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13. これから

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    村から離れた後、町や村に隠れるのは危険だと思った私たちは、この先何処に隠れればいいか頭を悩ませた。
  
    “灯台もと暗し”で、王都の下町など、以外と大丈夫なのでは?といった意見もあったけれど、他国の諜報員等が、戦争のどさくさに紛れて入り込んでいたりして、逆に危ないという意見もあった。

    が、潜伏場所に困る一番の理由…それは…
“私”だった。

    嫌でも“目立つ”のだ、私の容姿が…。
    どうやってもこの髪の色。そして何よりも、このアレキサンドライトの瞳が…。

    どうしたものかと考え込んでいたら、ラルフが二組に別れて潜伏するという案を出した。

    先ず二組に別れ、片方は王都の下町に潜伏、もう片方は王都から離れた(郊外の)目立たない場所に隠れるといった案だった。
    勿論、郊外に隠れる方には私とエレナが行く事になる。

    それが一番無難そうだと賛成する者が多かったので、その案で話を進める。

    王都の下町に潜伏する事になったのは、カール、クルト、ギルス、オットー、ゼビオの六人。
    そして、隠れ家は、ツュプレッセ、エレナ、ラルフ、オスカー、ニルス、クラウスの六人に決まった。

    潜伏先を探す前に、先に拠点とする隠れ家を探す事になったのだが、こちらは以外と早く見つかった。
    と言うのも、カスパーの祖父母が住んでいた家が王都からそれ程離れていない場所にあり、あまり目立たず王都から往き来しやすかったのが決め手になった。
    祖父母が亡くなり、3~4年経つが誰も使う者がいない為、そのままになっていたらしい。
    幸い、人が住んでいなかった割りには家も傷んでおらず、調度類も揃っていたから助かった。

    ただ、家の周りは雑草が延び放題になっていたが、明日から潜伏先を探す事と、雑草を抜く作業をする事に決まった。
    当然、雑草を抜くのは隠れ家組で、今夜からこの家で寝泊まりする。
    王都での下町で潜伏する組はそのまま王都に留まる。

    ラルフとニルスは買い出しをするので、潜伏組と一緒に王都へ向かった。

    残った私達は、お茶が無いのでお湯を飲みながら話をしていた。

    クラウスは王宮の王族専用門の門番だったそうで、あの日は交代後、仮眠をとっていて異変に気づいた時には、勤務中だった同僚は殺され、間一髪助かった彼は、生き残った仲間と共に警備や護衛の任に就いている者の中で、無事だった者を探し回っていたという。

    ニルスは庭園を、同僚と新人の三人一組で警備巡回中に、王宮の方が騒がしい事に気づき、様子を見に行こうとしたら、新人が後ろからいきなり斬りつけてきたと言い、不幸にも最初に斬りつけられた同僚は命を落とし、む無く彼は新人を斬り殺したのだった。

    悲痛な面持ちの二人を、胸の痛む思いで見ていた私とエレナは、彼らに掛ける言葉が見つからなかった。

    二人は青い顔を上げると、聞いてきた。

「これからこの国はどうなるのでしょうか?」
「…レーベンドルフ王国の支配下に置かれる事は間違いないでしょう。…その先の事は…私にもわかりません。」
「家族は…私の妻や子は…?両親は?」
「 … 」

    彼らの問いに答えられなかった。
レーベンドルフ国王の残虐非道さは有名で、それを目の当たりにした私に、取り繕うような気休めの言葉など言える訳がない。

    エレナも同じだったのだろう。青い顔をしたまま、拳を握り締め俯いて肩を震わせていた。
    彼女も私も、仲の良かった侍女のオデットの消息がわからないのだから…。
    エレナの話だと、捕まった後、同じ牢に入れられたそうで、その牢には他にも十人ぐらいの侍女がいたと言う。
    そして、彼女だけが牢から引き摺り出され、あの部屋で私と再会したのだ。

「引き摺り出された時、私も牢にいた侍女達も酷い目に合わされ、殺されるのだと思っていました。」

    その言葉は目の前の彼らや私に、牢に入れられた侍女達のその後を容易に想像させる事が出来る物だった。

    部屋中が重い空気に包まれ、沈黙に支配されたみたいで息苦しさだけが感じられた。

    その時だった。それらを破るノックが響いたのは。

    ニルスが窓のカーテンの隙間から、玄関の様子を窺う。
    クラウスの方を見て頷くと、彼がドアノブを握り、ニルスが剣の柄に手を掛け、頷き合った後、勢いよく扉を開けた。

    一呼吸置いてから、ラルフ達が中に入ってきた。二人とも両手に食料や食材等を抱えている。

「遅くなり申し訳ありません。」
「お腹が空いたでしょう。すぐに食事にしましすね。」

    にこやかに言う彼らのお陰で、重苦しい空気から解放された私達の胃袋は大きな音を立てた。
    皆、それを聞いて笑い合った。

「腹が減っては戦は出来ぬ。」
「だな。」

    クラウスとニルスが言う。
    束の間の、団欒と呼んでいいのかわからないけれど、そう言ってもいいと思える時間だった。

    

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