29 / 60
29. 家出娘
しおりを挟むローランドが私を置いて故郷に帰ってから1ヶ月。
そろそろ準備も終わって、後はここを出ていくだけになった。
いつにしようかな~?
なんて思っていたんだけど、なんだか最近周りの様子がおかしいというか、雰囲気がおかしいというか…。
ローランドが居なくなってから、商会長の息子のトビーが、やたら私の周りをチョロチョロするし、ベタベタ触ってくる。ハッキリ言ってキモい。
やっぱり何かがおかしい。
という訳で、今夜にでも決行する事にしたわ。
深夜、辺りが寝静まった頃、ごそごそとベッドの下から荷物を引っ張り出し、予め用意していた手紙を二通(義両親宛てと妹宛て)、机の上に置いた。
それから音をたてないように、窓をそぉっと開けて外へ出た。
急いで厩舎に向かうと、馬に鞍を乗せて固定した。
鐙に足を掛け、地面を蹴る。
そして、馬に跨がり手綱を握り締めると駆け出した。
彼の元へ。
あの日、彼に助けられてから、私には彼しかいない。
シャロは妹だから、家族に対する愛情はあるけれど、彼女だって結婚もするだろうし、死ぬまで一緒にいられる訳ではない。
だから、私にとってそんな相手は、ローランドしかいないし、彼しかいらない。
~~~~~
途中で休憩を入れながら馬を走らせ、四日目の夕方に、ローランドの故郷、辺境伯領の領都に辿り着いた。
ローランドに早く会いたいけど、ここに着くまでに泊まった宿には、お風呂が無かった。
予算の関係で、お風呂がある宿に泊まれなかったから、身体を拭いただけだったので、せめてお風呂に入ってからじゃなきゃ…。
何とかお風呂がある宿がないか探したけれど、やっぱり予算オーバー。
仕方ない。馬の手綱を引きながらとぼとぼと歩く。
そして、領都の辺境伯邸へと向かった。
~~~~~
1ヶ月ほど前に辺境伯領に戻って来たローランドは、領主であるカスペラード辺境伯に国境地帯から戻って来た事を報告した。
長期間、領地から離れていた事を詫びる。
辺境伯は、私設騎士団に復帰した後、再びリンジーの護衛に戻るか、騎士団の任務のどちらに就くか彼に尋ねた。
「許されるなら、お嬢様の護衛に戻りたいと思っています。それが叶わないなら、騎士団のどの任務でも構いません。」
「…そうか。リンジーの護衛の件は、手紙にあった話が終わった後にでも決まるだろう。それまでは、休暇だと思ってゆっくりしてくれ。」
「了解しました。」
「下がっていい。」
「はっ。」
恭しく礼をして部屋から出た。
やっと、ここまで来た。
長かった…。
彼女の傍にいる事ができるかどうか分からない。でも、彼女に会う事は叶う。
その後の事は分からない。
自分の部屋にキースを待たせていたので、部屋に戻った。
「よぉ。まさか辺境伯の所の騎士だったとはね。驚いたよ。」
「まぁな。ところでキースはこの後どうするんだ?うちの騎士団で働くなら口を利くが。」
「ん~。堅苦しいのは苦手だ。また傭兵に戻るさ。まぁあ、取り敢えずここのギルドに登録するよ。」
「そうか。今日のところは、ここに泊まってくれ。何かご馳走するから今から街に繰り出すか?」
「ラッキー♪遠慮無くご馳走になるとするか。」
そして二人で街に出ると、ここを出るまで馴染みだった店に顔を出した。
店主も女将も、懐かしいと言って歓迎してくれた。
客も少なくなってきて、カウンター席から店の隅にあるテーブル席に移動する。
「お前さえ良ければ、暫くはこの街にいるから何かあった時は相談しろよ。」
キースがそう言って、頭をグシャグシャと撫でてくる。
人誑しで、人懐こい彼は、店主や女将、客達ともすぐに打ち解けて騒いでいた。
そして、不安を抱えている事に気付いているかのような事を言う。
今はその事に感謝した。
父とは会えたが、忙しい兄には会えなかったが、明日会う事になっている。
リンジーに会う日はまだ決まっていない。スージーが専属侍女として、ずっと彼女に付いている事は知っていた。
けど、そのスージーとも連絡を取っていなかった。再会したら、「この薄情者!」と叱られるだろうな。と苦笑する。
だが、リンジーと再会した時の事は想像できない。
「なぁ、何か辺境伯絡みで箝口令でも敷かれているのか?」
突然された、目の前の男からの質問に、心臓が嫌な音を立てる。が、この男に隠し事をしても無駄な事は分かっているが、かといって、本当の事を話せる訳でもない。
「すまないが、俺から言える事は何も無いんだ。」
「…箝口令って事で納得しとくよ。主を裏切らせてまで聞こうとも思わないし…。さ、飲もうぜ。どうせ暫くは休みだろ?」
杯を掲げ、片目を瞑る彼に応えて、ローランドも杯を軽く掲げた。
1
お気に入りに追加
120
あなたにおすすめの小説
記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした
結城芙由奈@コミカライズ発売中
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。
【完結】婚約破棄したら『悪役令嬢』から『事故物件令嬢』になりました
Mimi
ファンタジー
私エヴァンジェリンには、幼い頃に決められた婚約者がいる。
男女間の愛はなかったけれど、幼馴染みとしての情はあったのに。
卒業パーティーの2日前。
私を呼び出した婚約者の隣には
彼の『真実の愛のお相手』がいて、
私は彼からパートナーにはならない、と宣言された。
彼は私にサプライズをあげる、なんて言うけれど、それはきっと私を悪役令嬢にした婚約破棄ね。
わかりました!
いつまでも夢を見たい貴方に、昨今流行りのざまぁを
かまして見せましょう!
そして……その結果。
何故、私が事故物件に認定されてしまうの!
※本人の恋愛的心情があまり無いので、恋愛ではなくファンタジーカテにしております。
チートな能力などは出現しません。
他サイトにて公開中
どうぞよろしくお願い致します!
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
どうも、死んだはずの悪役令嬢です。
西藤島 みや
ファンタジー
ある夏の夜。公爵令嬢のアシュレイは王宮殿の舞踏会で、婚約者のルディ皇子にいつも通り罵声を浴びせられていた。
皇子の罵声のせいで、男にだらしなく浪費家と思われて王宮殿の使用人どころか通っている学園でも遠巻きにされているアシュレイ。
アシュレイの誕生日だというのに、エスコートすら放棄して、皇子づきのメイドのミュシャに気を遣うよう求めてくる皇子と取り巻き達に、呆れるばかり。
「幼馴染みだかなんだかしらないけれど、もう限界だわ。あの人達に罰があたればいいのに」
こっそり呟いた瞬間、
《願いを聞き届けてあげるよ!》
何故か全くの別人になってしまっていたアシュレイ。目の前で、アシュレイが倒れて意識不明になるのを見ることになる。
「よくも、義妹にこんなことを!皇子、婚約はなかったことにしてもらいます!」
義父と義兄はアシュレイが状況を理解する前に、アシュレイの体を持ち去ってしまう。
今までミュシャを崇めてアシュレイを冷遇してきた取り巻き達は、次々と不幸に巻き込まれてゆき…ついには、ミュシャや皇子まで…
ひたすら一人づつざまあされていくのを、呆然と見守ることになってしまった公爵令嬢と、怒り心頭の義父と義兄の物語。
はたしてアシュレイは元に戻れるのか?
剣と魔法と妖精の住む世界の、まあまあよくあるざまあメインの物語です。
ざまあが書きたかった。それだけです。
悪役令嬢エリザベート物語
kirara
ファンタジー
私の名前はエリザベート・ノイズ
公爵令嬢である。
前世の名前は横川禮子。大学を卒業して入った企業でOLをしていたが、ある日の帰宅時に赤信号を無視してスクランブル交差点に飛び込んできた大型トラックとぶつかりそうになって。それからどうなったのだろう。気が付いた時には私は別の世界に転生していた。
ここは乙女ゲームの世界だ。そして私は悪役令嬢に生まれかわった。そのことを5歳の誕生パーティーの夜に知るのだった。
父はアフレイド・ノイズ公爵。
ノイズ公爵家の家長であり王国の重鎮。
魔法騎士団の総団長でもある。
母はマーガレット。
隣国アミルダ王国の第2王女。隣国の聖女の娘でもある。
兄の名前はリアム。
前世の記憶にある「乙女ゲーム」の中のエリザベート・ノイズは、王都学園の卒業パーティで、ウィリアム王太子殿下に真実の愛を見つけたと婚約を破棄され、身に覚えのない罪をきせられて国外に追放される。
そして、国境の手前で何者かに事故にみせかけて殺害されてしまうのだ。
王太子と婚約なんてするものか。
国外追放になどなるものか。
乙女ゲームの中では一人ぼっちだったエリザベート。
私は人生をあきらめない。
エリザベート・ノイズの二回目の人生が始まった。
⭐️第16回 ファンタジー小説大賞参加中です。応援してくれると嬉しいです
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる