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3. 褒美
しおりを挟むこの先、残酷な描写、登場人物による不適切発言等配慮が必要な表現があります。
苦手な方は全力で回避してください。読まれる方は自己責任でお願いします。
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全身がバラバラになりそうなぐらい痛くて身体が動かない。頭がガンガンしてあまりの痛みに顔を顰める。おまけに耳鳴りまでする。
身体がずぶ濡れで、凄く寒い。寒くてガタガタ震えるが、その震えすら痛みに変わる。
気休めでも、自分の身体を抱き締めて、丸くして蹲りたいのに、身体が動かない。すっかり水を吸った服は、重く身体に張り付いて寒さが増す。それに呼吸をするのも苦しい。
一体どうしてこんな事になっているのか分からない。
何故こんな所にずぶ濡れで、四肢を投げ出し転がっているのかも…。
何一つ分からない。
首を動かそうとしても動かず、指の一本も動かせない。しかも声を出そうとしたが、声すら出せない様だった。
どんどん呼吸も苦しくなり、冷えすぎた所為か身体の感覚もなくなりだし、視界も歪み始め、徐々に暗くなっていく。
このままこんな所で死ぬのだろうか?
私の記憶はそこまででだった。この後すぐに意識を失ったからだった。
***********
***********
目を開けると、見慣れない天井だった。ここは何処?
夢なら良かったのに、夢じゃなかった……。現に、全身が痛くて身動きできない。指一本すら動かせない…。
自分ではどうする事も出来ず、歯痒くて、悔しくて、涙が出そうになる、。けれど、いきなり襲ってきた眠気に抵抗出来ずに瞼を閉じた。真っ暗な水底に落ちていく様に、意識が落ちていく…。
***********
***********
彼女は、蒲公英の綿毛の様な人だった。真っ白で汚れなく、ふわふわで柔らかそうで、風が吹けばこの手の中から、何処かへ飛んで行って、消えてしまいそうな…。
俺が彼女を初めて見たのは、王宮の中にある大広間で、入口から兄にエスコートされ、私の目の前まで歩いて来た。
まるで夢を見ているのではないかと思うほど、美しく、薄く水色掛かった銀髪が緩くふんわりと腰の辺りまで波打っている。
両目の瞳は噂では“アレキサンドライトの瞳”と呼ばれているらしい。今は青緑色だが、夜になったら本当にルビーの様な鮮やかな赤色になるのだろうか?
まだ幼さの残った、儚げで可憐な人だった。
このまま、言葉に出来ないほど美しい人と、結婚して一生を共に歩んで行けるのだと信じて、疑いもしなかった。
……彼女が俺に向かって微笑む度に、心臓を鷲掴みにされた様に胸が締め付けられた。
ほんのりと濃いピンク色をした柔らかそうな唇。恥ずかしそうに頬を染めているその姿は、庇護欲を掻き立てる。
……愛しい……この腕の中に抱え込んで守りたくなる…。
けれど、俺には許されなかった。
父である国王、ヴァルターは彼女を見て、俺と結婚させる気がなくなったのだ。
俺の国レーベンドルフ王国と彼女の国フランドール王国は、約100年もの長い間戦争をしていた。
そして今回の戦でレーベンドルフ王国は負けた。和平条約を結ぶ事になり、俺と彼女の婚約が決定した。だが、国王の自尊心は、戦に負けた事で酷く傷つけられ、怒りと復讐心に燃えた国王は、謀略を巡らせ、この国を滅ぼす事を決めたのだ。
そして、フランドール国王の弟と一部の貴族が、保身に走り国を裏切った。
そんな裏切り者共も、事が済めば殺されるとも知らずに…。
父は、始めから和平を結ぶつもりなどありはしなかった。そんな偽りの和平の上に成り立った婚約である。
なのに、何も知らない彼女は幸せ一杯に微笑む。微笑む彼女を見ると胸が痛い。せめて彼女だけでも何とか守りたいと思った。
だが、そんな俺の思いも、父には見抜かれていた。
王弟によって、城の隠し通路の存在はレーベンドルフ側に筒抜けだった。国王と王妃は真っ先に捕まり、王子も捕まった。そして、王族で最後まで捕まっていなかった彼女も……。
「ツュプレッセ姫、ここまでです。諦めて武器を捨てなさい。そうすれば命までは取らない。」
「くっ」
それでもツュプレッセ姫の周りに護る様に立った騎士達が剣の柄に手を掛けている。
ツュプレッセ姫が剣を捨てるように言った。
騎士達は王女がした苦渋の決断に悔しそうにしながら、剣帯から剣を外すと、少し離れた所に投げ捨てた。
「捕縛せよ。」
そうして俺は彼女達を捕まえた。
荷馬車に乗せられ、縛られた侍女と騎士達に寄り添われ、泣かずに顔を上げ、前を向いている彼女は美しかった。
王宮に到着した後、侍女と騎士達は別々の牢に入れられ、彼女は謁見の間へ連行された。
そして、玉座にふんぞり返って座る父の前に、後ろ手に縛られたままで、上から押さえ付けられ跪かされた。それでも、顔を上げ、ヴァルター王を睨み付けている。
その姿に征服心を刺激されたのか、
「ほぉ。そんな姿でも美しいな、気に入ったぞ。」
と、眼を眇て言った父の言葉は悍ましく、傍に控えていた俺は胸騒ぎを覚えた。
「その美しさに相応しい褒美をやらねばな。あれを持て。」
命じられた従者が一度下がり、少し経って戻って来た。
その手には大きな箱が恭しく捧げ持たれている。
そのまま父の前まで運ぶと、床に置いて下がった。
「そら、褒美だ。」
そう言って、片方の口角だけ上げてニヤリとすると、箱の蓋を開け、中に入っていた物を無造作に掴んで、彼女の目の前に放り投げた。赤い何か、水の様な物が飛び散る。
それを見た俺は言葉を失った。
彼女の目の前に放り投げられたのは、首だけになった彼女の両親と兄だった。
しかも、ついさっき切り落とされた様に、まだ首から血が滴り落ちていた。
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