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72. お披露目
しおりを挟む結婚披露パーティーでは、彼方此方に挨拶回りをしなければならず、眼が回るほど忙しく、料理など口にする暇なんて無かった。
只管、お腹の虫に鳴くな~、鳴かないでくれ~。と心の中で必死で言い聞かせた。
一体何の罰ゲーム?と言いたくなった。
公爵家のシェフが、これでもかと腕に縒りをかけて作った料理に、パティシエが、これまた技術の粋を集めたスイーツの数々。
料理やスイーツから「食べて!食べて!」と声が聞こえるようだった。
一通り挨拶回りも終わり、エヴァと話をしていた。
ユークリッド様は王位に就かれたので、軽々しく一貴族家の邸を訪れる事が出来ない。
その事がとても寂しいと二人でしんみりしてしまった。
「とっとと王位を誰かに丸投げするから、その時はまた一緒にお茶でもしましょ。」
結婚式の時に少しだけした会話の中で、彼女はそう言ったけれど…。
そんな日が、そう簡単に来る事が無い事は、お互い分かっている。
それにしても、4年前に人生を狂わされてしまった人の何と多い事か…。
そう考えると、当時の国王や王太子、隣国の皇帝の罪は計り知れないほど大きい。
「フラン、2,3日したら私達も領地に戻る事になったの。」
「…そう………。でも…仕方ないわよね。結婚式には呼んでよね。」
「ええ。絶対に呼ぶわ。手紙書いてね、私も書くから。」
「書くわ……必ず。」
近づいて来る人がいる事に気づいて、二人ともそちらを見る。
アルベルトとエーリッヒだった。
「二人とも、何を深刻な顔をして…。何かあったのか?」
「領地に戻ったら、今までみたいに会えなくなると思ったら、何だか寂しくて…。」
にこやかに近づいて来ていたエーリッヒが、エヴァの肩に腕を回し、抱き寄せると
「会いたくなれば俺が馬で駆けてやる。そうすりゃ、あっという間に王都だ。」
「ええ…そうね。」
そう言ったエーリッヒの隣で涙ぐむエヴァ。
そして、アルベルトは何も言わなかったけれど、後ろからハグしてくれた。
ちょっと恥ずかしいけれど、その優しさが嬉しかった。
その後、アルベルトと私はお披露目パーティーの会場から部屋へ戻った。
自室の扉の前、フランがアルベルトを見上げると眼が合った。
不安に揺れる彼女の眼差しを見たアルベルトは如何したらいいかわからなくなった。
彼もまたフラン同様、初めてなのだから…。
やはり年上の俺が彼女の不安を取り除いてやるべきなのだろう。
フランを抱き締め、幼児をあやすように背中を軽くトントンとする。
これ以上はマズい!
何とか自制して身体を離す。
「じゃあ、また…後で。」
そう言って、扉を開けてやると顔を赤くした彼女が俯き、頷いてから部屋に入って行った。
扉が閉まってから、自分も部屋に戻った。
後ろ手に扉を閉め、鍵を掛けた後、扉に凭れて天を仰ぐ。
何処か、現実ではないような…ふわふわとした感じがする。
でも…初夜なんだよな。
本当の本当に、初夜なんだよな!
自分に言い聞かせたり、頬を抓ってみたりする。
「痛い……。」
閨の作法や指南書は読んだが、手解きは受けなかった。
当時は、まさか自分が結婚するとは思っていなかったからだ。
そう、今までフランに余裕たっぷりに迫ってはいたが、俺は未経験者なのだ。(童貞とも言う。)
この年で未経験なのは男として如何なんだと、数少ない友人達からも言われた事もある。
おまけに年上だから、必死だったのだ。だから今…如何しようも無いほど心臓がバクバクしている。
なのに、不安に思っている彼女以上に、不安を感じている俺…。
それを彼女に悟られる訳にはいかない。
これまで、理性を総動員して、暴走しそうなのを必死で抑え込み、大人ぶっていた俺……。
今夜、暴走せずに朝を迎える事が出来るのだろうか?
夫婦の寝室のベッドの上に座り、何とかその熱を逃がそうと、他の事を考えたりしていたが……。
無駄な努力だったと知る。
フランの部屋と寝室の間にある扉がノックされて、跳び上がるほど驚いた俺の心臓は、早くもバクバクと煩い。
そして、扉を開けて現れた彼女を見た俺の心臓の鼓動は、これ以上無いほど速く打った。
べ、ベビードール!!……だと!!
……くッ……
俺の忍耐力を試しているのか……!
しかも、ベッドの上で三つ指をつき、「末永く、よろしくお願い致します。」と言った時、
む…胸の谷間が…ッ!!
も、もう…無理…だ。
自分の膝に置いた手が、痛いほど膝頭を掴んでいた。
勿論、理性を総動員する為だった。
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