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21. 話し合い

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    まさかあの時、俺達を牢屋から逃がしてくれた男が、レーベンドルフ王国の王太子の側近だとは思わなかった。

「あの時は助かった、ありがとう。」
「……だが…残念ながら、王女は救えなかったようだな…。何と言っていいのか…。お悔やみ……」
「いや、王女は生きている。無事だったんだ。だから…本当に感謝しかない。ありがとう。」
「…助かった…のか?本当に…?」
「あぁ、本当だよ。………ところで、何でうちの王子を探しているんだ?」

    確かに、俺達を牢屋から出してくれた。その事には感謝して礼を言った。
    だが、それとは別だ。
    エルガー王子を探し出して如何するつもりなのか…。

道の往来ここでは出来ない話なのだが……。」

    ワーグナーが困ったように言う。

「じゃあ、場所を変えよう。」

    ヘルマンを、エルガー王子への報告に走らせた。
    話を聞くだけで、一触即発の空気にされては元も子もないからだ。



 そして、場所を変えて話を聞く。
 が、聞いて後悔した。


 何て問題を持ち込んでくれたんだ。

 正直、そう思った。
 だが、俺達を牢屋から逃がしてくれた借りがある。いつか何処かで、その借りを返せたらと思っていた。

 だから、この件に関しては俺達だけで動くつもりだった。


 ワーグナーの話は、噂以上の内容だった。国王ヴァルターと王太子フランツの仲違いどころか、権力闘争ではないか!

 しかも、権力闘争に敗れた王太子が投獄され、それを救い出す手伝いをしろと言うのだ。

 レーベンドルフ王国内に味方は少なく、救い出した後、反対勢力として戦う為に手を組む事を望んでいるという。

 何て無茶振りをしてくれるんだ。こっちだって、兵力が圧倒的に足りないと言うのに……。

 取り敢えず、エルガー王子や反乱軍(軍と言える規模ではないが)の代表にも話をしてみないと、この場で返答出来ない。
 
 そして、良い返事は期待しないで欲しい。

 と、そう伝えるしか出来無かった。

 彼もまた、良い返事をもらえるとは思っていなかったようだった。

 だが、話をした彼の印象から、恐らく自分が仕えている主の為に、動かずにはいられないのだろう。

 
~~~~~


 ラルフ達が戻って来てから、会議が始まったらしく、既に3時間ほど経過している。

 けれど、一向に終わる気配が無い。時々、怒号が飛び交っているみたいな声が聞こえてきたりした。

 フランツ王子の側近と接触した事で、王都の潜伏先の邸で話し合うのは危険だという事で、王都の郊外にあるこの家で会議をしているのだ。

「人間って、何かと面倒臭いんだね」

 クッキーを囓りながらルークが言った。今は人型になっている。
 小鳥の姿だと、クッキーを粉々にしないと食べられない。
 
 ルークが言うには、「そんなのクッキーじゃない!」らしい。

 何だかよく分からないけれど、色々と拘りがあるのだと思う。

 コン、コン、コン。

 扉をノックする音がした。

 慌てて小鳥に変化したルークの手からクッキーが落ちた。
 すかさずエレナがキャッチした。

「どうぞ。」

 返事をした。
 ゆっくり開いた扉から姿を現したのは、兄のエルガーだった。

「こんな時間にすまない。」
「いえ、お気になさらず。とこで、話し合いは終わったのでしょうか?」

 疲れ切った表情で、苦笑した兄。

「いや~、揉めに揉めたよ。と言っても、相手をどの程度、信用できるかって事なんだけどね。」
「お疲れ様でした。お茶でも淹れましょうか?」
「あぁ、頼む。」

 兄はエレナの気遣いに、お茶をお願いすると、私の肩に止まっているルークを見て眼を細めた。

 癒やされてますわね、お兄様。

 ルークの頭や顎を指先で撫でてあげると、気持ち良さそうに眼を細めて、ピチュピチュと啼く。

 か、可愛い~。
 流石“雪の妖精”と言われる、シマエナガ、癒やされます。

 お兄様なんて、目尻が下がりきっています。

 わかりますわ、その気持ち。

「可愛いね。ところで、小鳥なんていつから飼ってるの?」

 やっぱり聞かれましたね。
 けれど、本当の事を言って良いやら……。

 そう思っていたら、

「その小鳥…ツュプレッセ…が見つけた精霊だよね。」
「……ッ?!どうして……?!」
「そりゃあ分かるよ。幼い頃に見せてもらった時と、気配が同じだったから…。」

 そう言って肩を竦めて見せる。

「…にしても、えらく可愛い姿に化けたもんだね。ふふふ。」

 笑って、ルークの方に手を伸ばす。

「触ってもいいのかな?」

 ルークが大きく羽を広げ、バタつかせて威嚇しているみたいだった。

「…ごめんなさい。なんか、機嫌が悪いみたい。」

 お兄様は項垂れて、しょんぼりと肩を落としたのだった。。
 
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みんなの感想(2件)

スパークノークス

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プロテ先生
2021.09.14 プロテ先生

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