14 / 60
14. 再会 ②
しおりを挟む部屋に入って行くと、ソファーから立ち上がり、両手を広げ、笑顔で迎える殿下がいた。
話し合いの時の、悪鬼のような顔とは正反対だ。
けれど、例えどれだけ顔の表情が違っていても、中身は同じ…。
気を許すつもりなど無い。
殿下の前まで進み、ドレスのスカート部分を両手で摘まみ、腰を少し落として礼をした。
「殿下におかれましては、ご機嫌麗しくお慶び申し上げます。」
「堅苦しい挨拶はいらないから、座って。」
そう言って、手を取りソファーに座らされ、彼の方も、私の手を掴んだまま隣に座った。
王宮の侍女がお茶を淹れ、テーブルの上にティーカップを置くと入り口付近まで下がっていった。
スージーもその隣で控えている。
殿下の侍従と護衛のローランドは少し後ろで控えている。
殿下との関係を修復するにあたって、“二人きりにならない”という条件が付けられていたのは、正直、有り難かった。
けれど、どうせなら“隣同士に座らない”という条件も付けておけばよかったと思ったのは言うまでもない。
早く手を離してくれないかな。と思っていたのに、身体ごと私の方を向き、両手で手を握りしめてくる。
私の顔を見ながら、手を撫でて言う。
「リンジーに会える日を、指折り数えて待ってたんだ。やっと会えた。」
そして、何を思ったのか抱き付いてきた。
「ちょ、ちょっと、殿下、お止め下さい!」
「やだ。」
「子供じゃないんですから、やだ。じゃないでしょ!止めないんだったら、帰らせてもらいます!」
そう言うと、叱られた子犬みたいに、しゅんとして離れ、ソファーの上で膝を抱えて座っている。
謹慎前とは全然違う彼に、調子が狂う。謹慎中に何か…矯正…?…とか、されたんだろうか?
…というか、幼い頃に戻って…いる…?
何かおかしい?ような気がするものの、幼児退行してしまったのかも?と思ったりしたけれど、ひょっとしたら、ローザリンデの前ではこんな風に甘えていたのかもしれない。
ふと、殺気を感じて視線を上げると、ローランドが、殺気を含んだ眼で殿下を睨み付けていた。
結局、そのあとの殿下は、これまでの事を懺悔するかのように、私に対して謝ってばかりで、何をされるのか、警戒と緊張をしていた私は、肩透かしを食らった。
そして、そろそろ帰ろうとした時に、
「リンジー…。」
甘えたように私の名前を呼び、袖を引っ張る殿下。やはりそれは、彼が幼かった頃の癖だった。
一体、彼の身に何があったというのか?
そんな事を考えていた私は、頬にキスをされるという、不意打ちを食らった。
キッと殿下を睨むと、悪戯が成功した様な顔をしていた。
何だか憎めない。でも、計算ずくでしているとしたら…。と少し怖くなった。
「…何だったんでしょうね、アレ…。」
すっかり毒気を抜かれてしまったスージーが、遠い眼をして呟いた。
「 さぁ…? 」
同じ様に毒気を抜かれてしまった私が答えた。
「…油断させる気かもしれません。」
その可能性もあると、私達は顔を見合わせて頷き合ったのだった。
そして、次回以降も気を抜かないように
気を付ける事にした。
「殿下、お部屋に戻られますか?」
新しく侍従になったのは、宰相の息子、チャールズ・スミスだった。
それまでは、側近の中の一人だった彼だが、ローザリンデの色香に惑わなかった事もあって、侍従になった。
俺の側近は、あと3人いて、王国騎士団団長の息子の リチャード・フォラス侯爵令息と教皇の甥 のウィリアム・ポートランド伯爵令息、近衛騎士団団長のヘンリー・ラインバッハ侯爵の息子、ギルバート・ラインバッハ侯爵令息だ。
この3人は、ローザリンデと会話する事もあったが、前侍従のようにその距離が近すぎるというほどでもなかったので、今でも側近として仕えてくれている。
俺は、部屋に戻る事にした。
が、まさか途中で待ち伏せしていたローザリンデに出会すとは思いもしなかった。
謹慎中、彼女から面会の要請が度々あったと報告は受けていたのだが、何故か会う必要など無いと思っていた。
だから、謹慎後も会わずにいたし、手紙にもそう書いて返事していた。
まさか待ち伏せまでするとは…。
彼女と会う事は、両親からも止められていたので、この時も帰るように言ったのだが、「最後にするから…」と、お願いされて仕方なく会う事にした。
けれど、それは間違いだった。
俺は、殿下の侍従として、この時、ローザリンデ嬢と会わせるべきではなかった。
いくら殿下が情に流され、そうする事を望み、側近がそれに賛同しようとも…。
俺は後に、この事を後悔せずにいられなくなる…。
殿下はこの時、ローザリンデと会ってしまった為に、全てを失ってしまうのだ…。そう、何もかも…。
俺は、殿下の侍従として最後まで彼に付き合う事になる。
くだらない感傷なのは分かっている。
ローランドなどは、後日、「この時に、2人を会わせなくても、そうなっていた。」と言っていた。
だが、この時ならまだ殿下を救う事が出来たのではないか?そう思えてならないのだ。
~~~~~
*側近の人数を2人→3人、
近衛騎士団団長
ヘンリー・ラインバッハ侯爵
ギルバート・ラインバッハ侯爵令息(ランディの側近)
王国騎士団団長
アクシオン・フォラス侯爵
リチャード・フォラス侯爵令息(ランディの側近)
教皇の甥
ウィリアム・ポートランド伯爵令息(ランディの側近)
0
お気に入りに追加
121
あなたにおすすめの小説
好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】
皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」
「っ――――!!」
「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」
クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。
******
・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。
王命を忘れた恋
須木 水夏
恋愛
『君はあの子よりも強いから』
そう言って貴方は私を見ることなく、この関係性を終わらせた。
強くいなければ、貴方のそばにいれなかったのに?貴方のそばにいる為に強くいたのに?
