悲劇にしないでよね!

雫喰 B

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【感謝御礼】番外編 ①

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*感謝御礼の番外編です。
 他サイトで、この作品に感想を書いて下さった方へのリクエストになりますが、こちらにも投稿してみました。

 ユークリッド王女の傍に仕えている、クリスことクリストファーのお話になります。

 お暇ならお立ち寄り下さると嬉しいです。


~~~~~~~


 まだ国内は安定していない。

 こんな時にの傍を離れなければならないとは……。

 しかし、この先もあの方の傍に居続ける為に必要な事なのだ。

「ユークリッド様。暫し、お側を離れます。」

 馬上で宮殿を振り返り、独り言ちた後、
 馬の腹を蹴り目的地に向けて駆けて行った。


~~~~~~~


「お祖父様。あの瘋癲ふうてんが戻ったと聞きましたが本当ですか?!」

 未だ現役で矍鑠かくしゃくとしている祖父は、執務机の上にある書類に走らせていたペンを止めて顔を上げた。

「フン。親の言いなりに跡を継ぐのは嫌だと言って飛んで出たくせに、今更おめおめと戻ってきおったわ。」
「お祖父様、口元が笑ってますよ。」
「ウォッホン!」

 誤魔化すように咳をする。

 本当は嬉しいくせに素直じゃないな。

 そう思ったが、ムキになって否定するし、そうなると面倒臭いのが分かっているから、敢えて指摘しないが……。


~~~~~


 弟は跡継ぎの俺と違って自由だった。だからと言って、俺に自由が無かった訳ではない。

 他家の嫡男である友人達と比べると、家の家風はかなり自由だった。

 が、やはりこの皇国独特の堅苦しい騎士道に嫌気が差したのか、他国へ養子に出された大伯父を頼って家を飛び出すように留学した。

 そしてその国、エメリッヒ王国で王女殿下の近習きんじゅになった。

 その弟、クリストファーがいきなり帰国した。
 
 何でも、エメリッヒ王国で起こった事件に国王と王太子が関わっていた為に失脚。

 弟が仕えていた王女殿下が王太子の息子である王子が即位するまでの、中継ぎの女王として即位したという。

 勿論、その辺りの事情は弟からオフレコで聞いたのだが、国家元首を含め、皆が驚いた事は言うまでも無い。

 というのも、周辺諸国に出された書状には、感染力の強い感染症(流行病)で亡くなったと書かれていたからだった。

 そして、弟が帰国した理由……、

 女王として即位した彼女を、王配として支えてあげたいからだという。

 そして、その為には爵位が必要だから帰国したのだと。

 何とも、自由過ぎる身勝手さに呆れて物も言えなかった。

 だが、祖父が喜んでいるからいいか。

 とは、両親の言である。

 
~~~~~


 因みにこの国の名は、“シュッツリッター聖導皇国”と言い、ヒューゲルハイン帝国(旧アリール帝国)を挟んだ場所にある国で、ヒューゲルハイン帝国の初代皇帝位に就いたアーダベルト・メックリンガーがその身を隠していた国だった。

 そして、彼が帝位に即くのに手を貸したのもこの国、シュッツリッター聖導皇国である。

 この国では徳を重んじる為、国家元首も徳の厚さ(厚徳)で決められる。

 故に、アリール帝国最後の皇帝マーカス・アリールには、色々と思う所が無かった訳ではない。

 平然と帝国民を虐げる皇帝を見て、顔を顰めるほどこの国の民からは嫌われていた。

 それとは逆に騎士団総長のローワン・メックリンガーとその息子であるアーダベルト・メックリンガーは、その為人ひととなりからアリール帝国の騎士であるにも拘わらず、この国の民から慕われていた。

 故に、他国の争いではあったが、裏で手を貸す事になったのだった。

 尤も、その関係で情報を弟に送ってはいたのだが……。

 まさか、王女と恋仲になるなど誰が想像出来ただろうか。

 まぁ、そのお陰で祖父も弟の帰国を喜んでいるのだが、一波乱も二波乱もありそうだな。

 なんせ、祖父はあの国の王女の事を気に入っていたからな。

 周辺諸国を外遊で回っていた時に、まだ幼かった王女にメロメロになってしまい、戻ってきたはいいが、両親に孫娘が欲しい!と、駄々っ子のように煩く言っていたのを覚えている。

 まさか結婚が決まったら、結婚式に参列するとか言い出さないだろな……。

 そうなった時の事を想像しかけて、ブルブルと頭を左右に振った。

 考えたくもない。

 が……参列する気だろうな……。

 いやいや、いかん。

 再度頭を左右に振る。

 成り行きに任せよう。
 それしかない。


~~~~~~~


 その数日後に、ブルームバーグ公爵家の親族会議が開かれた。

 勿論、クリストファーが継ぐ予定であったブルームハルト侯爵位の継承についてである。

 ブルームバーグ公爵位については、嫡男のアーネストが継承する事が生まれた時から決まっている。

 そして、ブルームハルト侯爵位についても、クリストファーが生まれた時から決まっていたのだが、継承を辞退して他国に留学していた。

 だが、エメリッヒ王国のユークリッド王女と恋仲になり、王配となる為にブルームハルト侯爵位が必要になったのだが……。

 一度は辞退した爵位、幸いと言っては何だが、後継者は未だ決まっていなかった。

 クリストファーの次の継承順位は、父である現公爵の弟、つまり叔父だが、何も言わなかった。

 というより、誰も何も言わなかった。
「継ぐ。」「継がない。」という言葉すらである。

 そのまま時間だけが過ぎようとしていたところで、鶴の一声ならぬ祖父の一声が。

「一時的に継がせればいいだろう。」

 と、同時に皆が安堵の息を吐いた。

 やはり、皆が祖父の一声を待っていたのだろう。

 公爵位は父に譲りはしたが、侯爵位は中継ぎで祖父が即いている。
 おまけに、未だ現役の家長でもあるからだった。

 そして、ブルームハルト侯爵位を一時的にクリストファーが継ぎ、王配になる事が決まってから、次の継承順位の者が継ぐ事で話は纏まった。

 
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