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8. 小屋
しおりを挟むラルフ達は暗闇の中、ランタンの灯りを頼りに、只管ツュプレッセ王女を探し回った。かなり広い範囲を探したにも拘わらず、彼女の姿を見つける事が出来なかった。
そして白々と夜が明けた。
「時間切れだ…。」
ラルフが膝を付く。ツュプレッセ王女の捜索をしていた騎士たちが、彼方此方で同じように膝を付いた。顔を両手で覆い肩を震わせている者も何人かいる。
クルトは剣を地面に突き立てると、立ち上がり周囲を見た。皆、疲労困憊していた。ラルフは握りしめていた掌を広げた。昨夜見た時はルビーの様な鮮やかな紅色だったが、朝日を受けて青緑色に輝くそれは、紛う方無き“アレキサンドライト”で作られたピアスだった。
「…アレキサンドライト…初めて見ました。…やはり王女の物だったのですね。」
目の前で紅色から青緑色に変化したイヤリングを見てオスカーが呟く。
折角、手掛かりとも言うべきツュプレッセ王女のピアスを見つけたのに、王女の行方は杳として知れなかった。
決断を迫られたラルフは手の中にあるピアスを握りしめた。
「夜が明けてしまった。時間切れだ、捜索を打ち切る。」
「そんな…」
「もっと探しましょう!」
「済まない。俺だって見つかるまで探したい。だが、明るくなってからの捜索は敵に見つかる危険がある。これ以上は…。姫が生きていると信じて仲間を集めその時に備えよう。」
項垂れ、泣いている者もいたが、皆、苦渋の決断を受け入れた。その時に備えて…。
**************************
眼が覚めた。此所は?
「 っ?! 」
起き上がろうとして、頭に鋭い痛みが走る。
「…眼が覚めたのね!」
その声と共に駆け寄ってくる少女がいた。誰だろう?と思っていると、首に抱き付いて来た。
*************************
部屋に入ってベッドの方を見ると、起き上がろうとしたのだろう。両手で頭を押さえている彼女の姿が…。
「…眼が覚めたのね!」
彼女が生きていた事が嬉しくて、思わず首にに手を回し、抱き付いてしまった。
身体を離して彼女の顔を見た。
ポカンとしている彼女に
「エレナ。生きててくれて良かった。」
「…え?あ…姫様…?え、何で?…ここは…?」
「国境近くの峠の手前、渓谷の崖から落ちちゃったらしくて…。」
「 !? よくご無事で…?生きてるのが嘘みたいです。」
「そ、そうね。けど、大した怪我も無さそうで良かったわ…。」
言われて、エレナは自分の身体を、あちこち触ってみたりして怪我の状態を確認したが、所々擦り傷があるだけだった。
不思議な事があるものね。怪我も擦り傷くらいで大した事無いなんて…。きっと、ツイてたんだわ。
などと、幸運に感謝していた。
「そんな事より、お腹が空いたんじゃない?食べられそうな物を探してきておいたんだけど…。」
「本当ですか?」
「じゃあ、持って来るわね。」
一度部屋から出て行ったツュプレッセ王女は、木のお椀に入った木の実を持って戻って来た。
「これだけしか採れなかったんだけど…。」
そう言って差し出されたお椀の中には、洗ったヤマモモが入っていた。
「姫様は…?もう、召し上がられたんですか?」
「ええ。私はもう食べたわ。だから気にせず食べて。」
一つ手に取り、口の中に放り込む。
「美味しい!」
甘酸っぱくて美味しかった。
黙々とモグモグ食べているエレナを、始めは心配そうに見ていたツュプレッセだったが、美味しそうにヤマモモにパクつく姿を楽しそうに見ていた。
ヤマモモを食べ終わった後、ツュプレッセは緊張した面持ちでエレナに、
「やっと、ここまで回復したエレナに言うのは辛いのだけど、この小屋もそろそろ危ないと思うの。馬車が落ちた崖からそれほど離れていないし…。早くここから離れないといけないの。動けそう?」
「…大丈夫です。酷い怪我もしていないし、かすり傷だけなんで。」
「本当に?それが本当ならあと少ししたら出発したいのだけど、いいかしら?」
「分かりました。私の事なら大丈夫です。姫様には何とお礼を言えばいいのか…。」
「気にしないで。本当に生きててくれて良かった。」
そこでエレナは思い出した。全身が痛くて眠っていた時にツュプレッセ王女が誰かと話していたようだった事を。
「ところで姫様、私が眠っていた時に話していた方は?」
「 え?… 私達以外、誰もいないわよ。」
「…え?何か誰かとお話しているみたいだったと思ったのですが…?」
「たぶん、熱も出ていたから、熱で浮かされていた所為かもしれないわね。」
「はぁ…かもしれません…。」
しかし、会話の内容が割りとリアルな内容だったので空耳とも思えなかったのだが、熱の所為で聞いた幻聴か何かかもしれない。とエレナは自分を納得させた。
そして、ラルフ達が小屋を見つけたのは、二人が急いで小屋を後にした3日後だった。
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