そんな痛む心を隠し。ユリアーナはただ静かに微笑むと、承知を告げた。
初めての相手が陛下で良かった
ウサギテイマーTK
恋愛
第二王子から婚約破棄された侯爵令嬢アリミアは、王子の新しい婚約者付の女官として出仕することを命令される。新しい婚約者はアリミアの義妹。それどころか、第二王子と義妹の初夜を見届けるお役をも仰せつかる。それはアリミアをはめる罠でもあった。媚薬を盛られたアリミアは、熱くなった体を持て余す。そんなアリミアを助けたのは、彼女の初恋の相手、現国王であった。アリミアは陛下に懇願する。自分を抱いて欲しいと。
※ダラダラエッチシーンが続きます。苦手な方は無理なさらずに。
婚約者に消えろと言われたので湖に飛び込んだら、気づけば三年が経っていました。
束原ミヤコ
恋愛
公爵令嬢シャロンは、王太子オリバーの婚約者に選ばれてから、厳しい王妃教育に耐えていた。
だが、十六歳になり貴族学園に入学すると、オリバーはすでに子爵令嬢エミリアと浮気をしていた。
そしてある冬のこと。オリバーに「私の為に消えろ」というような意味のことを告げられる。
全てを諦めたシャロンは、精霊の湖と呼ばれている学園の裏庭にある湖に飛び込んだ。
気づくと、見知らぬ場所に寝かされていた。
そこにはかつて、病弱で体の小さかった辺境伯家の息子アダムがいた。
すっかり立派になったアダムは「あれから三年、君は目覚めなかった」と言った――。
【R18】私は婚約者のことが大嫌い
みっきー・るー
恋愛
侯爵令嬢エティカ=ロクスは、王太子オブリヴィオ=ハイデの婚約者である。
彼には意中の相手が別にいて、不貞を続ける傍ら、性欲を晴らすために婚約者であるエティカを抱き続ける。
次第に心が悲鳴を上げはじめ、エティカは執事アネシス=ベルに、私の汚れた身体を、手と口を使い清めてくれるよう頼む。
そんな日々を続けていたある日、オブリヴィオの不貞を目の当たりにしたエティカだったが、その後も彼はエティカを変わらず抱いた。
※R18回は※マーク付けます。
※二人の男と致している描写があります。
※ほんのり血の描写があります。
※思い付きで書いたので、設定がゆるいです。
腹黒王子は、食べ頃を待っている
月密
恋愛
侯爵令嬢のアリシア・ヴェルネがまだ五歳の時、自国の王太子であるリーンハルトと出会った。そしてその僅か一秒後ーー彼から跪かれ結婚を申し込まれる。幼いアリシアは思わず頷いてしまい、それから十三年間彼からの溺愛ならぬ執愛が止まらない。「ハンカチを拾って頂いただけなんです!」それなのに浮気だと言われてしまいーー「悪い子にはお仕置きをしないとね」また今日も彼から淫らなお仕置きをされてーー……。
慰み者の姫は新皇帝に溺愛される
苺野 あん
恋愛
小国の王女フォセットは、貢物として帝国の皇帝に差し出された。
皇帝は齢六十の老人で、十八歳になったばかりのフォセットは慰み者として弄ばれるはずだった。
ところが呼ばれた寝室にいたのは若き新皇帝で、フォセットは花嫁として迎えられることになる。
早速、二人の初夜が始まった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる