1 / 60
1. 出会い
しおりを挟む
いつからだろう?
彼が、侮蔑と嫌悪感に満ちた眼で私を見る様になったのは…?
いつからだろう?
私の言動に対して、彼が眉間に皺を寄せ、蔑んだ眼で睨み付け、舌打ちをする様になったのは…?
~~~~~~~~~~~~
私が王太子であるランディ殿下に初めて会ったのは王宮の庭園で開かれたお茶会での事。
殿下は当時7歳、私は5歳で、その日は風が強かったのを今でも覚えています。
庭園内をテーブルの方へ移動していた私の髪を結んでいたリボンが解けて風に飛ばされてしまい、それを拾った殿下は私の所まで持って来て下さった。
今ならば、不敬な事だと分かるのですが、そんな事も知らなかった私は、目の前まで来た殿下の天使の様に綺麗な顔に見惚れてしまいました。
羨ましくなるような鴉の濡れ羽色の艶やかで真っ直ぐな黒髪、健康的な肌の色、夏の海のような鮮やかな蒼い瞳。瞳の外周は金色、見ているだけで引き込まれそうな、そんな美しい瞳で、私は言葉も無くただただ見惚れていました。
リボンを差し出しているのに、いつまで経っても受け取らない私を、こてんと首を傾けて見ていた殿下。
その事に気付き、慌ててリボンを受け取り礼を言うとあたふたと走り去った私。
名乗りもせず、走り去ってしまった私はその後、お母様からこっぴどく怒られてしまいました。
王族に対して不敬過ぎる態度だったと、仕事が終わり、王宮から戻ったお父様からもお小言を頂きました。
当然、当主であるお父様は書面にて謝罪すると共に、直接謝罪したい旨、手紙に認めたのでした。
それから数日後、親子揃ってお城まで謝罪しに伺う事になったのでした。
幸い、王様も王妃様も殿下もお優しい方々で、気にしなくていいとお赦し下さいました。
それどころか、恐れ多くも殿下の婚約者になって欲しいと言われ、殿下と私の婚約まで決まってしまったのでした。
思えば、その頃が一番幸せだったのでは?と今になってみればそう思います。
勿論、王太子妃教育は厳しくて大変でしたが、それに関しては終わるまでの間ずっとそうだったので、殿下との関係で言えばという意味ですけれど。
しかし、王太子教育やマナー講習にダンスレッスン、剣術の稽古等を受けていて、私よりもお忙しい殿下との交流も年々減っていき、それに伴い2人の間で交わされる会話も減っていきました。
そして顔を合わせても、以前のように微笑んでくれる事も無く、眉間に皺を寄せるようになったのは、殿下が10歳になる頃からだったでしょうか。
手を繋ぐ事もなくなって、早足できびきびと歩く殿下の後ろを、ちょこまかと小走りするみたいに付いて歩いていた私に、歩調を合わせてくれる訳でもなく、立ち止まって待ってくれる事もありませんでした。
私の方も会う度に冷たい態度をとられ、彼との定例のお茶会等のある日は憂鬱な物へとなって行ったのは言うまでもありません。
恐らく、誕生日のプレゼントも舞踏会に着ていくドレスも、今にしてみれば殿下が選んだ物ではなく、侍従の方か、誰か他の人が選んだ物だったのではないでしょうか?
