8 / 22
7. 捜索
しおりを挟む無残にも砕けて壊れた馬車。中を覗いたが、誰もいなかった。そう、死体さえも…。その事実に救われはしたが、疑問だけが残る。
ツュプレッセ姫は何処に…?
馬車を引いていた馬達は、首や足は有り得ない方向に曲がっていたり、折れた背骨が腹を突き破って、内臓が飛び出していたりしている。
生きている馬は一頭もいなかった。
初めて見る目の前のその惨状に皆、顔を顰め、中には嘔吐する者もいた。
少し離れた場所に、下半身は川の水に浸かったまま川原に俯せで倒れている男がいた。顔を確認する。
「隊長!ラルフ隊長!」
呼び掛けるも返事は無い。首に指を当ててみる。脈に触れた。
「…生きてる…手を貸せ!運ぶぞ!」
カールを入れた4人で運び、残りはオスカーやクルト達と付近を捜索する。
一方、ラルフを上まで運び上げたカール達は、先ほど川原で調べた時以上に、彼の怪我の状態をチェックする。
しかし、あの高さから落ちた割に、緊急を要する程の酷い怪我は無かった。その事に安堵すると共に、不思議で仕方がなかった。だが、見た目では、かすり傷ぐらいしか見当たらなかったのである。
後は、体内の怪我の状態だが、ラルフが意識を取り戻してからになるだろう。見た目では分からないのだから…。
「…う、うぅ…」
「ラルフ!おい!大丈夫か!」
「…み…み、ず…」
「水か?」
意識を取り戻したラルフに、カールは水筒の水を飲ませた。
「…フゥ…ひ、姫?姫は?」
起き上がろうとした彼を制止しようとしたか、その事に構わないまま、カールの腕に掴まり彼は起き上がった。
「姫は?」
「先ほど探したが、何処にもお姿がなかった。馬車の中にも死体どころか、血痕すら見つからなかった。」
問われたカールは首を横に振る。
それを見たラルフは、酷くショックを受けたようだった。
「…その…姫は確かに馬車の中にいたのか?」
馬車の中を確認してからずっと疑問に思っていた事をラルフに聞いた。
「中は見ていないが、崖から落ちていく時、確かに女性の悲鳴は聞こえた。」
「馬鹿な!? 何の痕跡も無かったのだぞ!」
その言葉に絶句したラルフは、縋る様にカールを見た。
と、川原を捜索していた内の一人が、何やら叫びながらやって来た。息も整わないまま話し出した。
「ば、馬車の中…を、調べて…こ、これ…」
震える手を握ったままカールの方に差し出した。
彼が受け取ろうと掌を上にして構えたが、中々渡さない。不思議に思って相手を見ると、泣きそうな顔をしながら
「て…手が…クソッ…」
どうやら、手が硬直して開けないらしい。
カールは、彼の掌を上に向け、指を一本ずつ開いていく。
すると、手の中に握られていたそれは、小振りな球型のピアスで鮮やかな紅色のルビーの様だった。
「 「 !? 」 」
いきなりそのピアスを、引っ掴んだラルフはそれを目の前に翳したかと思うと、ガタガタと震え出して
「ひ、姫のだ!」
と、目を限界まで見開いたまま叫んだ。
「本当か!?」
カールも叫んだ。
フランドール王国では、子供が生まれると、誕生石等のピアスを赤ん坊の耳に付ける風習がある。
ツュプレッセ姫は、“アレキサンドライトの瞳”を持っていたので、国王は彼女の瞳と同じアレキサンドライトのピアスを付けさせていた。
だから彼はそのピアスをツュプレッセ姫の物だと判断したのだ。
こうしてはいられないとばかりに、カールともう一人の騎士は、その事を捜索している仲間に知らせ、一刻も早く姫を探し出さねばならない。
駆け出そうとしている二人に、
「待て!俺も行く!」
ラルフが立ち上がり、走り出した。
「待て!まだ…」
「大丈夫だ!」
止めようとしたカールに、譲る気は無いと彼が眼で訴える。
「しょうの無い奴だな…。」
カールが諦めてそう言うと、3人は川原に向かって駆け出したのだった。
**********
*********
…何だか…黴臭い…?
相変わらず身体は動かないが、もう寒くは無かった。暖炉で薪が爆ぜる、パチ、パチという音がする。
天井を見る限り、何処かの小屋の様だった。
人が小声で言い争っている?だが、誰が?考えているうちに、また意識がなくなった。彼女は再び深い眠りに落ちていった。
彼女が眠りに落ちた後、誰かが近付いてきて彼女の顔を覗き込んだ。そして額に手を当て、熱が下がっているのが分かると、ずり落ちていた濡れた布を退けた。
「どう?」
「…熱は下がったみたい…。」
「良かった~。」
「ええ。ありがとう。助けてくれて…。」
「どういたしまして…?かしら…。」
「じゃあ、私も今のうちに休んでおくわ。」
「そうして。」
そう言うと、ランプの灯りを消した。
辺りは再び暗闇に包まれた。
0
お気に入りに追加
7
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる