【改稿版】それでも…

雫喰 B

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14. 再会 ②

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    部屋に入って行くと、ソファーから立ち上がり、両手を広げ、笑顔で迎える殿下がいた。

    話し合いの時の、悪鬼のような顔とは正反対だ。
    けれど、例えどれだけ顔の表情が違っていても、は同じ…。
    気を許すつもりなど無い。

    殿下の前まで進み、ドレスのスカート部分を両手で摘まみ、腰を少し落として礼をした。

「殿下におかれましては、ご機嫌麗しくお慶び申し上げます。」
「堅苦しい挨拶はいらないから、座って。」

    そう言って、手を取りソファーに座らされ、彼の方も、私の手を掴んだまま隣に座った。

    王宮の侍女がお茶を淹れ、テーブルの上にティーカップを置くと入り口付近まで下がっていった。
    スージーもその隣で控えている。
    殿下の侍従と護衛のローランドは少し後ろで控えている。

    殿下との関係を修復するにあたって、“二人きりにならない”という条件が付けられていたのは、正直、有り難かった。
    けれど、どうせなら“隣同士に座らない”という条件も付けておけばよかったと思ったのは言うまでもない。

    早く手を離してくれないかな。と思っていたのに、身体ごと私の方を向き、両手で手を握りしめてくる。

    私の顔を見ながら、手を撫でて言う。

「リンジーに会える日を、指折り数えて待ってたんだ。やっと会えた。」    

    そして、何を思ったのか抱き付いてきた。

「ちょ、ちょっと、殿下、お止め下さい!」
「やだ。」
「子供じゃないんですから、やだ。じゃないでしょ!止めないんだったら、帰らせてもらいます!」

    そう言うと、叱られた子犬みたいに、しゅんとして離れ、ソファーの上で膝を抱えて座っている。

    謹慎前とは全然違う彼に、調子が狂う。謹慎中に何か…矯正…?…とか、されたんだろうか?
    …というか、幼い頃に戻って…いる…?

    何かおかしい?ような気がするものの、幼児退行してしまったのかも?と思ったりしたけれど、ひょっとしたら、ローザリンデの前ではこんな風に甘えていたのかもしれない。

    ふと、殺気を感じて視線を上げると、ローランドが、殺気を含んだ眼で殿下を睨み付けていた。

    結局、そのあとの殿下は、これまでの事を懺悔するかのように、私に対して謝ってばかりで、何をされるのか、警戒と緊張をしていた私は、肩透かしを食らった。

    そして、そろそろ帰ろうとした時に、

「リンジー…。」

    甘えたように私の名前を呼び、袖を引っ張る殿下。やはりそれは、彼が幼かった頃の癖だった。

    一体、彼の身に何があったというのか?    

    そんな事を考えていた私は、頬にキスをされるという、不意打ちを食らった。
    キッと殿下を睨むと、悪戯が成功した様な顔をしていた。

    何だか憎めない。でも、計算ずくでしているとしたら…。と少し怖くなった。


    
「…何だったんでしょうね、…。」

    すっかり毒気を抜かれてしまったスージーが、遠い眼をして呟いた。

「 さぁ…? 」

    同じ様に毒気を抜かれてしまった私が答えた。

「…油断させる気かもしれません。」

    その可能性もあると、私達は顔を見合わせて頷き合ったのだった。

    そして、次回以降も気を抜かないように
気を付ける事にした。



「殿下、お部屋に戻られますか?」

    新しく侍従になったのは、宰相の息子、チャールズ・スミスだった。
    それまでは、側近の中の一人だった彼だが、ローザリンデの色香に惑わなかった事もあって、侍従になった。

    俺の側近は、あと3人いて、王国騎士団団長の息子の リチャード・フォラス侯爵令息と教皇の甥 のウィリアム・ポートランド伯爵令息、近衛騎士団団長のヘンリー・ラインバッハ侯爵の息子、ギルバート・ラインバッハ侯爵令息だ。

    この3人は、ローザリンデと会話する事もあったが、前侍従のようにその距離が近すぎるというほどでもなかったので、今でも側近として仕えてくれている。

    俺は、部屋に戻る事にした。
が、まさか途中で待ち伏せしていたローザリンデに出会すとは思いもしなかった。

    謹慎中、彼女から面会の要請が度々あったと報告は受けていたのだが、何故か会う必要など無いと思っていた。

    だから、謹慎後も会わずにいたし、手紙にもそう書いて返事していた。

    まさか待ち伏せまでするとは…。
    彼女と会う事は、両親からも止められていたので、この時も帰るように言ったのだが、「最後にするから…」と、お願いされて仕方なく会う事にした。

    けれど、それは間違いだった。




    俺は、殿下の侍従として、この時、ローザリンデ嬢と会わせるべきではなかった。

    いくら殿下が情に流され、そうする事を望み、側近がそれに賛同しようとも…。

    俺は後に、この事を後悔せずにいられなくなる…。

    殿下はこの時、ローザリンデと会ってしまった為に、全てを失ってしまうのだ…。そう、何もかも…。

    俺は、殿下の侍従として最後まで彼に付き合う事になる。

    くだらない感傷なのは分かっている。

    ローランドなどは、後日、「この時に、2人を会わせなくても、そうなっていた。」と言っていた。

    だが、この時ならまだ殿下を救う事が出来たのではないか?そう思えてならないのだ。

    
    
~~~~~
*側近の人数を2人→3人、

    近衛騎士団団長
              ヘンリー・ラインバッハ侯爵
              ギルバート・ラインバッハ侯爵令息(ランディの側近)

    王国騎士団団長
            アクシオン・フォラス侯爵
            リチャード・フォラス侯爵令息(ランディの側近)

    教皇の甥
            ウィリアム・ポートランド伯爵令息(ランディの側近)

    

    

    
    

    
  
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