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65. 昔語り ②
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*残酷な表現等が含まれます。
苦手な方は全力で回避して下さい。読まれる方は自己責任でお願いいたします。
~~~~~~~
アルベルトの話を聞いた私は、何も言葉を発する事が出来なかった。
私が知っているガートルードは、劇で演じられているような、まるで天使か天女のような女性で、噂で聞いたアルベルトの最愛の女性で…。
彼の話に出てくる女性は誰?
彼の最愛の女性じゃなかったの?
蝶々の羽だけじゃなくて、触角や足まで千切っていたって……?
誰?その女性って?
おまけに、彼が女性に対して嫌悪感を抱く原因?
何なのそれ?
頭の中が、ぐちゃぐちゃで……私が知っている彼女と、彼の話に出てくる彼女が同じ女性だと思えなくて……。
『そ、そうよ、こういう時はお茶でも飲んで、心を落ち着けなきゃ…。』
カップを持つ手が震える。
落ち着かないといけないのに、手の震えが治まらない。
半分ほど飲んで、カップをテーブルに置こうとしたけど、手が震えて上手く置けなくて倒してしまった。
真っ白なテーブルクロスに赤みの強い紅茶が染みを作る。
色は違うのに、それが血のように見えて気持ち悪い。
「大丈夫か?そのままで……今すぐ片付けさせるから。」
そう言って彼は、ベルを鳴らした。
侍女達が素晴らしい手際で、あっという間に片付け、新しくお茶を淹れてくれた。
伯爵家の侍女達と比べてはいけないのは分かっているが、公爵家の侍女は能力が高い。
というか、このレベルでないと雇ってもらえないのだろう…。
そして侍女達が部屋を下がっていった。
失敗してしまったけど、いい小休止にはなった。
「お見苦しいところをお見せしてしまい、申し訳ありませんでした。」
「口調、戻ってるよ。……その…続きを話してもいいだろうか?」
新しく淹れてもらった温かいお茶を、一口飲んで頷いた。
~~~~~
ガートルードは、学園に入って暫くしてから妬きもちを妬くようになった。
最初のうちはそれほど酷くなかったが、そのうち、女子生徒が俺の傍にいるだけで、その子に暴言を吐いたり、暴力を振るうように…。
勿論、学園や侯爵家に苦情を言ったが、埒が明かない。仕方なく、女子生徒と関わらないようにした。
そんな彼女の顔色を窺うような毎日に辟易していたら、ある噂を耳にした。
ガートルードが不特定多数の男子生徒達と深い関係になっているという噂で、学園に入って2,3年経った頃の事だった。
彼女との婚約を相手の有責で破棄出来る。
そう思った俺は、証拠集めに奔走した。
とは言っても、たった一人で調べるのは難しくて大変だった。
苦労した割には何も得られなくて、苛立ち、虚しくて仕方なかった。
だが、ある日ガートルードを尾行していたら、いきなり路地に引き摺り込まれた。
見ると、男の二人組で首にナイフを突き付けられ、「彼女を尾行していたが、目的は何だ?」と聞かれた。
自棄になっていたから、「証拠集めの為に尾行していた。」と答えたら、その二人組も同じ目的だと知り、手を組んだ。
その二人は友人同士で、一人は、妹の婚約者の眼を覚めさせる為に、証拠を集めていて、もう一人はそれを手伝っていたらしい。
自己紹介するまでもなく、彼らは俺の事を知っていて、ガートルードの婚約者だという事も知っていた。
そして、俺がガートルードを守る為に動いていると、勘違いしていたらしい。
「勘弁してくれ。そんな風に思われるなど心外だ。」
思わず口をついて出た言葉に、一瞬呆気にとられた二人が、吹き出して大笑いした。
「俺は、エルネスト・ハインツベル。こいつは、ユリアン・ベルクハイムだ。よろしくな。」
「アルベルト・ヨーゼフ・フォイエルバッハだ。よろしく。」
差し出された手を握り返した。
それからは3人で証拠を集めて回った。
だが、ユリアン…彼の妹の婚約者の眼を覚めさせる事も救う事も出来なかった。
彼はユリアン達の言う事を信じないばかりか、益々ガートルードにのめり込んだ。
そして迎えた破滅…。
婚約者の遺体が、王都を流れる河に浮かんだ数日後、ユリアンの妹は修道院に駆け込んだ。
父親が持ってきた次の縁談を、断れずに選んだ道だった。
だが、父親は我が儘は許さないと無理やり修道院から引き摺り出し、嫁がせた。
その初夜に彼女はガラスの破片で喉を突き、亡くなった。
妹の遺体を見たユリアンは……気が触れた。
聞けば、嫁いだ相手は一部では嗜虐趣味で有名だったという。
遺体を棺に入れる前に体を清めた彼女の婆やは、“幼い頃からお世話していたのに、殴られたのか、お嬢様だと分からないぐらい顔が腫れ上るかっていて、それ以上の傷が、拷問でも受けたのかと思うほどあった。”と泣きながら教えてくれた。(というか、無理矢理聞き出した。)
そして、その婆やは言ったのだ。
「このままでは、坊っちゃんもお嬢様も可哀想過ぎて…。何とか怨みを晴らす事は出来ないのか」
と…。
だが、まだ学生だった俺達には何も出来なかった。
けど、俺達が思っていたよりも、事態は深刻だった。
葬儀が終わった次の日、ユリアンの両親が殺され、彼も自害していた。
恐らく、両親を殺したのはユリアンだろう。
その事件以降、エルネストはあまり笑わなくなった。
苦手な方は全力で回避して下さい。読まれる方は自己責任でお願いいたします。
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アルベルトの話を聞いた私は、何も言葉を発する事が出来なかった。
私が知っているガートルードは、劇で演じられているような、まるで天使か天女のような女性で、噂で聞いたアルベルトの最愛の女性で…。
彼の話に出てくる女性は誰?
