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7.セレス ⑦ (後半アランside)
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ソフィアと楽しげに踊っているアランは、私を探すような素振りも無く、壁際に居る私と目が合う事も無かった。
その事実に胸が痛んで落ち込みはしたが、一緒に居てくれたフィーのお陰で陰鬱な気分にならずに済んだし、彼女との会話は楽しかった。
ウィットに富んだ会話に然り気無い気遣いができる上、姿勢の良い凜とした姿と優雅な所作は“貴婦人”と呼ぶに相応しい。
其れ等は一朝一夕に身に付く物ではない。彼女自身、相当な努力をして身に付けたのだろう。
私もかくありたいものだとその姿を憧憬の眼差しで見ていた。
△▽△▽△▽△▽△
オーベルジュ家、フィーの実家は代々武官を輩出しているらしい。
道理で反射神経が良いと思った。(私が勝手に思っているだけ。)
「本当は騎士になりたかったんだけどね。」
ポツリと呟いた一言に、傍から見ればどれほど羨まれ恵まれているように見えたとしても儘ならない事があるのだと知った。
「儘ならないものね。」
溜め息混じりに言った後、少し困ったように微笑みつつ私に言う。
「だからと言って、あんな男と結婚しなくちゃいけない訳じゃないわよ。セレスには幸せになって欲しいと心から思っているの。」
フィーの言葉は嬉しかった。
でもアランへの気持ちがその言葉に頷く邪魔する。
どれほど蔑ろにされても、偶に見せる優しさに結婚したら伴侶として大切にしてくれると期待してしまう。
それがどんなに愚かな考えだと頭でわかっていたとしても、心ではそれを受け容れられないのだ。
「セレス…こんな所に居たんだね。一緒に居るのは君の友人かな?良ければ紹介してくれないか。」
突然掛けられた言葉にフィーとの会話ですっかり気が緩んでいた私は、いきなり冷や水を浴びせられた思いがした。
と言うのも、その声の主がソフィアと一緒に居る筈のアランの物だったからだ。
彼女とダンスをしていた彼は、あのまま私の側に近寄る事は無いと思っていたのに。
しかも、これまでセレスには殆ど見せた事の無いような柔やかな表情で話し掛けて来たアランに困惑するばかりだった。
△▽△▽△▽△▽△
─ アランside ─
ソフィアとダンスを踊っていた時、何気なく向けた視線の先にセレスの姿があった。
迎えに行く事もエスコートもしなかったのだから、その意図を汲んで来なければいいものを、わざわざ嘲笑されに来るとは被虐趣味でもあるのかと舌打ちをしたくなる。
だが、いつもなら顔色悪く突っ立っているだけなのに、今日は誰かと会話をしている上、笑顔まで見せている。
珍しい事もあるものだと相手が何処の令嬢なのか気になりその顔を見た。
!?
驚いた。あれと交流するようなダサい女じゃなく、少し年上(恐らく2~3才)の艶っぽい女だった。
思わずゴクリと唾を飲む。
スラリと伸びた手足に細く括れたウエスト。胸は小さそうだが緩くウエーブした髪を結い上げ項にほんの少し後れ毛が掛かり、それが却って色っぽい。
分厚すぎずぽってりとした唇、俺に気付いたのか切れ長の目は流し目を送って来ているようで…。
派手さは無いがその容姿は華やかで妖艶。地味で目立たないセレスとは真逆と言っても過言ではない。
現に周囲にいる男達も彼女が気になるのか、ダンスに誘いたそうにそわそわしている様だ。
彼女はセレスの友人なのだろうか?
「いや、ないか…。だが悪くない。」
「アラン?」
「……ん?」
「いえ…何でもないわ。」
考え事をしていたら、ソフィアに声を掛けられた。不安そうに俺の顔を見上げている。
あれほど愛おしいと思っていた筈なのに、セレスの隣に居る彼女を見た後では凄く色褪せ、ソフィアに向けていた愛情も目減りしたように感じた。
なんとかあの妖艶な美女を口説き落としたいものだ。
そう考え、ダンスが終わった後「すまない。一応セレスに声を掛けておかないとマズいから…。だからソフィアは友人の令嬢達とお喋りでもして待っていてくれないか。」と諭すように言った。
名残惜しそうに何度も振り返る彼女の背中を見送り、セレス達の居る方へと向かった。
~~~~~~~~
*お付き合い(お読み)いただきありがとうございます!
*お気に入り、しおり、いいねやエールも本当にありがとうございます!!
その事実に胸が痛んで落ち込みはしたが、一緒に居てくれたフィーのお陰で陰鬱な気分にならずに済んだし、彼女との会話は楽しかった。
ウィットに富んだ会話に然り気無い気遣いができる上、姿勢の良い凜とした姿と優雅な所作は“貴婦人”と呼ぶに相応しい。
其れ等は一朝一夕に身に付く物ではない。彼女自身、相当な努力をして身に付けたのだろう。
私もかくありたいものだとその姿を憧憬の眼差しで見ていた。
△▽△▽△▽△▽△
オーベルジュ家、フィーの実家は代々武官を輩出しているらしい。
道理で反射神経が良いと思った。(私が勝手に思っているだけ。)
「本当は騎士になりたかったんだけどね。」
ポツリと呟いた一言に、傍から見ればどれほど羨まれ恵まれているように見えたとしても儘ならない事があるのだと知った。
「儘ならないものね。」
溜め息混じりに言った後、少し困ったように微笑みつつ私に言う。
「だからと言って、あんな男と結婚しなくちゃいけない訳じゃないわよ。セレスには幸せになって欲しいと心から思っているの。」
フィーの言葉は嬉しかった。
でもアランへの気持ちがその言葉に頷く邪魔する。
どれほど蔑ろにされても、偶に見せる優しさに結婚したら伴侶として大切にしてくれると期待してしまう。
それがどんなに愚かな考えだと頭でわかっていたとしても、心ではそれを受け容れられないのだ。
「セレス…こんな所に居たんだね。一緒に居るのは君の友人かな?良ければ紹介してくれないか。」
突然掛けられた言葉にフィーとの会話ですっかり気が緩んでいた私は、いきなり冷や水を浴びせられた思いがした。
と言うのも、その声の主がソフィアと一緒に居る筈のアランの物だったからだ。
彼女とダンスをしていた彼は、あのまま私の側に近寄る事は無いと思っていたのに。
しかも、これまでセレスには殆ど見せた事の無いような柔やかな表情で話し掛けて来たアランに困惑するばかりだった。
△▽△▽△▽△▽△
─ アランside ─
ソフィアとダンスを踊っていた時、何気なく向けた視線の先にセレスの姿があった。
迎えに行く事もエスコートもしなかったのだから、その意図を汲んで来なければいいものを、わざわざ嘲笑されに来るとは被虐趣味でもあるのかと舌打ちをしたくなる。
だが、いつもなら顔色悪く突っ立っているだけなのに、今日は誰かと会話をしている上、笑顔まで見せている。
珍しい事もあるものだと相手が何処の令嬢なのか気になりその顔を見た。
!?
驚いた。あれと交流するようなダサい女じゃなく、少し年上(恐らく2~3才)の艶っぽい女だった。
思わずゴクリと唾を飲む。
スラリと伸びた手足に細く括れたウエスト。胸は小さそうだが緩くウエーブした髪を結い上げ項にほんの少し後れ毛が掛かり、それが却って色っぽい。
分厚すぎずぽってりとした唇、俺に気付いたのか切れ長の目は流し目を送って来ているようで…。
派手さは無いがその容姿は華やかで妖艶。地味で目立たないセレスとは真逆と言っても過言ではない。
現に周囲にいる男達も彼女が気になるのか、ダンスに誘いたそうにそわそわしている様だ。
彼女はセレスの友人なのだろうか?
「いや、ないか…。だが悪くない。」
「アラン?」
「……ん?」
「いえ…何でもないわ。」
考え事をしていたら、ソフィアに声を掛けられた。不安そうに俺の顔を見上げている。
あれほど愛おしいと思っていた筈なのに、セレスの隣に居る彼女を見た後では凄く色褪せ、ソフィアに向けていた愛情も目減りしたように感じた。
なんとかあの妖艶な美女を口説き落としたいものだ。
そう考え、ダンスが終わった後「すまない。一応セレスに声を掛けておかないとマズいから…。だからソフィアは友人の令嬢達とお喋りでもして待っていてくれないか。」と諭すように言った。
名残惜しそうに何度も振り返る彼女の背中を見送り、セレス達の居る方へと向かった。
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