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5. 脱獄
しおりを挟むツュプレッセ姫と侍女のエレナは、引き摺る様に連行され、王宮の裏門に停めてあった黒塗りの馬車に押し込まれた。と同時に外側から扉に鍵を掛けられた。
「「 ッ…!? 」」
二人は顔を見合わせた。
これでは、何かあっても、逃げ出す事は敵わない。
「取り敢えず、逃げ出す隙が出来たら、逃げ出すわよ。無理なら、到着してから。ね。」
そう言うと、エレナは頷いた。
と、同時に馬車は動き出した。
**********
**********
― 丁度その頃 ―
王宮の地下牢では、ラルフ、カール、クルト、オスカーの四人は同じ牢に入れられていた。
「しかし、王様ってだけで女神様みたいな女に、あんな事やこんな事が出来るなんて羨ましい限りだぜ。」
「あー俺も、お零れに与りたいよ。」
「違ぇねぇや。ハハハ」
ラルフ達は、先ほどの牢番達の話を聞いて、何とか牢から出られないものかと、窓の格子を外そうとしたりしてみたが、出ることは敵いそうもなかった。ただ時間だけが過ぎ、焦りだけが募る。
「くそ! このままでは姫様が…。」
「だが、ここから出ることも敵わず、何が出来るというんだ。」
と、その時、足音が近づいて来た。
四人は黙って、足音のする方へ顔を向けた。だが、まだ足音の持ち主の姿は見えない。
じっと息を潜めて姿を表すのを待つ。
一人の男が現れた。牢番と同じ様な服装をしているが、身の熟し方が違う。恐らく、自分達と同じで、騎士の様な立ち居振舞いだった。
その場に緊張が走る。
だが、ラルフ達が声を掛ける前に、手紙を括りつけた鍵の束が牢の中に放り込まれた。
手紙には、『今夜、ツュプレッセ姫がヴァルター王に夜伽を命じられたという話は残党を一掃する為の罠。今頃は、レーベンドルフ王国まで黒塗りの馬車で移送中。』と、書かれていた。
手紙と鍵を持って来た男は、上へ続く階段がある通路への曲がり角で、階段の方を伺っている。
そして、急ぐように。といった感じで手招きしていた。
それを見た四人は顔を見合せ、頷き合った。
「俺達は、追う。クルトとカールは、一刻も早く、何とか生き残った者と合流して俺達を追って来てくれ。では、行くぞ!」
牢の鍵を開け、階段の方へと急いだ。曲がり角にいた男は、既に階段の上の方に移動して、手招きしている。
四人が階段を上りきると
「悪いが、俺はここまでだ。後はお前達で何とかしてくれ。」
「分かった。恩に着る。」
そう言って四人は建物から出ると、二手に分かれ、ラルフとオスカーは厩舎から馬を連れ出し、ツュプレッセ姫を乗せた馬車を追いかけた。
残ったクルトとカールは、王宮内にいると思われる味方を探し回ったのだった。
すると、庭園に植えられた植物の世話をしている庭師が使っている納屋から、何やらぼそぼそとした話し声が聞こえる。衛兵の見回りも殆ど来ない場所なので、もしや?と思い、様子を伺っていた。
暫くして、キョロキョロと周囲を気にしながら衛兵の格好をした男が来て、扉に小石を投げた。
コツっと音がしたかと思ったら、ゆっくりと扉がほんの少しだけ開き、小石を投げた男が扉の方へ行くと、何か布の様な物を懐から出してヒラヒラさせ、扉の中へ入っていった。
クルトとカールはお互いに顔を見合せ、頷き合った。そして、先ほどの男がやった様に小石を拾って扉に投げる。布なんて持っていないので、ほんの少し扉が開いたら、一気に開け放った。
扉が開け放たれた場所に立っていたカールに剣が突き付けられたが、部屋の灯りに照らし出された彼の顔を見て驚いた男は、中にいた男達に剣を収めるように言ってから、カールとクルトを招き入れた。
「二人共生きていたのか。良かった。これで姫を助けられるぞ。」
と仲間と笑い合って言った。が、それを聞いた二人は、複雑な表情をした。
「そんな事より、馬を手に入れ姫を追うぞ!」
クルトがそう言うと、納屋にいた男達が
「何を言っている!早く姫を救い出さねば、ヴァルターに陵辱されてしまうではないか!」
怒りに顔を赤くした衛兵姿の男がそう言うと、周りにいた男達が頷く。
「残党狩りの罠だ!姫は黒塗りの馬車で、今夜隣国まで密かに移送されている!」
「何!?それは確かか!」
「ああ。間違い無い。先に、ラルフとオスカーが姫を追って行った。俺達もお前らと後を追うように言われている。」
「ラルフとは、近衛騎士隊長のラルフ・ダールベルクのことか?」
「そうだ。敵に捕縛された時、俺達は姫と一緒だった。」
「分かった。ラルフの言葉なら信用に足る。皆、行くぞ!」
そして、暗闇に紛れて厩舎に向かい、馬に乗るとラルフに合流するべく、全速力で駆けて行く。その数、クルトとカールを入れて8人。
ツュプレッセ姫の移送に何人の敵がいるか不明であるが、時間が惜しい今は、少なくともこの人数で行くしかなかった。
彼らはラルフ達に追い付く為に、しかし、少ない人数とはいえ、暗闇でも単騎で走るより目立つ。
仕方がないので、目立たぬ様に裏街道を全速力で駆け抜けて行かなければならなかった。
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