【改稿版】それでも…

雫喰 B

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26. 豊穣祭

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    姉妹を村長に預けてから二年、月に二~三回ぐらい彼女達の様子を見に行っていた。
    とはいっても、キースと予定が合う日はあまり無くて、殆ど俺だけで行っていたようなものだった。
    まぁ、仕方ない。とりわけハンサムという訳ではないが、並みの上ぐらい整った顔立ちをしていて、人誑しとくればモテない訳が無い。
    “お子様”よりも“大人”を優先させてしまうのは同じ男として理解できる。
    しかもお子様と言っても、我が子ではなく他人の子なのだから…。
    
    村長夫婦の話によると、彼女達は明るくて、よくお手伝いをしてくれ、夫妻にも何かと気を遣ってくれて本当にだと言った後、「もう少し甘えてくれたらいいのに…。」と、寂しそうに言っていたのが胸みた。

    村長夫婦が彼女達を本当の娘と思っているのが分かった。

    あれから二年、ガリガリに痩せていて、実年令よりも小柄だった彼女達も、美しく成長していて、モテモテらしい。
    既に、「息子の嫁に欲しい。」と彼方此方から言われているという。
    明るくて働き者で美人とくれば、当然だろう。

    けれど、リーゼロッテ(愛称・リゼ)は16才になったばかり、シャロン(愛称・シャロ)はまだ12才である。
    夫妻は共に、「まだ早すぎる。」と言った可愛がり様で、本人達も「まだまだ嫁に行く気は無い。」と言っているようだ。

    そして今日は、村で行われる“豊穣祭”の日だ。今年の収穫に感謝して、来年の豊作を願う日、村の若い男女には“恋(請い)の日”、早い話が“プロポーズの日”だ。

    だから、当然、村の彼方此方で“リア充”どもが…!

    “リア充”どもなんて…バカやろーッ!(涙目)

    と、まぁ俺の事は置いといて…(はぁぁぁ)

    そんな事より、二年もあれば幼い少女も大人っぽくなる。
    久し振りに会った二人がそうだった。

    ここ暫くは忙しくて二人に会いに行く事が出来なかった。だから、約二ヶ月ぶりに会う事になる。

    二人は既に祭りが行われている広場に行っていると言うので、村長と一緒に広場まで行った。
    広場を囲むように多くの露店が並んでいた。思った以上の人の多さに、二人は何処だろう?とキョロキョロする。

「「ローランドーッ!」」

    いきなり名前を呼ばれて振り向くと、花も綻ぶ様な笑顔の姉妹が…。
    そして、二人ともいきなり俺に抱きついた。

「おぉっと!?」
「こらこら、抱きついたりしてはご迷惑だろ。」
「「はーい。」」

    二人から抱きつかれ、煌煌しいきらきらしい笑顔で見られると、かなり恥ずかしいし、照れる。
    だから、平静を装って

「二人とも元気そうだな。」

    等と、動揺を悟られないように言った。

「「会えなくて寂しかった。」」

    と二人から言われ、つい鼻の下が伸びて、目尻が下がってしまう。

    だが、気の所為だろうか?
    先ほどから、チクチクと刺さるような鋭い視線が…?

    辺りを見渡すと、気不味そうに眼を反らす者、睨み付ける者、悲しそうにしている者達がいた。
    なるほど。村長夫妻が言うだけあって、姉妹はモテていると言うことか。

    まだケツの青いヒヨコどもにライバル視されるとは思わなかった。

    だが、俺にはリンジーがいる。
    それに、いずれ領地に帰る。
    だから、二人にはで、ヒヨコどもの中の誰かと結婚して幸せになって欲しいと思っている。
    まぁ、言うなれば、兄の心境といったところか。

    村長はこの後、用事があると言うので三人で露店を見て回った。
    色々な色付きの水飴を食べた事が無い二人に水飴を買ってあげると、喜んで食べていた。
    その後、焼きとうもろこしや、ふわふわの卵カステラ等、眼を輝かせて食べている二人を見て、幼い頃、リンジーと行ったお祭りの事を思い出した。

    あの事件の後、素のままの彼女の笑顔を見た事が無い。まだ胸が痛い…。
    袖を引っ張られてそちらを見ると、リゼが心配そうな顔をして俺を見ていた。
    だから、安心させるように笑った。

~~~~~

    豊穣祭の露店を、ローランドと妹のシャロと一緒に見て回った。見た事の無い物ばかりで楽しかった。
    去年も同じように露店を見て回ったけれど、こんなに楽しくはなかった。
    やっぱり、ローランドと一緒だから楽しいんだと、改めて気付かされた。

   私…私はローランドが好き!

    彼とキースは、私達姉妹の命の恩人だった。
    キースは人誑しで話易いけれど、村長に預けられて以降も、時々様子を見に来るローランドに、年も近い所為か、どんどん惹かれていった。

    所々、上品な立ち居振舞いをする彼は、恐らく貴族か元貴族なのだと思う。
    彼を好きになって分かった事がある。
    時々、遠い眼をして悲しくて切なそうにを見ている。

    そんな時は、堪らなく不安になる。

「あなたにそんな顔をさせるのは誰?」

   そう問い質したくなるのを、いつも堪えている。
    けれど、それを聞いてしまったら、こんな風に彼の傍に居られなくなってしまいそうだから…。

    だから、いつも心の中だけで言う、

「ねぇ、ローランド、私を見て。私だけを見て欲しい。」

    いつか本当に言える日が来る事を願って…。


    


    
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