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12. その身に宿る物
しおりを挟む幼い頃、家族で海に行った事があった。
そこは岩場が多い所だったけれど、砂浜もあって泳ぐにはもってこいの場所だった。
そして、砂浜は潮が引くと遠浅になり、岩場の向こう側まで行く事が出来た。
絵本で見る冒険者に憧れていた私は、冒険者になった気分で、普段は海水があって行けない岩場の向こう側に、侍女や護衛達が止めるのも聞かず、どんどん進んで行った。
その小さな洞窟は、岩場の隙間に隠れる様に存在していた。
何故か、中から光が見えたので、覗いて見るとそこにその洞窟があった。
侍女や護衛達には入れそうにない洞窟に入って行くと、金属製の土台にガラスの筒が付いていて、その中が光っていた。
その光が何なのか知りたくて、ブンブン振ったり、力任せに叩いたりしていたけれど、中々壊れなかった。
暫く振り回していたら、蓋がすっぽ抜けたみたいに、中身が飛び出した。
私は恐る恐る近付くと、それを見た。
光っていたのは、私の手の平に乗りそうなほど小さな生き物で、ブンブン振ったりしていた所為か、眼を回しているように、ぐったりしていた。
生きているのか死んでいるのか分からないから、恐々突っついてみると起きた。
ガラスの筒から出られた事が分かったその生き物は、狂喜乱舞した。
それだけでなく、私の周りを飛びだした。まるで、蚊か蝿のように。
やがて、私の居場所が分かったのか、侍女や護衛達が洞窟の中に向かって私の名前を呼んでいた。
彼らにもその生き物を見せてあげたくて、手の平に乗せたまま歩き出した私に、制止する声が聞こえた。
周囲を見ても誰も居ないから、気の所為かと思っていたら、また聞こえた。
まさかと思って、手の平の上に乗っている生き物を見たら、頷いていた。
そして、声は耳に聞こえていたのではなく、頭の中に響いていた事が分かった。
絵本で見る妖精からみたいだと思っていた。尤も、絵本の妖精はほとんど人型だけど、その妖精(?)は動物のような姿をしていた。馬に近いけれど馬ではない…?
その生き物は、自分の存在を誰にも言っては駄目だと言う。人間に捕まってガラスの筒に入れられたから、そんな目に遭うのはもう嫌なんだと。
でも、その生き物が許した者なら言ってもいいらしい。
そして取り引きというか、契約を持ち掛けてきた。
『このまま外にいると、段々弱っていって死んでしまうから、私の身体の中に住ませて欲しい。その代わり、どうしても力が必要な時は、力を貸してくれる。』その為の契約をしたいのだと言った。
幼かった私は、軽い気持ちでその生き物と契約を結んでしまった。
それがどういう事か分からないままに…。
契約を結んで初めてその生き物の正体を知った。その生き物は、精霊だった。
けれど当時の私は、妖精と精霊の違いが分かっていなかった。
妖精も精霊も、人間からしてみれば、それほど変わりはしない。
そう、彼らは人間にとって恐ろしい存在だったのだ。
決して絵本に描かれているような存在ではない。
妖精は悪戯好きだけど、その悪戯はとんでもない悪戯だ。
例えば、人間の赤ん坊を取り替えたり、隠れんぼと称して神隠しに遭わせてみたり…といった具合だ。
そして、精霊はもっと辛辣で非情だと思う。
私はつい最近、それを目の当たりにしたばかりだった。
それ以前にも、そう思うような事はあった。でも、「何よ、冷たいわね。」と言う程度や、「冷たすぎる。」と言う程度で、今回のように背筋が凍るほどではなかった。
偶々、私の傍にいるのがそんな精霊だっただけなのかも知れないけれど…。
そして、そんな精霊と契約を結んでしまった私は、ではなく正確には、私の身体は器だと言っていた。私が死んだ後、この身体は契約した精霊の物になるらしい。
それが分かったのも、つい最近だった。
~~~~~
馬車が崖から落ちたあの日、本当なら三人とも死んでいた。
けれど、私がこの身に宿している精霊に助けを求めたから三人とも生きている。
私はあの時精霊が言った言葉を忘れることはできないと思う。今でも耳に残っているあの言葉を…。
助けてと言った後、
「何で助けなきゃいけない訳?君が死んだらその身体が手に入るのに。」
精霊はそう言ったのだ。
そして、ラルフとエレナを助けてくれるようにお願いしたのに、
「えぇぇ。面倒臭い。彼らが死んでも自分には関係無いから。」
そんなやり取りをしている間に、落ちた二人は虫の息だった。
そして、助けてくれたものの、“死なない”といっても、二人とも酷い怪我をしたまま。
怪我の治癒をお願いしたら、
「えぇぇ。今のところ、死なないからいいじゃないか。」
と言った。
「信じられない!こんな酷い怪我で治癒も治療もせずに放っておいたら、そのうち死んでしまうじゃない。」
そこまで言って、やっと治癒の精霊魔法を掛けてくれた。
が、最後に言った言葉が、
「ほんと、煩いよね。」
だった…。
精霊との契約は、本来ならば精霊の“本当の名前”が分かった上で結ばれるものらしい。
そして精霊を使役したり、精霊魔法を使えるようになる。という。
そこから分かった事は、
私は騙されて精霊と契約を結んでしまった。という事なのだ。
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