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6. 追跡
しおりを挟むカールとクルトが、生き残った衛兵や騎士達と裏街道をひた走っているその時、ツュプレッセ姫を乗せていると思われる一団の姿を遠くではあるが捉えた。
後ろを振り返って見たが、オスカーが付いてきている姿しか見えなかった。
顔を前に向けた。遠くに見える一団は、少なくとも10人以上はいそうである。追い付いても2人だけでは厳しいかもしれない。
けれど、それでもやるしかなかった。国境を越えられたら救出するのは難しい。
そして、徐々にその距離が縮まる。そろそろ前を走る一団に気付かれる距離だった。
とうとう気付かれたらしい、馬に乗った何人かが此方に向かって駆けて来る。
ラルフとオスカーは、片手に手綱を巻き付け、グッと握ると、利き手に剣を握り、構えた。
馬のスピードを緩めること無く、すれ違い様に斬り付けた。振り返ると、斬られた敵が馬から落ちたが、無事だった者は取って返すと後ろから追いかけて来た。
「無事か?」
付いてきているので、無事だとは思うが念のため聞いた。
「大丈夫です。怪我なんてしてませんよ。」
それを聞いて、口角を上げ、ニヤリと笑うとオスカーも同じ様に笑った。
後ろから追い上げて来る敵には構わず前の敵に意識を向けた。すると、オスカーは、後ろの敵に意識を向ける。
あと少し…!そう思った時、馬車の後ろに付いて走っていた護衛が、馬を此方に向け、走って来た。と、同時に後ろで剣を交える音がした。次いで、人が馬から落ちた様な音が聞こえた。
だが、前から来ていて、後ろの状況を確認出来ない。
そしてまた、すれ違い様に敵を薙ぎ払う。後ろで剣を交える音がした。
その音を聞いて、オスカーが先ほど剣を交えるまで、まだ生きていた事を知る。
「大丈夫か?」
振り向きながら聞く。オスカーの姿があった。
「俺なら、まだ生きてますよ!」
明るく答えた彼の後ろには、まだ敵が何人か追い上げて来ていた。
先ほど敵と剣を交えていた間に、馬車との距離が開いてしまった。
後ろから追い上げて来ている敵を気にしながらも、馬車との距離を詰める。
くそっ!後少しなのに…
馬車に届きそうで届かない距離に苛立つ。追い付き掛けては引き離される。その繰返しに焦りが募る。
その時、遥か後ろの方から叫び声が聞こえた。振り返ると、敵か味方か分からないが、何騎か追い掛けて来ている様だった。
「隊長、俺が残って防ぎます!」
「済まない!」
追い上げて来ている敵と、後方から迫る騎馬。前者だけでも単騎で相手をするのは、分が悪い。しかも、後者が敵だった場合、俺達に待っているのは“死”だ。
オスカーも俺も最後の賭けに出て、敵を引き受けてくれた。既に、国境の手前まで来ている。この渓谷を抜け、その先の峠を越えれば国境である。
ほぼ全速力で走り続けてきた馬は、もう限界だろう。心の中で『済まない。』と馬に詫びた。限界が来ている馬にムチを入れると、潰れるだろう事は分かっている。が、姫を救い出す最後のチャンスなのだ。
俺は、心を鬼にして馬にムチを入れた。口から泡を吹きながら馬が速度を上げる。そして、何とか馬車に手が届いたので、そちらへ移動した。
馬車にしがみつき、振り落とされない様に、少しづつ慎重に御者台へと進んだ。
御者を蹴り飛ばした後、御者台に移ろうと考え、そぉーっと近付いた筈が気付かれた。
っ!?
次の瞬間、御者が飛び降りた。ラルフは急いで御者台に移り、手綱を取った。そして、前方を見た途端、絶望した…。
そして馬車は崖の外側に飛び出したのだった。
**********
**********
すれ違い様に敵に斬り付けた後、前の様子を見たら、あと少しで馬車に手が届きそうだった。国境まであまり時間が無い。オスカーは覚悟を決めた。
「隊長、俺が残って防ぎます!」
「済まない!」
俺は馬を止め、馬首を回し、方向転換した。
追い上げて来ていた敵も馬を止めた。敵は3人いた。
こちらが俺1人なのをいい事に、3人とも掛かってきた。
すれ違い様に1人斬り伏せた。残るは2人。
しかし、後ろから来ていた一団が俺達の味方だと分かると、敵はそのまま駆け去った。俺とその一団は逃げた敵と馬車を追い掛けた。
が、敵が駆けて行った先、その更に前方には馬車にぶら下げられている、ランタンの灯りが…。
けれど、それはカーブを曲がりきれずに崖下へと、まるで暗闇に吸い込まれる様に消えて行った。
「っ!? ば、馬車がっ!」
先頭を駆けていたオスカーが叫んだ。後ろから追従していた騎士達も崖下へと消えて行くそれを見た。
そして、言葉を無くしたのだった。
後はただ、自分達が見た光景が嘘であって欲しいと強く願い、馬を走らせた。
前方を走っていた敵は、落ちた馬車には見向きもせずに、国境の方へ逃げて行った。
オスカー達は馬を止め、崖の上から馬車が落ちた辺りを見下ろしたが、ランタンの灯りさえ見えず、暗闇が広がっているだけだった。
「下に降りる道を探すぞ!」
庭園の納屋にあったランタンを持って来ていたので灯りをつけ、三人一組に分かれて、崖下に降りる道を探して回るが、暗くて分からない。
明るくなるまで待った方がいいのかもしれない。
だが、もし生きているなら、大怪我をしている筈だ。そう思うと、一刻の猶予もなかった。
下流側を探していた騎士達が、細いけれど下に降りられそうな道を見付けたらしい。皆で急いで向かった。
何とか下まで降り、川原を上流に向かいながら探した。
どのくらい歩いたか分からなかったが、黒い大きな塊が見えた。近付くにつれ、馬車だった物だと分かる。
少し離れた場所に、下半身が川の水に漬かったままで、俯伏せに倒れている男がいた。顔を確認すると、隊長のラルフだった。
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