上 下
12 / 22

11. 逃避行

しおりを挟む

    ラルフ達と合流した翌日、まだ日も明けきらぬうちに小屋を後にした私達は、このまま国境伝いに潜伏できそうな村か小屋を探す事にして、森の中を移動した。

    けれど、私とエレナがいるのでラルフ達だけの時よりも移動速度が遅く、予定から大幅に遅れて最初の目的地である村の近くに着いた。

    いきなり村に入る訳にもいかないので、クルトとオスカーが先に村の様子を見に行く事になった。

    暫く待っている間に彼らと話をした。ラルフ達4人以外は王宮の衛兵で、そのうちの一人がラルフの事を見知っていたから合流したそうだ。

    そして、その衛兵達が、レーベンドルフ国王に私が夜伽を命じられたと聞いて、助けに行こうとしていたと聞き、礼を言った。

    こんな時に不謹慎かもしれないが、物語に出てくるようなお姫様じゃないのが、何だか申し訳ない気がして…。
    もっと、可憐で儚げな…?そんなお姫様だったらよかったのに 、違っててごめんなさい…みたいな?

    そして、予想していたけれど、一番聞かれたくない質問をされた。

「姫様達は、どうやって崖から落ちた馬車の中から助かったのですか?」
「…それが…分からないの。気付いたら二人とも川原に倒れていて…。」
「そう…ですか…。怪我はされなかったのですか?」
「私は…でも、エレナは怪我をしていて…。もう、動けるぐらいだから…命に関わる程の怪我じゃなかったんでしょうね。」
「そうでしたか…。それはよかったです。お二方とも女性、しかも未婚だから尚更。」
「お気遣いありがとうございます。」

    何か、とても気不味くて、居たたまれない思いだった。

    そして、何か言いたそうにしていたラルフが口を開いた時に二人が戻って来て、それ以上追及されずにホッとしたけれど、そんな私をラルフが複雑な表情で見ていた事に気付かなかった。

「今のところ、追っ手は村まで来ていないようでした。」

    クルトがそう報告すると、その隣にいたオスカーが頷く。

    ラルフが皆の顔を一通り見て、村に行く事を告げると、その場で座っていた皆が立ち上がり、周囲を警戒しつつ村に入った。

    突然現れた私達に村人達は驚いていたが、村長に会いたい旨、伝えると村長の家まで案内された。

    皺の深い、日焼けした好好爺といった感じの人で、私達を歓迎して家の中に招き入れてくれる。

「こんな物しかなくて申し訳ないのですが…。」

    そう言って、村長の妻と思われる女性が私達にお茶を出してくれた。
    彼女も村長同様、皺の深い日焼けした朗らかな感じのいい人で、似た者夫婦といった感じの二人に心が暖かくなる。

    村長とラルフ達が何やら話し込んでいたけれど、村長の顔色がサッと青くなりオロオロしているところを見ると、この国が隣国に負けて支配下に置かれている事を知らなかったようだった。

    水に少し色がついただけのお茶を美味しく感じている自分に驚きつつも、ラルフと村長のやり取りを見ていた私は、早く村を離れた方がいいのでは?と思った。

    それは正解だったようで、オスカーがすぐに出発する事を私達に告げる。

    慌ただしく村を出ようとしている私達に、村長の妻は何事かと不安そうにしている。
    そんな妻に教えていいものか迷っている村長とその妻に、「この国が隣国の支配下にある事と、自分達がこの村に来た事を、もし隣国の兵士が来ても黙っていた方がいい。」と告げた。
    何も知らなければ村人達が危害を加えられる事もないだろうと。
    幸い、この村は森の奥にあるので、ラルフ達も把握していない村だった。
    運が良ければ隣国の兵士に発見されないかもしれない。
    もし、運悪く発見されたとしても、何も知らないと言えば通ると思う。
    そう言ったラルフと共に、お茶をご馳走になった礼を私達は言った。

    願わくは、この森の奥にひっそりと存在している村が、隣国の兵士に発見されない事を…。

    そして私達は村を出ると、できるだけ距離を取る為に、ここから急いで離れたのだった。

~~~~~

    ラルフ達と合流した衛兵達以外にも、ツュプレッセを救うべく行動した者達が、罠に嵌まり、ある者は捕まり、ある者はその場で討ち死にし、ある者は“見せしめ”として処刑された。

    自らも、親友であり、側近でもあったヒースを殺されたエルガーは、悔しさに臍を噛み、それでも前に進む為に奔走していた。

    そんな彼の元に、隣国に向かっていた馬車が国境近くの峠から崖下に転落したと報告を受けた。
    その報告を受けた時は、その馬車に誰が乗っていたのか、気にも止めなかった。

    が、後日その馬車に乗っていたのがツュプレッセだったようだと聞いて、打ちひしがれた。

    けれど、逃走している者達と合流し、行動を共にしていく中で、妹、ツュプレッセの生存を確信するようになっていったのだった。

    彼女が居れば勝てる!

    一瞬そう思った彼だったが、彼女の力を当てにしているだけでは駄目だと思い直した。

    は、そんな事で動きはしない。
そんな一筋縄でいかない存在である事は、自分が一番よくいる。

    そして、動いてくれなければどんな結果になるのかも…。

    身の内に、そんな恐ろしい物を宿す事になってしまったを不憫に思った。

    


    


しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

処理中です...