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67. 断罪 ④
しおりを挟む抱き締めて頬擦りされている状態に、困っているのが分かったのか、腕を緩めてくれた。
けれど、未だ腕の中。
「すまない……不安なんだ。フッ。カッコ悪いよな。」
「 ………。」
そんな事無いよ。とか何か慰めになるような言葉をかけたかった。
口を開くも、言葉が出てこなくて、結局何も言えなかった。
そして、やっと出たと思ったら、
「…何がそんなに不安なんですか?」
だった。『な、何で…?』
「いや、いいんだ。忘れてくれ。ただ…暫くの間、こうしていたい。」
その言葉を聞いて彼の背中に手を回した。
私も、何か得体の知れない不安を感じていたから…。
でも、すぐに後悔した。
彼の腕の中は、心地良くて凄く落ち着くと分かってしまったから…。
そうなると、次も求めずにはいられないかもしれない。
他人はどうなのか分からないけれど、不安を感じたり、心を落ち着けたくなった時、恐らく私は彼の腕の中に自ら囚われてしまうのだろう。
そう思うと同時に、そんな自分が嫌になる。
けれど、分かってしまった以上、失う事など考えられない。
涙が零れた。
それを彼に見られたくなくて、気付かれないようにそっと拭うと、その腕の中から離れた。
「全て片付いたら、今度こそ(結婚)式を挙げよう。この先もずっと傍に居て欲しい。」
腕の中から離れる私の背にかけられた言葉に頷いた。
けれど、やはり付き纏う不安。本当にこの先も一緒にいる事が出来るの…?
~~~~~
クラウディアは、アルベルトへの想いを隣国アリール帝国の皇帝に利用された。
隣国でお荷物になってきたフリッツを、何とか有効活用出来ないものかと考えていた時に、アルベルトと私の婚約が王命により決まった。
そこで、4年前の事を絡めた計画を立て、駒を集めた。
クラウディアには、劇の話をさも真実であるかのように吹き込んだ。
“愛し合う二人(フリッツと私)を結ばせてやれば、あなたの姉上(ガートルード)が愛していたフォイエルバッハ公爵を、望まない結婚から救い出す事ができますよ。”と。
ガートルードの本当の姿を知らなかった彼女は、あっさり騙され、密入国と逃亡に協力しただけでなく、資金援助までした。
国内の情報を隣国に流していた事もあって、国家反逆罪にも問われた。
それだけでなく、フランの誹謗、中傷を本当の事のように取り巻きの令嬢達に、低位貴族や平民、新聞社などを使って広めた事も罪に問われた。
(低位貴族の令嬢達は即日、貴族籍を抜かれ、各々厳しいと言われている修道院に入れられ、死ぬまで出る事は叶わなかった。)
それらの罪を問われた上、神聖視していた姉の本当の姿を知ったクラウディアは、暫くの間、半狂乱になって喚き続けた。
貴族籍を抜かれ、平民に落とされた彼女は牢屋の中で、ぶつぶつと呪文のように「私は悪くない。私は悪くない。私は悪くない………。」と、刑が確定するまで呟き続けていたという。
刑が確定した後、北の辺境地にある女性が入る中では、最も厳しいと言われている修道院に入れられ、半年後に重い肺炎に罹り亡くなった。
~~~~~
余罪が明らかになるまで、刑の執行が停止されていた元国王と元王太子の二人だが、クラウディアの罪が明らかになり、元国王と元王太子の罪も余罪も含めて全てが明らかになり、二人は貴族牢から一般牢に移された三日後、王宮前広間に於いて斬首刑に処された後、梟首(晒し首)となった。
そして、元王太子妃のテレサは一番最初に断罪された。
とは言っても、彼女の場合、王太子に命じられて、何も知らないまま、情報漏洩、情報操作などを手伝っただけなので、温情付きの断罪だった。
実家に戻された後、領地の邸に生涯幽閉された。
当然、我が子に会う事は叶わなかった。
そして、これらの事は国民にも周知徹底され、フランドール・アルバ伯爵令嬢の、スキャンダラスな噂は、捏造された物であり、事実無根であるという事も周知徹底される事となり、彼女の名誉は回復された。
国王と王太子が処刑された事により、ユークリッド王女が女王として即位する事も周知された。
ここに全ての事件が断罪及び刑が執行され、終結が宣言される。
だが、4年前の戦場での出来事に関しては調査中であるが、解決を約束すると発表されるに留まった。
但し、味方を攻撃したとされる騎士達については、パニック状態での出来事として、不問に付された。
(隣国に居た者達は情報と引き換えに、国の保護下に置かれた。)
~~~~~
「フン!面白くないな。もっと王国内が混乱状態になれば便乗できたものを……。しかも、手駒まで失いおって!」
「ぎゃッ!」
皇帝から、酒の入ったゴブレットを投げつけられた宰相の額から血が流れた。
「我ら臣下が、不甲斐ないばかりにご不快にさせた事、誠に申し訳な……。」
「もう良い、下がれ!!」
「はっ。」
恭しく頭を下げると宰相は退室した。
玉座の肘置きに腰掛けていた、妾妃が皇帝に撓垂れ掛った。
妾妃の頤に手をかけていた皇帝が、その手を首に回した。
ゴキャッ!!
次の瞬間、妾妃の体は崩れ落ち、その首は、有り得ない角度で曲がっていた。
ベルを鳴らし、メイドを呼ぶと片付けるように命じ、新しい酒とゴブレットを持ってこさせる。
暖炉の上に飾られた金髪にスミレ色の瞳の女性の絵姿を見ながら、ゴブレットに入った酒を一気に煽り、ニヤリと嗤った。
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