【改稿版】それでも…

雫喰 B

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29. 家出娘

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    ローランドが私を置いて故郷に帰ってから1ヶ月。
    そろそろ準備も終わって、後はここを出ていくだけになった。
    いつにしようかな~?

    なんて思っていたんだけど、なんだか最近周りの様子がおかしいというか、雰囲気がおかしいというか…。

    ローランドが居なくなってから、商会長の息子のトビーが、やたら私の周りをチョロチョロするし、ベタベタ触ってくる。ハッキリ言ってキモい。

    やっぱり何かがおかしい。

    という訳で、今夜にでも決行する事にしたわ。

    深夜、辺りが寝静まった頃、ごそごそとベッドの下から荷物を引っ張り出し、予め用意していた手紙を二通(義両親宛てと妹宛て)、机の上に置いた。

    それから音をたてないように、窓をそぉっと開けて外へ出た。
    急いで厩舎に向かうと、馬に鞍を乗せて固定した。
    鐙に足を掛け、地面を蹴る。
    そして、馬に跨がり手綱を握り締めると駆け出した。

    彼の元へ。
    あの日、彼に助けられてから、私には彼しかいない。
    シャロは妹だから、家族に対する愛情はあるけれど、彼女だって結婚もするだろうし、死ぬまで一緒にいられる訳ではない。
    だから、私にとってそんな相手は、ローランドしかいないし、彼しかいらない。

~~~~~

    途中で休憩を入れながら馬を走らせ、四日目の夕方に、ローランドの故郷、辺境伯領の領都に辿り着いた。

    ローランドに早く会いたいけど、ここに着くまでに泊まった宿には、お風呂が無かった。
    予算の関係で、お風呂がある宿に泊まれなかったから、身体を拭いただけだったので、せめてお風呂に入ってからじゃなきゃ…。

    何とかお風呂がある宿がないか探したけれど、やっぱり予算オーバー。

    仕方ない。馬の手綱を引きながらとぼとぼと歩く。
    そして、領都の辺境伯邸へと向かった。

~~~~~

    1ヶ月ほど前に辺境伯領に戻って来たローランドは、領主であるカスペラード辺境伯に国境地帯から戻って来た事を報告した。

    長期間、領地から離れていた事を詫びる。
    辺境伯は、私設騎士団に復帰した後、再びリンジーの護衛に戻るか、騎士団の任務のどちらに就くか彼に尋ねた。

「許されるなら、お嬢様の護衛に戻りたいと思っています。それが叶わないなら、騎士団のどの任務でも構いません。」
「…そうか。リンジーの護衛の件は、手紙にあった話が終わった後にでも決まるだろう。それまでは、休暇だと思ってゆっくりしてくれ。」
「了解しました。」
「下がっていい。」
「はっ。」

    恭しく礼をして部屋から出た。

    やっと、ここまで来た。
    長かった…。
    彼女の傍にいる事ができるかどうか分からない。でも、彼女に会う事は叶う。
    その後の事は分からない。

    自分の部屋にキースを待たせていたので、部屋に戻った。

「よぉ。まさか辺境伯の所の騎士だったとはね。驚いたよ。」
「まぁな。ところでキースはこの後どうするんだ?うちの騎士団で働くなら口を利くが。」
「ん~。堅苦しいのは苦手だ。また傭兵に戻るさ。まぁあ、取り敢えずここのギルドに登録するよ。」
「そうか。今日のところは、ここに泊まってくれ。何かご馳走するから今から街に繰り出すか?」
「ラッキー♪遠慮無くご馳走になるとするか。」

    そして二人で街に出ると、ここを出るまで馴染みだった店に顔を出した。

    店主も女将も、懐かしいと言って歓迎してくれた。

    客も少なくなってきて、カウンター席から店の隅にあるテーブル席に移動する。

「お前さえ良ければ、暫くはこの街にいるから何かあった時は相談しろよ。」

    キースがそう言って、頭をグシャグシャと撫でてくる。
    人誑しで、人懐こい彼は、店主や女将、客達ともすぐに打ち解けて騒いでいた。
    そして、不安を抱えている事に気付いているかのような事を言う。
    今はその事に感謝した。

    父とは会えたが、忙しい兄には会えなかったが、明日会う事になっている。

    リンジーに会う日はまだ決まっていない。スージーが専属侍女として、ずっと彼女に付いている事は知っていた。

    けど、そのスージーとも連絡を取っていなかった。再会したら、「この薄情者!」と叱られるだろうな。と苦笑する。
    だが、リンジーと再会した時の事は想像できない。

「なぁ、何か辺境伯絡みで箝口令でも敷かれているのか?」

    突然された、目の前の男からの質問に、心臓が嫌な音を立てる。が、この男に隠し事をしても無駄な事は分かっているが、かといって、本当の事を話せる訳でもない。

「すまないが、俺から言える事は何も無いんだ。」
「…箝口令って事で納得しとくよ。主を裏切らせてまで聞こうとも思わないし…。さ、飲もうぜ。どうせ暫くは休みだろ?」

    杯を掲げ、片目を瞑る彼に応えて、ローランドも杯を軽く掲げた。
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