誕生日プレゼントはアクセサリーや宝石ではないのは別にいいのですが、何か得体のしれない奇妙な置物だったり、ドレスはどう見ても私には似合いそうも無いようなデザインやサイズの合わない物ばかりだったからです。
ダンスも婚約を結んだ当初は、一緒に踊るのが楽しくて仕方ありませんでした。
殿下の方も眩しいくらいの笑顔でとても楽しそうでしたもの…。
けれど今は…
舞踏会の時など一緒に踊ると、2人の関係を表すみたいな、私はただ振り回されているだけのような自分勝手なダンスでした。
勿論、殿下のお顔は笑顔ではなくて、眉間に皺を寄せた、不機嫌さしかないお顔で踊っていらっしゃいます。しかも、眼も合わせないどころか、顔まで背けられて…。
踊っている間も、踊り終わってからも周りからクスクスと笑い声が聞こえてきます。しかも、割りと大きな声で…。
そして踊り終わった後、殿下は義務は果たしたとばかりにさっさと、ご友人達や側近の方達と楽しそうに歓談されています。
その姿を壁の花になって見ている私に、聞こえよがしに近くで歓談しているご令嬢方が言うのです。
「殿下に不釣り合いな出来損ないが、何故いつまでも婚約者の座にいるのか。」
「何故、とっとと婚約を解消しないのか。」
「あんな出来損ないが婚約者とは、殿下がお可哀想だ。」
「幼馴染みのローザリンデ様との間を引き裂いた悪役令嬢。」
等と…。
私は1人で帰って差し支えない時間がくるまで、聞こえないふりをしています。
帰る時は殿下が他の方達と歓談している所へ顔を出すと、機嫌を損ねる為、ホールにいる給仕の方に帰る事を伝える伝言のメモを彼に渡して貰う様にしているのでした。
そんな私の視線の先では、殿下が側近の方達と歓談されていて、その中には1人のご令嬢がいます。
リビルド伯爵家のご令嬢、ローザリンデ・リビルド伯爵令嬢です。彼女は殿下の幼馴染みで、国王様と彼女の父親が王立学園時代のご学友だそうで、幼い頃から、彼女が王宮に遊びに行ったり、殿下が伯爵家まで遊びに行ったりするほど親しい間柄で、気心の知れた相手な上、彼女との会話はとても楽しいのだといつも殿下は仰っています。
私も何度か殿下とのお茶会などで彼女とご一緒する事がありました。
というよりも、殿下とのお茶会にはいつもローザリンデ嬢が同席していました。
私の家は、隣国と国境を接している辺境にある、カスぺラード辺境伯家です。
ランドルフ・カスペラード辺境伯。それが父の名前で、私はその次女のリンジー・カスペラードです。母はジゼル・カスペラード辺境伯夫人。あと、年の離れた姉と弟がいます。
姉は19歳で、私が11才の時に隣国のデュボア侯爵家へ嫁ぎました。
この頃には既に、殿下との婚約を解消したいと何度も両親にお願いしていた私の事を、姉は最後まで心配してくれていたのでした。
彼が、侮蔑と嫌悪感に満ちた眼で私を見る様になったのは…?
いつからだろう?
私の言動に対して、彼が眉間に皺を寄せ、蔑んだ眼で睨み付け、舌打ちをする様になったのは…?
~~~~~~~~~~~~
私が王太子であるランディ殿下に初めて会ったのは王宮の庭園で開かれたお茶会での事。
殿下は当時7歳、私は5歳で、その日は風が強かったのを今でも覚えています。
庭園内をテーブルの方へ移動していた私の髪を結んでいたリボンが解けて風に飛ばされてしまい、それを拾った殿下は私の所まで持って来て下さった。
今ならば、不敬な事だと分かるのですが、そんな事も知らなかった私は、目の前まで来た殿下の天使の様に綺麗な顔に見惚れてしまいました。
羨ましくなるような鴉の濡れ羽色の艶やかで真っ直ぐな黒髪、健康的な肌の色、夏の海のような鮮やかな蒼い瞳。瞳の外周は金色、見ているだけで引き込まれそうな、そんな美しい瞳で、私は言葉も無くただただ見惚れていました。
リボンを差し出しているのに、いつまで経っても受け取らない私を、こてんと首を傾けて見ていた殿下。
その事に気付き、慌ててリボンを受け取り礼を言うとあたふたと走り去った私。
名乗りもせず、走り去ってしまった私はその後、お母様からこっぴどく怒られてしまいました。
王族に対して不敬過ぎる態度だったと、仕事が終わり、王宮から戻ったお父様からもお小言を頂きました。
