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41. わからない
しおりを挟むリーゼロッテが押し掛けて来てから一週間が過ぎた。
朝のスージーの剣術の稽古に付き合わされる事になってしまった私は、少し離れた場所にテーブルを用意されて、お茶を飲みながらそれを見ている。
何故?
剣術の稽古に付き合わされている理由がわからない。
これまでのように部屋のバルコニーから見ていてもいいんじゃ…?
けれど、
「外の空気に触れるだけでもいいんじゃないですか。」
そんな風に、スージーに押し切られる形で付き合わされている。
押し切られると弱い。というのも考えもので、このままじゃいけないのに…。
ローランドからも、スージーと同じ事を言われてここにいる自分が不甲斐ない。
斜め前の木の根元に寄り掛かって、居眠りをしているキースに視線を向ける。
スージーと上手くいっているみたいで良かったと思う。
相変わらず、何を考えたいるのか分からない、掴み所の無い彼だけど、スージーの事は真剣に考えていて、彼女がプロポーズを受けてくれるのを待っているらしく、以前のように擦り寄って来る女性は多いけれど、全て断っている。
「スージーが俺の唯一だ。」
そう言って憚らない。
そんな二人を微笑ましく思って見ている。が、羨ましくもある。
“俺の唯一” 私も、ローランドにそう言ってもらいたいと思っているから…。
皮肉な物で、そんな自分の気持ちを自覚出来たというのに、彼の心は他の人に向いてしまっていて…その相手、リーゼロッテから鋭い眼で睨まれる毎日に疲れていた。
彼女の眼が言う。
『あなたは邪魔者なのよ。』と。
だから、お父様に手紙を書こうと思っていた。
『折角、お父様がローランドを護衛に戻してくれたけれど、彼女との将来を考えているのなら、こんな田舎じゃなくて、領都か王都に配属を変えた方が良いわね。』
部屋に戻ろうとしたら車椅子を押しながら、キースが付いてきてくれた。
「スージーの代わりだ、気にすんなよ。」
部屋に入り机まで移動した後、父親に手紙を書いた。
勿論、ローランドの“配属変え”を願い出る為の手紙だ。
スージーがまだ戻っていないので、ベルを鳴らし、他の侍女を呼んで手紙を出すように頼んだ。
車椅子をバルコニーに向け、空を見上げた。
部屋に控えていたキースは何も言わなかったけれど、全部じゃなくても、ある程度の事は分かっていると思う。
以前、砦にいたという彼に聞いた事がある。
「リーゼロッテのローランドへの気持ちは、彼が言っているような家族愛じゃなくて、異性への愛情なんじゃないの?」
そう言ったら
「戦場という特殊な状況で保護され、ローランドが親身に世話をしたから、“刷り込み”状態になっているだけ。」
と、キースは言っていた。
そこ(ローランドの気持ち)に男と女の間にあるような“愛”は無い。とも…。
本当に?
私が見ている限り、二人の雰囲気は恋人同士のものと同じにしか見えないんだけど…。
~~~~~
三日後、領都の邸から返事が来た。
サロンで寛いでいた中やって来た人物に驚いたけれど、それよりも嬉しさの方が勝った。
久しぶりに見たその顔に懐かしさが込み上げる。
「ジェス!」
私の前まで来ると跪いて胸に手を当て、私の手を取り、その甲に口付ける。
「立って。よく顔を見せて頂戴。」
「ご無沙汰しております。思ったよりもお元気そうで安心しました。」
そう言って微笑むも、私の頬を手の平で撫でると、少し表情を曇らせる。
「…少しお痩せになりましたか?」
「気の所為よ。」
首をゆっくりと左右に振って答える。
「お館様からの返事です。」
白い封筒を差し出されたのを受け取る。
「今、ご覧になられますか?」
スージーに聞かれ、黙って頷くとペーパーナイフを渡された。
それを使って封を切り、中から便箋を出すと拡げた。
そこには短く簡潔な文章が書かれていた。
“ 配属の変更を認めず。”
予想していた内容に溜め息を吐く。
「お館様にはお館様なりの考えがお有りなのでしょう。」
「そうね。でも、煩わしい事ね…。」
それを聞いて、ジェスが苦笑している。
『他人事だと思って…。』
と、呆れ顔をすると
「私は、2~3日こちらに滞在する予定ですので、何なりとお申し付け下さい。」
「わかったわ。今日は疲れたでしょうから、ゆっくりしてね。」
「ありがとうございます。では、これで失礼します。」
彼は、退室の礼を取るとサロンを出て行った。
~~~~~
サロンを出た彼の後を追ってキースがやって来た。
そしてジェスが案内された部屋に一緒に入っていく。
「あれは?」
「彼が付いているから大丈夫です。」
「報告は後で聞く。それと、お館様の命を伝える。“ 考えていた通りの者なら排除して良し”だ。」
「以前とは違って、えらく思い切りがいいですね。」
「当たり前だ。あの時は、躊躇った所為で取り返しのつかない事態になるところだったからな。だしても、深く悔やむ事になったのだから…。」
深く溜め息を吐く。
「あの馬鹿も、態々厄介事を招き入れるなど…。とっとと、追い出せばいいものを…。困ったものだ。」
忌々し気に言った。
「まぁ、あの甘さは捨てて頂かないと…。こっちも困るんですけどねぇ。」
「兎に角、キースには苦労を掛けるがよろしく頼む。あと、今夜、例の報告がくる事になっているから、あいつにも言っておいてくれ。それと、今やってる事も引き続き頼む。」
それだけ告げると、キースを下がらせた。
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