彼の最愛の女性じゃなかったの?
蝶々の羽だけじゃなくて、触角や足まで千切っていたって……?
誰?その女性って?
おまけに、彼が女性に対して嫌悪感を抱く原因?
何なのそれ?
頭の中が、ぐちゃぐちゃで……私が知っている彼女と、彼の話に出てくる彼女が同じ女性だと思えなくて……。
『そ、そうよ、こういう時はお茶でも飲んで、心を落ち着けなきゃ…。』
カップを持つ手が震える。
落ち着かないといけないのに、手の震えが治まらない。
半分ほど飲んで、カップをテーブルに置こうとしたけど、手が震えて上手く置けなくて倒してしまった。
真っ白なテーブルクロスに赤みの強い紅茶が染みを作る。
色は違うのに、それが血のように見えて気持ち悪い。
「大丈夫か?そのままで……今すぐ片付けさせるから。」
そう言って彼は、ベルを鳴らした。
侍女達が素晴らしい手際で、あっという間に片付け、新しくお茶を淹れてくれた。
伯爵家の侍女達と比べてはいけないのは分かっているが、公爵家の侍女は能力が高い。
というか、このレベルでないと雇ってもらえないのだろう…。
そして侍女達が部屋を下がっていった。
失敗してしまったけど、いい小休止にはなった。
「お見苦しいところをお見せしてしまい、申し訳ありませんでした。」
「口調、戻ってるよ。……その…続きを話してもいいだろうか?」
新しく淹れてもらった温かいお茶を、一口飲んで頷いた。
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ガートルードは、学園に入って暫くしてから妬きもちを妬くようになった。
最初のうちはそれほど酷くなかったが、そのうち、女子生徒が俺の傍にいるだけで、その子に暴言を吐いたり、暴力を振るうように…。
勿論、学園や侯爵家に苦情を言ったが、埒が明かない。仕方なく、女子生徒と関わらないようにした。
そんな彼女の顔色を窺うような毎日に辟易していたら、ある噂を耳にした。
ガートルードが不特定多数の男子生徒達と深い関係になっているという噂で、学園に入って2,3年経った頃の事だった。
彼女との婚約を相手の有責で破棄出来る。
そう思った俺は、証拠集めに奔走した。
とは言っても、たった一人で調べるのは難しくて大変だった。
苦労した割には何も得られなくて、苛立ち、虚しくて仕方なかった。
だが、ある日ガートルードを尾行していたら、いきなり路地に引き摺り込まれた。
見ると、男の二人組で首にナイフを突き付けられ、「彼女を尾行していたが、目的は何だ?」と聞かれた。
自棄になっていたから、「証拠集めの為に尾行していた。」と答えたら、その二人組も同じ目的だと知り、手を組んだ。
その二人は友人同士で、一人は、妹の婚約者の眼を覚めさせる為に、証拠を集めていて、もう一人はそれを手伝っていたらしい。
自己紹介するまでもなく、彼らは俺の事を知っていて、ガートルードの婚約者だという事も知っていた。
そして、俺がガートルードを守る為に動いていると、勘違いしていたらしい。
「勘弁してくれ。そんな風に思われるなど心外だ。」
思わず口をついて出た言葉に、一瞬呆気にとられた二人が、吹き出して大笑いした。
「俺は、エルネスト・ハインツベル。こいつは、ユリアン・ベルクハイムだ。よろしくな。」
「アルベルト・ヨーゼフ・フォイエルバッハだ。よろしく。」
差し出された手を握り返した。
それからは3人で証拠を集めて回った。
だが、ユリアン…彼の妹の婚約者の眼を覚めさせる事も救う事も出来なかった。
彼はユリアン達の言う事を信じないばかりか、益々ガートルードにのめり込んだ。
そして迎えた破滅…。
婚約者の遺体が、王都を流れる河に浮かんだ数日後、ユリアンの妹は修道院に駆け込んだ。
父親が持ってきた次の縁談を、断れずに選んだ道だった。
だが、父親は我が儘は許さないと無理やり修道院から引き摺り出し、嫁がせた。
その初夜に彼女はガラスの破片で喉を突き、亡くなった。
妹の遺体を見たユリアンは……気が触れた。
聞けば、嫁いだ相手は一部では嗜虐趣味で有名だったという。
遺体を棺に入れる前に体を清めた彼女の婆やは、“幼い頃からお世話していたのに、殴られたのか、お嬢様だと分からないぐらい顔が腫れ上るかっていて、それ以上の傷が、拷問でも受けたのかと思うほどあった。”と泣きながら教えてくれた。(というか、無理矢理聞き出した。)
そして、その婆やは言ったのだ。
「このままでは、坊っちゃんもお嬢様も可哀想過ぎて…。何とか怨みを晴らす事は出来ないのか」
と…。
だが、まだ学生だった俺達には何も出来なかった。
けど、俺達が思っていたよりも、事態は深刻だった。
葬儀が終わった次の日、ユリアンの両親が殺され、彼も自害していた。
恐らく、両親を殺したのはユリアンだろう。
その事件以降、エルネストはあまり笑わなくなった。
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