当然、当主であるお父様は書面にて謝罪すると共に、直接謝罪したい旨、手紙に認めたのでした。
それから数日後、親子揃ってお城まで謝罪しに伺う事になったのでした。
幸い、王様も王妃様も殿下もお優しい方々で、気にしなくていいとお赦し下さいました。
それどころか、恐れ多くも殿下の婚約者になって欲しいと言われ、殿下と私の婚約まで決まってしまったのでした。
思えば、その頃が一番幸せだったのでは?と今になってみればそう思います。
勿論、王太子妃教育は厳しくて大変でしたが、それに関しては終わるまでの間ずっとそうだったので、殿下との関係で言えばという意味ですけれど。
しかし、王太子教育やマナー講習にダンスレッスン、剣術の稽古等を受けていて、私よりもお忙しい殿下との交流も年々減っていき、それに伴い2人の間で交わされる会話も減っていきました。
そして顔を合わせても、以前のように微笑んでくれる事も無く、眉間に皺を寄せるようになったのは、殿下が10歳になる頃からだったでしょうか。
手を繋ぐ事もなくなって、早足できびきびと歩く殿下の後ろを、ちょこまかと小走りするみたいに付いて歩いていた私に、歩調を合わせてくれる訳でもなく、立ち止まって待ってくれる事もありませんでした。
私の方も会う度に冷たい態度をとられ、彼との定例のお茶会等のある日は憂鬱な物へとなって行ったのは言うまでもありません。
恐らく、誕生日のプレゼントも舞踏会に着ていくドレスも、今にしてみれば殿下が選んだ物ではなく、侍従の方か、誰か他の人が選んだ物だったのではないでしょうか?
誕生日プレゼントはアクセサリーや宝石ではないのは別にいいのですが、何か得体のしれない奇妙な置物だったり、ドレスはどう見ても私には似合いそうも無いようなデザインやサイズの合わない物ばかりだったからです。
ダンスも婚約を結んだ当初は、一緒に踊るのが楽しくて仕方ありませんでした。
殿下の方も眩しいくらいの笑顔でとても楽しそうでしたもの…。
けれど今は…
舞踏会の時など一緒に踊ると、2人の関係を表すみたいな、私はただ振り回されているだけのような自分勝手なダンスでした。
勿論、殿下のお顔は笑顔ではなくて、眉間に皺を寄せた、不機嫌さしかないお顔で踊っていらっしゃいます。しかも、眼も合わせないどころか、顔まで背けられて…。
踊っている間も、踊り終わってからも周りからクスクスと笑い声が聞こえてきます。しかも、割りと大きな声で…。
そして踊り終わった後、殿下は義務は果たしたとばかりにさっさと、ご友人達や側近の方達と楽しそうに歓談されています。
その姿を壁の花になって見ている私に、聞こえよがしに近くで歓談しているご令嬢方が言うのです。
「殿下に不釣り合いな出来損ないが、何故いつまでも婚約者の座にいるのか。」
「何故、とっとと婚約を解消しないのか。」
「あんな出来損ないが婚約者とは、殿下がお可哀想だ。」
「幼馴染みのローザリンデ様との間を引き裂いた悪役令嬢。」
等と…。
私は1人で帰って差し支えない時間がくるまで、聞こえないふりをしています。
帰る時は殿下が他の方達と歓談している所へ顔を出すと、機嫌を損ねる為、ホールにいる給仕の方に帰る事を伝える伝言のメモを彼に渡して貰う様にしているのでした。
そんな私の視線の先では、殿下が側近の方達と歓談されていて、その中には1人のご令嬢がいます。
リビルド伯爵家のご令嬢、ローザリンデ・リビルド伯爵令嬢です。彼女は殿下の幼馴染みで、国王様と彼女の父親が王立学園時代のご学友だそうで、幼い頃から、彼女が王宮に遊びに行ったり、殿下が伯爵家まで遊びに行ったりするほど親しい間柄で、気心の知れた相手な上、彼女との会話はとても楽しいのだといつも殿下は仰っています。
私も何度か殿下とのお茶会などで彼女とご一緒する事がありました。
というよりも、殿下とのお茶会にはいつもローザリンデ嬢が同席していました。
私の家は、隣国と国境を接している辺境にある、カスぺラード辺境伯家です。
ランドルフ・カスペラード辺境伯。それが父の名前で、私はその次女のリンジー・カスペラードです。母はジゼル・カスペラード辺境伯夫人。あと、年の離れた姉と弟がいます。
姉は19歳で、私が11才の時に隣国のデュボア侯爵家へ嫁ぎました。
この頃には既に、殿下との婚約を解消したいと何度も両親にお願いしていた私の事を、姉は最後まで心配してくれていたのでした。
0
お気に入りに追加
121
あなたにおすすめの小説
好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】
皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」
「っ――――!!」
「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」
クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。
******
・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。
初めての相手が陛下で良かった
ウサギテイマーTK
恋愛
第二王子から婚約破棄された侯爵令嬢アリミアは、王子の新しい婚約者付の女官として出仕することを命令される。新しい婚約者はアリミアの義妹。それどころか、第二王子と義妹の初夜を見届けるお役をも仰せつかる。それはアリミアをはめる罠でもあった。媚薬を盛られたアリミアは、熱くなった体を持て余す。そんなアリミアを助けたのは、彼女の初恋の相手、現国王であった。アリミアは陛下に懇願する。自分を抱いて欲しいと。
※ダラダラエッチシーンが続きます。苦手な方は無理なさらずに。
王命を忘れた恋
須木 水夏
恋愛
『君はあの子よりも強いから』
そう言って貴方は私を見ることなく、この関係性を終わらせた。
強くいなければ、貴方のそばにいれなかったのに?貴方のそばにいる為に強くいたのに?
そんな痛む心を隠し。ユリアーナはただ静かに微笑むと、承知を告げた。
七年間の婚約は今日で終わりを迎えます
hana
恋愛
公爵令嬢エミリアが十歳の時、第三王子であるロイとの婚約が決まった。しかし婚約者としての生活に、エミリアは不満を覚える毎日を過ごしていた。そんな折、エミリアは夜会にて王子から婚約破棄を宣言される。
婚約者に消えろと言われたので湖に飛び込んだら、気づけば三年が経っていました。
束原ミヤコ
恋愛
公爵令嬢シャロンは、王太子オリバーの婚約者に選ばれてから、厳しい王妃教育に耐えていた。
だが、十六歳になり貴族学園に入学すると、オリバーはすでに子爵令嬢エミリアと浮気をしていた。
そしてある冬のこと。オリバーに「私の為に消えろ」というような意味のことを告げられる。
全てを諦めたシャロンは、精霊の湖と呼ばれている学園の裏庭にある湖に飛び込んだ。
気づくと、見知らぬ場所に寝かされていた。
そこにはかつて、病弱で体の小さかった辺境伯家の息子アダムがいた。
すっかり立派になったアダムは「あれから三年、君は目覚めなかった」と言った――。
【R18】私は婚約者のことが大嫌い
みっきー・るー
恋愛
侯爵令嬢エティカ=ロクスは、王太子オブリヴィオ=ハイデの婚約者である。
彼には意中の相手が別にいて、不貞を続ける傍ら、性欲を晴らすために婚約者であるエティカを抱き続ける。
次第に心が悲鳴を上げはじめ、エティカは執事アネシス=ベルに、私の汚れた身体を、手と口を使い清めてくれるよう頼む。
そんな日々を続けていたある日、オブリヴィオの不貞を目の当たりにしたエティカだったが、その後も彼はエティカを変わらず抱いた。
※R18回は※マーク付けます。
※二人の男と致している描写があります。
※ほんのり血の描写があります。
※思い付きで書いたので、設定がゆるいです。
慰み者の姫は新皇帝に溺愛される
苺野 あん
恋愛
小国の王女フォセットは、貢物として帝国の皇帝に差し出された。
皇帝は齢六十の老人で、十八歳になったばかりのフォセットは慰み者として弄ばれるはずだった。
ところが呼ばれた寝室にいたのは若き新皇帝で、フォセットは花嫁として迎えられることになる。
早速、二人の初夜が始まった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる