「そう。…じゃあ、自分の名前はわかる?」
小さく頷いた。
「ここはね、村から一番近いヤハヴェっていう町の診療所なのよ。だから安心してまだ寝てていいわ。」
また小さく頷くと、その女の人は、ホッとしたように微笑んだ。
そして、色んな事を一気に思い出した。
姉が、ローランドを追いかけて家出した事や、それと同じ頃に、村で立て続けに人が何人か亡くなった事などを…。
~~~~~
村では、姉が居なくなる前日の夜に、何人か亡くなった。
その事で養父母も忙しく 、姉が残していった手紙で、家出をした事が分かっても、追いかける事もどうする事も出来なかった。
それでも、何とか警備隊に届け出て、領邸の家令であるアーリントン様に手紙を出したのだった。
その時、何で家令のアーリントン様に手紙を出したのか聞くと、ローランドがアーリントン様の息子なのだと説明された。
そして、彼の不在時に何かあった時、連絡してくれと言っていた事も…。
姉はその事を知っていたのだろうか?
恐らく知っていたのだろう。どうやって知ったのかまでは分からないけど…。
姉の性格だったら何も知らない相手を追いかけるなんて無茶はしないで、諦めると思う。
そして、姉は私を置いてきぼりにして、彼を追いかけて行ったんだと思うと、悲しくて涙が出てきた。
この世で血の繋がった家族は、姉だけなのに…。
~~~~~
ローランドに会えた私は、その時養父母や妹がそんな事になっているなんて知らずに、彼に会えた嬉しさに舞い上がっていた。
優しい彼のことだから、追いかけてここまで来た私を追い返したりしない。
このまま、彼の傍で暮らしていれば、彼とそういう関係になる機会もあるだろうから。
既成事実があれば、優しい彼は私と結婚してくれる。
それにいつも一緒にいれば、私に対して情も涌なんて甘く考えていた。
だって、彼はいつも優しかった。本当は私の事が好きだけど、いつか実家に戻らないといけないから、その気持ちを抑えていただけ。
私は彼の気持ちを汲んでここまで来た。
きっと彼は私を受け入れてくれると思って…。
なのに、お嬢様だか何だか知らないけど、まともに歩けなくなる程の大怪我をした時に、偶々近くにいた彼の罪悪感を利用して、事ある毎に、牡蠣のようにへばり付こうとするあの女…。
あの女さえ居なければ、彼は私の物になる。
そんな事で頭がいっぱいになっていた私は、ヤコブ村にいる妹が、とんでもない事になっているなんて知らなかった。
自分が幸せになる事だけしか頭に無かったから…置き去りにされた妹の気持ちを考えなかったから、こんな事になってしまったのだろう。
彼女の顔を見て、そう思った私は、馬鹿だった。
彼女が、何もかも分かっているなんて思ってもみなかった。
だから、こんな事に…。
0
お気に入りに追加
121
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完結】美しい人。
❄️冬は つとめて
恋愛
「あなたが、ウイリアム兄様の婚約者? 」
「わたくし、カミーユと言いますの。ねえ、あなたがウイリアム兄様の婚約者で、間違いないかしら。」
「ねえ、返事は。」
「はい。私、ウイリアム様と婚約しています ナンシー。ナンシー・ヘルシンキ伯爵令嬢です。」
彼女の前に現れたのは、とても美しい人でした。
【掌編集】今までお世話になりました旦那様もお元気で〜妻の残していった離婚受理証明書を握りしめイケメン公爵は涙と鼻水を垂らす
まほりろ
恋愛
新婚初夜に「君を愛してないし、これからも愛するつもりはない」と言ってしまった公爵。
彼は今まで、天才、美男子、完璧な貴公子、ポーカーフェイスが似合う氷の公爵などと言われもてはやされてきた。
しかし新婚初夜に暴言を吐いた女性が、初恋の人で、命の恩人で、伝説の聖女で、妖精の愛し子であったことを知り意気消沈している。
彼の手には元妻が置いていった「離婚受理証明書」が握られていた……。
他掌編七作品収録。
※無断転載を禁止します。
※朗読動画の無断配信も禁止します
「Copyright(C)2023-まほりろ/若松咲良」
某小説サイトに投稿した掌編八作品をこちらに転載しました。
【収録作品】
①「今までお世話になりました旦那様もお元気で〜ポーカーフェイスの似合う天才貴公子と称された公爵は、妻の残していった離婚受理証明書を握りしめ涙と鼻水を垂らす」
②「何をされてもやり返せない臆病な公爵令嬢は、王太子に竜の生贄にされ壊れる。能ある鷹と天才美少女は爪を隠す」
③「運命的な出会いからの即日プロポーズ。婚約破棄された天才錬金術師は新しい恋に生きる!」
