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【感謝御礼!!】番外編 ②
しおりを挟む爵位を継ぎ、求婚する為の身分を手に入れた。
後は結婚の申込みをするだけなのだが……。
自分の身分を隠していた事にあの方はご立腹なさるだろうか……。
それ以前にお傍を離れた事を叱られるかもしれないな。
一応、許可を得たと言っても、まだ国内は安定していないこの時期に、あの方を傍で支える存在は少しでも多い方がいいのは分かっていた。
だが、王配の件よりも、我が国が後ろ盾として名乗りを上げる事で、周辺諸国を牽制する事が出来、国内が安定するまでに他国から攻められる危険性は回避出来る。
隣国はクーデターが成功しただけでなく、多大な支持を集めた現皇帝が、悪政を敷いていた前皇帝を倒した事で、国内が安定するのが早かった。
尤も、彼以外にそれだけの支持を集められる人物が他に居なかった事もあるのだが。
~~~~~
シュッツリッター聖導皇国。
それが俺の生まれた国だ。
そして、この国の歴史は大陸内で一番古い。
国のトップは言わずと知れた教皇であり、政治面は国家元首が担っている。
教皇と国家元首、共に徳の高い者がその地位に就く事になっている。
徳などと目に見えない物でどうやって選出するのか?
日頃の行い?
善なる心?
それとも金で買える地位なのか?
疑問に思うだろうが、この国では目に見える方法で選ばれるのだ。
誰が見ても一目瞭然、誰も文句の付けようがない方法で。
この国の歴史は古く、数こそ少ないものの、魔法具と呼ばれる大昔の文明の遺物が残っている。
その内の二つが、教皇と国家元首の選出で使用される有徳の証と呼ばれる魔法具である。
これらは代々受け継がれてきた物で、千年以上経っているにも拘わらず、新品のような輝きを保っている。
そして何故、受け継いでくる事が出来たのかというと、どのような物を用いても破壊出来ないからだった。
何より、資格を有する者だけが触れる事が出来る物の為、盗まれる事も無かった。
故に、次代に引き継がれる時は、先代から引き継がれるのだ。
だが、例外もある。
引き継ぐ前に、資格を有する者が亡くなった時と、資格を失った時だ。
その場合、魔法器具は保管されている箱の中に、独りでに戻っている。
どういう仕組みなのかは分からないが、消えると同時に箱の中に戻るのだ。
資格を有する者が現れるまで。
そして、資格を有する者がその地位に就いている間この国の治世は安定している。
ならば何故大昔の文明が滅びたのか……。
今もって謎に包まれたままである。
勿論、他国に攻め入る事も無い。資格を有する者がそう考えた時、その者は資格を失う。
文献にはそう記されており、過去にはそれを試した者も居たようだが、悉く資格を失っている。
そして、他にも残っている魔法具のお陰で他国に侵略される事も無いのだ。
有徳の証と呼ばれる教皇の錫杖と国家元首の緋色のマントを羽織る事の出来る者の二人が、指名した者達と共にこの国を治めている。
不思議な事に、指名された者達は私利私欲に走る事も殆ど無い。
とはいっても、何事にも例外はあるのだが……。
と、他国では考えられないような事や物、秘密が色々ある国ではあった。
そんな国の爵位でも、侯爵位ならば王配候補としての体裁を整える事が出来る。
爵位継承の手続きを済ませ、じい様に見つからないうちに大急ぎでエメリッヒ王国へと戻る。
が、この国に帰国する時とは違い、戻る時は一瞬で戻れる。
この国の極秘事項なのだが、大昔の魔法技術の一つである魔術門と呼ばれる転移門があるのだ。
だが、これらの転移門は、この国から他国にある転移門まで行けるが、他国にある転移門からこの国へは行けない。
つまり一方通行なのだ。
恐らく攻め込まれない為の仕組みだと思われる。
つくづく面倒臭い。
そんな事よりも早く戻らねば。
~~~~~
転移門を使用してエメリッヒ王国に帰国した日の夜、執務室に向かった俺が目にしたのは、窶れて目の下に隈ができ、物凄く不機嫌そうな顔つきになったユークリッド様だった。
そして俺の顔を見るなり、執務机の上にあったインク壺を投げ付ける。
避けると後片付けが大変そうだったから片手で受け止めた。
と、次の瞬間、体の前面に強い衝撃を受けて蹌踉けた。
視線を下げて見ると、泣き顔のユークリッド様と目が合った。
「ばかぁ……。何処行ってたのよ。」
「す、済みま……ぐぇっ。」
シャツの首元を掴む彼女の手に力が籠もって首が締まる。
「ヒック……。クリスが……入れてくれ……ッた、ックお茶が……なかっ……ッたから……眠れ……なかっ……んだから。」
泣きながら俺の首を締め上げる彼女が可愛くて(断じてMではない)抱き締めた。
「お側を離れて済みませんでした。……詳しい話は落ち着いてからします。ハーブティーを淹れますから飲んだらお休みになって下さい。」
横抱きにしてソファーまで運び、座らせた。
大急ぎでお茶の準備をしてハーブティーを淹れ、カップをユークリッド様の前に置いた。
抱えていたクッションを横に置くとカップを手に取り香りを堪能した後、お茶を飲んでホッと息を吐く彼女を見てやっとここに戻って来た実感が湧いた。
「帰って来るのが遅すぎるのよ。」
二週間かかるところを、十日で戻って来たのだが……。
でも、それ程俺に会いたかったのかと嬉しくて口元が思わず緩んだ。
それに気付いたのか、
「べ、別にクリスに早く会いたかったとかじゃないから。」
照れているのか、外方を向いて言うのが可愛い。
一刻も早くプロポーズしたいが今はやめておいた方が良いと思った。
早く休ませてあげたかったからだ。
俺がいない間、ろくに睡眠も取らずほぼ一人で書類を捌いていたのだろう。
「まったく…無茶をなさる…。」
「何か言った?」
「いいえ、何も。それよりも今日はここまでにしてお休み下さい。」
「ありがとう。そうするわ。」
明日からまた忙しい日が始まる。
そんな中、プロポーズしている暇があるのかどうか。
だがこの機を逃せば彼女は他の男のものになってしまう。
そんな事にするつもりはない。
上着のポケットに入っている箱を触りながら思ったのだった。
~~~~~~~
いつもお読み頂きありがとうございます。
しおり、お気に入り登録して下さった方々も本当にありがとうございます。
更新、遅くなり本当に申し訳ありません。
がっつり話に没頭しないと話が考えられないタイプなのと、子供の塾のスケジュールに合わせているので中々集中出来ず、話の続きが思いつかなくて……。
すみません。
他の物語も遅いですが更新していきますのでよろしくお願い致します。
殆ど“読み専”状態です。
と言っても、置いてきぼりになってしまっていますが……。
でも、読んでいきます。
では、また。
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