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7. 捜索

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  無残にも砕けて壊れた馬車。中を覗いたが、誰もいなかった。そう、死体さえも…。その事実に救われはしたが、疑問だけが残る。

ツュプレッセ姫は何処に…?

 馬車を引いていた馬達は、首や足は有り得ない方向に曲がっていたり、折れた背骨が腹を突き破って、内臓が飛び出していたりしている。
 
 生きている馬は一頭もいなかった。
 初めて見る目の前のその惨状に皆、顔を顰め、中には嘔吐する者もいた。

  少し離れた場所に、下半身は川の水に浸かったまま川原に俯せで倒れている男がいた。顔を確認する。

「隊長!ラルフ隊長!」

  呼び掛けるも返事は無い。首に指を当ててみる。脈に触れた。

「…生きてる…手を貸せ!運ぶぞ!」

 カールを入れた4人で運び、残りはオスカーやクルト達と付近を捜索する。

  一方、ラルフを上まで運び上げたカール達は、先ほど川原で調べた時以上に、彼の怪我の状態をチェックする。

  しかし、あの高さから落ちた割に、緊急を要する程の酷い怪我は無かった。その事に安堵すると共に、不思議で仕方がなかった。だが、見た目では、かすり傷ぐらいしか見当たらなかったのである。

  後は、体内の怪我の状態だが、ラルフが意識を取り戻してからになるだろう。見た目では分からないのだから…。

「…う、うぅ…」
「ラルフ!おい!大丈夫か!」
「…み…み、ず…」
「水か?」

  意識を取り戻したラルフに、カールは水筒の水を飲ませた。

「…フゥ…ひ、姫?姫は?」

  起き上がろうとした彼を制止しようとしたか、その事に構わないまま、カールの腕に掴まり彼は起き上がった。

「姫は?」
「先ほど探したが、何処にもお姿がなかった。馬車の中にも死体どころか、血痕すら見つからなかった。」

  問われたカールは首を横に振る。
それを見たラルフは、酷くショックを受けたようだった。

「…その…姫は確かに馬車の中にいたのか?」

  馬車の中を確認してからずっと疑問に思っていた事をラルフに聞いた。

「中は見ていないが、崖から落ちていく時、確かに女性の悲鳴は聞こえた。」
「馬鹿な!? 何の痕跡も無かったのだぞ!」

  その言葉に絶句したラルフは、縋る様にカールを見た。
と、川原を捜索していた内の一人が、何やら叫びながらやって来た。息も整わないまま話し出した。

「ば、馬車の中…を、調べて…こ、これ…」

  震える手を握ったままカールの方に差し出した。  
  彼が受け取ろうと掌を上にして構えたが、中々渡さない。不思議に思って相手を見ると、泣きそうな顔をしながら

「て…手が…クソッ…」

  どうやら、手が硬直して開けないらしい。
カールは、彼の掌を上に向け、指を一本ずつ開いていく。
すると、手の中に握られていたそれは、小振りな球型のピアスで鮮やかな紅色のルビーの様だった。

「 「 !? 」 」

  いきなりそのピアスを、引っ掴んだラルフはそれを目の前に翳したかと思うと、ガタガタと震え出して

「ひ、姫のだ!」

  と、目を限界まで見開いたまま叫んだ。

「本当か!?」

  カールも叫んだ。

  フランドール王国では、子供が生まれると、誕生石等のピアスを赤ん坊の耳に付ける風習がある。

  ツュプレッセ姫は、“アレキサンドライトの瞳”を持っていたので、国王は彼女の瞳と同じアレキサンドライトのピアスを付けさせていた。
  だから彼はそのピアスをツュプレッセ姫の物だと判断したのだ。

  こうしてはいられないとばかりに、カールともう一人の騎士は、その事を捜索している仲間に知らせ、一刻も早く姫を探し出さねばならない。

  駆け出そうとしている二人に、

「待て!俺も行く!」

  ラルフが立ち上がり、走り出した。

「待て!まだ…」
「大丈夫だ!」

  止めようとしたカールに、譲る気は無いと彼が眼で訴える。

「しょうの無い奴だな…。」

  カールが諦めてそう言うと、3人は川原に向かって駆け出したのだった。

           **********
     *********

  …何だか…黴臭い…?
相変わらず身体は動かないが、もう寒くは無かった。暖炉で薪が爆ぜる、パチ、パチという音がする。

  天井を見る限り、何処かの小屋の様だった。
  人が小声で言い争っている?だが、誰が?考えているうちに、また意識がなくなった。彼女は再び深い眠りに落ちていった。

  彼女が眠りに落ちた後、誰かが近付いてきて彼女の顔を覗き込んだ。そして額に手を当て、熱が下がっているのが分かると、ずり落ちていた濡れた布を退けた。

「どう?」
「…熱は下がったみたい…。」
「良かった~。」
「ええ。ありがとう。助けてくれて…。」
「どういたしまして…?かしら…。」
「じゃあ、私も今のうちに休んでおくわ。」
「そうして。」

  そう言うと、ランプの灯りを消した。
辺りは再び暗闇に包まれた。
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