悲劇にしないでよね!

雫喰 B

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70. 呆気無い

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    戴冠式がおわり、祝賀晩餐会まで時間が空いたので、アルベルトの部屋に皆が集まっていた。

    話は専ら、隣国アリール帝国の話だった。

「まさか皇帝が来ないとは思わなかったよな。」 

    信じられないといった感じで、リンツ辺境伯(エーリッヒ)が言うと、

「全くだ。絶対に来ると思っていた。」
「本当にな。」

    そう言って、アルベルトとエーリッヒが頷き合う。

「で?隣国は誰が代わりに来てたの?」

    エヴァが顎に人差し指を当てて聞いた。

「確か、宰相だったよな?」

    アルベルトがエーリッヒに聞く。
    腕組みをした彼が肯定した。

    私を含め、4人が考えた答えは同じだった。

    当初、戴冠式にはが出席すると返事が来ていた。なのに、当日になって「急遽、宰相が出席する事になった。」と、戴冠式が始まる直前に聞いたのである。

「皇帝の身に何か起こったと見るべきだろうな。」

    眉間に皺を寄せながらアルベルトが言った。

「お前が何か策を労したんじゃないのか?」

    エーリッヒの言葉に、少し考えてからアルベルトが答えた。

「いや、確かにほんの少し、突っつきはしたが、それはエーリッヒもだろ?」
「…という事は……。」
「そう言う事だろうな。」

    二人だけで通じるような言い方に、エヴァが疑問を呈した。

「えと…それってどういう……?」

    エーリッヒは婚約者の頭をポンポンとした。

「皇帝は遣り過ぎたんだよ。窮鼠猫を噛む、だな。」
「まぁ、そう言う事だ。誰しも、大なり小なり利害関係で人と繋がっている面はあるが、それだけではないだろ。信頼だったり、某かの情だったり……。だが奴の場合は極端だ。まるで、利害関係それだけが全てだと決めつけるように。“アメと鞭”…いや、この場合は“恐怖”か。そして、“恐怖”が“アメ”を上回り、やがて“恐怖”だけになった。」

    苦々し気にアルベルトが言った。

「さぞかし恨まれた事でしょうね。」

    そう言った私の頭を撫でていたアルベルトが続けて言う。

「ああ、だから俺と同じように、策を労した奴が他にも、うじゃうじゃ居たんだろう。」
「誰が直接動いたかまでは分からんが…。生きていると思うか?」 
「俺としては、死んでいてくれてる方が楽でいいけどな…。」

    苦虫を噛み潰したようにアルベルトが言った。

    そして、その答えは祝賀晩餐会の最中に分かる事となる。

    隣国の宰相が急遽帰国する事になったからだった。

    数日後、宰相及び各大臣達が王宮に召集され、会議が行われた。

    そこで齎された情報は、マーカス皇帝が(養)父である、バルドス・アリールにしいされたという物だった。

    バルドス・アリール、帝位継承争いで(義)子(実は義母弟)のマーカスに負けたが、取るに足らない存在として捨て置かれていた男。

    酒と女と薬物に溺れ、誰からも見向きもされず、離宮に押し込められていた筈の男を、アルベルト同様、利用しようと唆した者が多数居たという事なのだろう。

    離宮に押し込められていたとは言っても、幽閉されていた訳でもなく、行動の自由はあったらしい。

    でなければ、皇帝の傍に寄る事など出来ない。尤も、行動の自由が無ければ離宮から出る事も叶わないのだから。

    戴冠式の前日に宰相が出国しているところを見ると、弑されたのはそのあたりか…。恐らく、暫くは生きていたのだろう。



「呆気無い最後だったな。」

    会議が終わった後、執務室に居た私達にアルベルトが言った。

「けれど、陛下もクリス様も近衛騎士達も喜んでいますわ。」

    エヴァがニッコリ笑う。

「全くよね。蛇蝎の如く嫌われていらしたから。」

    女王陛下の悩み事が減った事に安堵した。

    実を言うと、隣国のマーカス皇帝が戴冠式に出席すると返事がきた後、王族の居住区画の警備担当者を倍増させる厳戒態勢が取られる事が決定していたのだ。

    勿論、ユークリッド様が立ち入るスペースを重点的にだ。

    あの男は、これまでに何度もユークリッド様に結婚の申し込みをしてきていた。
    が、先王もユークリッド様も断固拒否していた。

    ユークリッド様じゃなくても、悪い噂しかないあの男に嫁ぎたい女など、恐らく居ないだろう。

    そんな訳で、皇帝がこの国に来たらユークリッド様に何をするか分からない。

    それが皆の一致した見解だった。

    だから、土壇場になって出席者が皇帝から宰相に変更されたのは、我が国にとっては僥倖だった。

    
「ところで、誰が後釜に座るんだ?」

    リンツが皆に向けて言った。

    “誰がその後釜に座るのか……?”

    マーカス皇帝を排除する為に動かなかった宰相では、求心力に欠けるだろう。
    だが、他に皇帝の座に就きそうな奴なんて居ただろうか?
    

    そこで、ふと思い出した事があった。

    マーカス皇帝に最後まで抵抗していた騎士団総長ローワン・メックリンガー。

    確か彼の息子が生き延びていたのではなかったか?名前は確か………。

「アーダベルト・メックリンガー……。」

「「「  ?! 」」」

    皆が一斉に私を見た。

「そう言えば、居たな…。」
「確かに…。」

    盲点だったといった感じでアルベルトとエーリッヒが頷く。 

「彼なら、帝位に就いてもおかしくはない。」
「ああ。奴ならマーカスを排除する為に、バルドスに部下を接触させていた。」

     恐らく、公爵家と辺境伯家の影から齎された情報なのだろうと思う。

    そして、彼が皇帝になると予想して、結び直す条約の内容等を次回の会議の議題とする事に決まった。


    その話をした一週間後、アーダベルトは国名をヒューゲルハイン帝国と改め、初代皇帝となった。



~~~~~~~


*ローワン・メックリンガー騎士団団長
→騎士団総長に変更しました。


    
    

    




    
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