悲劇にしないでよね!

雫喰 B

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71. 結婚式

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    ユークリッド様が女王に即位されてから3ヶ月後  ━━


    今日は、アルベルトと私の結婚式

    花嫁の控え室では、侍女達が張り切って支度をしてくれている。

    朝から湯浴みをさせられ、身体中磨きをかけられ、お気に入りのカモミールの香りの香油を全身に塗りたくられ、ボクシングをした訳では無いが、グロッキー状態で既にヘロヘロになっている。

「もう……ダメだぁ……。」
「何を言ってるんですか!まだまだこの後も、時間は長いんですよ!式が始まる前から情けない事言わないで下さい!」
「うぅ……。」

    そんなミリィは、
    いや、情容赦無い。

    うちの侍女達と、公爵家の侍女達が、タッグを組んで、気合いが半端無い。

    後ろの髪を結い上げてアップにして、少し高い位置でお団子に、サイドの髪は三つ編みすると輪になるようにして後ろのお団子にした所で留め、髪飾りの花と真珠の付いたピンも一緒に挿していく。

    凄腕である。何なのこの見るからに複雑で難しそうな髪型は。

    そして腰に手を当て、満足げに眺めていたかと思うと、ドヤ顔でお互いに頷き合っている。

    そこから、公爵家のお化粧担当者が、“清楚な花嫁”に見えるナチュラルメイクで仕上げます。と言うと、あっという間にうちの侍女達とも連携してメイクしていく。

    恐ろしい程の気合いが入っている。

    メイクが終わり、次はウエディングドレス。

     スカート部分が裾に向かって大きく広がったプリンセスラインのドレスで後ろの裾はロングトレーン。
    胸元と裾に青い花の刺繍が施され、その花の中心には真珠、所々、小さなダイヤモンドがアクセントで縫い付けられ、光が当たるとキラキラ光ってとても美しい。

    ベールは鳩尾ぐらいまでの長さで、裾にはドレスとお揃いの青い花の刺繍。
    こちらも、アクセントで小さなダイヤモンドが所々、縫い付けられている。

    ベールの上からティアラが載せられた。ティアラには、ブルーダイヤで花の形に、その間にはダイヤモンドで小さめの花の形に並べられていて、見た瞬間、思わず溜め息が出た。

    ネックレスは、ブルーダイヤの花とダイヤモンドの花、エメラルドの葉が並んで弧を描き、チェーンが付いていて後ろで留める。

    イヤリングもブルーダイヤの花で、チェーンの先で揺れている。

    靴はシンプルなシルバーであまり高さのないヒールの物だった。(晴れ舞台の日に、すっ転ぶのは避けたいから。)

    ゆっくりその場で一周すると、仕事を遣り遂げた侍女達が、ほぅ~っとうっとりした表情で溜め息を吐いた。

「馬子にも衣装とは、よく言ったものですね。そのまま、閣下のハートをがっつりつかんでて下さいね。」

    振り返るとドヤ顔のミリィ。固まる公爵家の侍女達。

「ミ・リ・ィ~ッ!」
「あわわわわ…。」

    どっと笑い声が上がる。
    固まっていた公爵家の侍女達も笑っている。 うちの侍女達も、いつもの事なので勿論笑っている 。

    てへっといった感じで笑った後、ミリィからブーケを手渡された。

「お嬢様…末永くお幸せに。」

    うるっと、目に涙が…。

「お化粧が崩れるから、泣かない!」

    そう言って、ハンカチを軽く、化粧を崩さないように目尻に素早く当てる。

    新郎には式が始まるまで会えない。私のウエディングドレス姿を見たアルベルトが、どんな反応を見せるのか?不安だったけど少しだけ期待してしまう。綺麗だと思ってくれるかも…?と。

    筆頭公爵家のフォイエルバッハ家の結婚式も、王家と同様、大聖堂で行われる。

    控室から入り口まで移動した。
    入り口の扉の前にいた父が固まった後、泣き出した。

「フラン~嫁に行かないで~!」
「なっ…お父様、泣かないで…。」
「そうだ!今からでも遅くな……。」

    ベシッ!

「こんな事もあろうかと、控えていたら…。やっぱりですか。あまり人前で情けないところを見せないで下さい!」

    と、伯爵家の執事から頭を叩かれ、注意されている。
    落ち着くまで、ほんの少しの時間だけ待った。

「あの…そろそろよろしいでしょう…か?」

    申し訳なさそうに公爵家の執事が聞いてきた。
 
    廊下の長椅子に座って泣いていた父が両手で持っていたハンカチを手に取り、涙を拭く。

「お父様、カッコいいところを見せて下さいませ。」

    ガバッと、勢いよく顔を上げて私を見る。

「…カッコ…いい…?」

    そう言った父の涙は止まっていた。
    へにゃりと笑いながら「カッコいい…って、カッコいいだって…ふふふ…。」

    何だか今度は、逆に緩みきった顔をしている。

『釘を刺さねば…!』と、思った。緩みきった顔はマズい!

「お父様、一番カッコいい、キリッとしたお父様でお願いします。」

    一瞬、最大級に緩みきった顔をしたかと思うと、キリッとした顔に変わった。
    
『相変わらずの速ワザで…。』

    けれど、そこは流石、公爵家の執事。何も見なかったかの如く、うちの執事と同時に入り口の扉を開け放った。

    パイプオルガンの音が厳かに鳴り響く中、父にエスコートされ、バージンロードを歩く。

    ベール越しに前を見ると、純白の騎士服(正装)姿のアルベルトが祭壇の前に立ってこちらを見ていた。

    カッコいい…。
    戴冠式の時もカッコ良かったけど、今の方が断然が良い!

    彼の前まで来て止まった。
    ここでもう一度、父に釘を刺す。

「お父様、式が終わるまでに大声で泣いたら、私…音の事、一生許しませんわ。」

    耳元で囁くと、小刻みに首を縦に振り、コクコクと頷く。

「お父様、今まで大切に育てて下さり、ありがとうございました。私…お父様の娘で幸せでしたわ。だから、結婚したらアルベルト様と必ず幸せな家庭を築きます。」

    そう言って顔を上げたら、父の涙腺は崩壊しかかっていた。
    涙が今にも溢れ落ちそうだけど、必死で堪えている。

    そして私の手は、父の手からアルベルトの手に移され、父は涙を堪え、義母の隣の席に座った。

    アルベルト様に手を引かれ、隣に並ぶ。

    

    誓いの言葉を交わし、誓いの口づけも済ませ、指輪の交換も済ませ、式は恙無く終わった。

    そして私は、今この時から、フランドール・フォイエルバッハになった。



    
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