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15. 合流

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    街外れにある隠れ家での生活も、二月になろうとしていた日の夕方、王都へ買い出しと情報集めに行っていたラルフとニルスが、人を伴って戻って来たとクラウスが伝えに来た。

    夕飯の支度をしていた私とエレナは、いつでも逃げ出せるように、予め纏めていた荷物を部屋から持ち出し、勝手口がある台所に隠れて様子を伺う。

    オスカーとクラウスは玄関の扉の内側で、剣の柄に手を掛けて待ち構えている。

    緊張が高まる中、一行が近付いて来たが、何やら会話しながら歩いている様子に、一緒にいるのは敵ではないのか?と思うも、警戒を緩める事は無かった。

    そして、扉がノックされると、決められていた合図が交わされ、オスカーとクラウスは鞘から剣を抜き、構えた。

    扉が開くと、ラルフとニルスが眼を大きく見開いた後、手の平を見せる仕草で剣を下ろすように合図すると、にこやかに告げた。

「ツィギー、懐かしい方をお連れしたぞ。」

    万が一を考え、私の偽名を呼び、砕けた口調で言いながら、後ろにいた人物を中に招き入れた。

    その人物二人が中に入ると扉を閉める。
    二人が被っていたフードを外すと、一人は知らない顔だったが、もう一人は会いたかった人だった。

「お兄様!」

    部屋の奥の台所から駆け寄った。

「…ツュプレッセ」

    口の形だけで名前を呼ぶ兄に抱きついた。
    その温もりで現実だと分かった。
    
『『本当に生きていた!』』

    その場にいた皆が笑顔で再会を喜びあった。

    そして、夕飯を食べた後、お茶を飲みながらお互いに情報を交換する。

    幼い頃から、兄同様に可愛がってくれたヒースお兄様が、エルガーお兄様の身代わりになって死んだと聞き、やっぱりあの首はヒースお兄様の物だったのだと、今更ながら悲しくなった。

    余り驚いていない私に、お兄様が聞いてきたので、首が晒される前に、両親の首と共に見せられた事を話すと、怒りに震えていた。

    そして、ラルフとお兄様が話していた中で、ある疑問が生じた。
    それは、ラルフ達を牢屋から逃がした人物…その正体が分からなかった事だ。

    何より、その人物は、私が「夜砥を命じられた」のが、生き残りを誘き出す為の罠だと知っていただけでなく、密かに私が隣国へ移送される事まで知っていたのだから…。

「あの時は信用したが、今考えてみると何だか気味が悪いな…。」

    そう言って、手の平で口を押さえているラルフの顔色は悪かった。

「ラルフもオスカーも、そいつの顔見てないの?」

    二人の方を見てニルスが問う。

「あぁ。何かフードを目深に被った暗い奴だった。」

    オスカーが顎を擦りながらラルフの方を見ると、同意するように頷いた。

「何だか雲を掴むような話ですね。…と、自己紹介がまだでしたね。ウォルフガング・アドラー、エルガー様の護衛です。よろしく。」

    エルガー兄様の隣にいた方が言う。
180cmあるお兄様よりも背の高い、少し癖毛の黒髪、短髪で碧眼の穏やかな表情をした人だった。

    ラルフ達を逃がした人物については、城内に潜入している仲間に伝えて、協力者なのか調べると共に、違った場合、こちら側に引き込めるなら、仲間にする事に決まった。


    その夜、中々眠れずにいた私は、夜着の上からショールを羽織り、なるべく音を立てないように一階に降りると、勝手口からそっと外に出た。

    空を見上げると、満天の星空が広がっている。吸い込まれそうな感じに、ぶるりと身体を震わせた。

    目の前に、小さな光が灯る。

    名も知らぬ気紛れな光の精霊。
    普段は呼んでも姿を現さないのに…。
  
    精霊に性別は無いらしく、彼と呼べばいいのか、彼女と呼べばいいのか?

    くるりと輪を描くように飛んだ後、目の前で止まって、微笑みながら言った。

「ボクの名前、知りたい?」

    気紛れで悪戯好きな精霊が、容易く名前を教えるとも思えないし、騙されるかもしれない。

    でも、万に一つの望みをかけてみようと思った。

「出来れば教えて欲しいと思うけど、無理しなくてもいいわよ。」    

    と、正直に答えた。

「やっぱり、君は面白いや。」

    そう言って、またくるりと輪を描きながら飛ぶ。

    そして、此処から事態は動き始める。
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