④「4月1日10時30分喫茶店ルナ、婚約者は遅れてやってきた〜新聞は星座占いを見る為だけにある訳ではない」
⑤「『お姉様はズルい!』が口癖の双子の弟が現世の婚約者! 前世では弟を立てる事を親に強要され馬鹿の振りをしていましたが、現世では奴とは他人なので天才として実力を充分に発揮したいと思います!」
⑥「婚約破棄をしたいと彼は言った。契約書とおふだにご用心」
⑦「伯爵家に半世紀仕えた老メイドは伯爵親子の罠にハマり無一文で追放される。老メイドを助けたのはポーカーフェイスの美女でした」
⑧「お客様の中に褒め褒めの感想を書ける方はいらっしゃいませんか? 天才美文感想書きVS普通の少女がえんぴつで書いた感想!」
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
果たされなかった約束
家紋武範
恋愛
子爵家の次男と伯爵の妾の娘の恋。貴族の血筋と言えども不遇な二人は将来を誓い合う。
しかし、ヒロインの妹は伯爵の正妻の子であり、伯爵のご令嗣さま。その妹は優しき主人公に密かに心奪われており、結婚したいと思っていた。
このままでは結婚させられてしまうと主人公はヒロインに他領に逃げようと言うのだが、ヒロインは妹を裏切れないから妹と結婚して欲しいと身を引く。
怒った主人公は、この姉妹に復讐を誓うのであった。
※サディスティックな内容が含まれます。苦手なかたはご注意ください。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
【完結】リクエストにお答えして、今から『悪役令嬢』です。
野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
恋愛
「断罪……? いいえ、ただの事実確認ですよ。」
***
ただ求められるままに生きてきた私は、ある日王子との婚約解消と極刑を突きつけられる。
しかし王子から「お前は『悪』だ」と言われ、周りから冷たい視線に晒されて、私は気づいてしまったのだ。
――あぁ、今私に求められているのは『悪役』なのだ、と。
今まで溜まっていた鬱憤も、ずっとしてきた我慢も。
それら全てを吐き出して私は今、「彼らが望む『悪役』」へと変貌する。
これは従順だった公爵令嬢が一転、異色の『悪役』として王族達を相手取り、様々な真実を紐解き果たす。
そんな復讐と解放と恋の物語。
◇ ◆ ◇
※カクヨムではさっぱり断罪版を、アルファポリスでは恋愛色強めで書いています。
さっぱり断罪が好み、または読み比べたいという方は、カクヨムへお越しください。
カクヨムへのリンクは画面下部に貼ってあります。
※カクヨム版が『カクヨムWeb小説短編賞2020』中間選考作品に選ばれました。
選考結果如何では、こちらの作品を削除する可能性もありますので悪しからず。
※表紙絵はフリー素材を拝借しました。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
君の小さな手ー初恋相手に暴言を吐かれた件ー
須木 水夏
恋愛
初めて恋をした相手に、ブス!と罵られてプチッと切れたお話。
短編集に上げていたものを手直しして個別の短編として上げ直しました。
※毎度ですが空想であり、架空のお話です。史実に全く関係ありません。
ヨーロッパの雰囲気出してますが、別物です。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
五歳の時から、側にいた
田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。
それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。
グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。
前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
麗しのラシェール
真弓りの
恋愛
「僕の麗しのラシェール、君は今日も綺麗だ」
わたくしの旦那様は今日も愛の言葉を投げかける。でも、その言葉は美しい姉に捧げられるものだと知っているの。
ねえ、わたくし、貴方の子供を授かったの。……喜んで、くれる?
これは、誤解が元ですれ違った夫婦のお話です。
…………………………………………………………………………………………
短いお話ですが、珍しく冒頭鬱展開ですので、読む方はお気をつけて。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる