悲劇にしないでよね!

雫喰 B

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64. 昔語り ①

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    あの後、食事が終わってから伯爵家の邸まで送ってもらった。

    その時彼は父と応接室で長い時間話をしていた。何の話をしていたのかは分からないけど、彼が帰る時に見た父はかなり疲れていたみたいだった。

    彼は帰り際に、大事な話があるから近いうちに公爵邸に招待すると言っていた。

    大事な話って、何だろう?

    気になって、公爵邸に行くまで不安な日を過ごす事になった。



~~~~~


    そして、公爵邸を訪問した私は庭にあるガゼボに案内された。
     
    遠目に眼にしたアルベルトは、顔色が悪いように見えた。
    私に気づき、立ち上がって待っている。 

「本日はお招きありがとうございます。」

    緊張していたけれど、笑顔で言った。
    (引き攣ってなければいいけど…。)

「来てくれて嬉しいよ。さぁ、座って。」

    勧められるまま座った。

    カチャカチャと、侍女達がお茶の用意をする。
    そして、それが終わると下がっていった。

    暫く沈黙が続く。

    意を決したように彼が言った。

「今度こそ、本当に結婚してくれる?愛しているんだフランの事…本気なんだ。」

    少し考えてから、小さく頷いた。

    彼がホッと胸を撫で下ろしているのが分かった。

「ありがとう。それと……今からする話を聞いて欲しい。」

    私はただ頷くだけだった。
    彼が大事な話だと言ったから……。
    だから、どんな話でも聞こうと決めていた。 


~~~~~


    俺とガートルードは幼馴染みだった。母親同士が学園に通っていた頃からの友人で、 結婚後も交流が続いていた。  

    彼女は幼い頃から美しかった。それこそ、大輪の花が咲き誇るような、そんな美しさだった。

    彼女がいるだけで場が華やいだ。
    よく薔薇に例えられていた。けどそれは彼女自身を表すに相応しい例えでもあった。

    華やかで美しい。でもその美しい花の陰には、鋭い刺がある。本当に相応しい花だったよ。

    彼女の本性も何も知らない時に婚約が結ばれた。
    だから、最初のうちは嬉しくて浮かれていた。けど、他の人が居ない所では凄く冷たくて残酷な子だった。

    侯爵邸に母と一緒に行った時の事だった。ガートルード(ガーティー)が庭にいると言われて、何処だろう?と思いながら探していた。

    彼女は花壇の前で座り込んで何かしているようだった。
    近くまで行くと、うふふ。と笑ったり楽しそうに見えた。
    そして、彼女の方から花弁みたいな物が風に乗って飛んでいく。

    “花占い”をしているなんて可愛い。と思った俺は

「やぁ!ガーティー…。」

    そう言って声をかけた。
    が、次の瞬間、恐怖で固まった。

    彼女が千切っていたのは花びらじゃなくて、蝶々の羽だった…。

「あら、アル久しぶり。もうすぐ終わるからちょっと待っててね。うふふ。」

    そう言って、俺の目の前で蝶々の羽を毟っていく。
    その場で俺は吐いた…。

    夏だと言うのに、寒気がしてガタガタ震えた。
    目の前が暗くなる前に、彼女の赤い口が弧を描いたのを見たような気がした。

    その後、熱を出して数日寝込んだ。
    
    それ以降、彼女と遊ぶ事はほとんど無くなった。

    けど、母親同士の交流は続いていたから、その時は連れて行かれたが、その度に彼女の楽しみを見せられ、吐いて熱を出すようになり、母もおかしいと思ったのか、俺を連れて行く事は無くなった。

    俺の当主教育が始まったからかもしれない。でも、俺は嬉しかったのだ。

    彼女が殺鼠剤入りの餌を、小動物に与えて死ぬまで苦しむ様を眺めて笑うのを見なくて済むようになったから…。

    誰にも言えなかったが、次は俺の番かもしれないと、子供心に恐ろしいと思っていたのだ。


    そのまま、ガートルードの事など忘れて、同性の友人達と遊ぶようになったが、彼らの口からガートルードを褒める言葉を聞く度に、本当の事を言ってしまいそうになったが、恐くて言えなかった。

    それくらい、彼女の事を恐れていたのだ。


    
    だから、知らなかった。
    自分が彼女の婚約者だという事を…。

    その事を知ったのは偶々だった。

    学園に入った後、友人達や従兄弟と話をしていた。

    思春期の男が仲間内で話す内容など、異性の事や初体験がどうのといった話が出てくる。当然、誰と誰が交際しているとか、婚約したとかしないとかいった話も…。

    ある日、友人の一人がガートルードに婚約を申し込むと言った時、従兄弟が言ったのだ。

「ガートルードは駄目だ。幼い頃にアルと婚約しているから。」

    それを聞いて一番驚いたのは俺だった。知らなかったからだ。
    その日早退して、母に聞くと本当だった事が分かった。

    恥ずかしい話、俺は泣き喚いて拒否した。
「嫌だ!」と言って泣き叫ぶ俺は、両親から叱責された。「我が儘を言うな!」と…。

    毎年、何かにつけ、花やアクセサリーや小物などメッセージカード付きで贈らされてはいたが、そこに“婚約者だから”という意味があったとは知らなかった。

    しかも、学園を卒業したら結婚だと聞いて目の前にが真っ暗になる。

    正直、彼女に好意を抱くなど絶対に無理だ。

    悩みに悩んだ俺が取った行動は消極的だったが、それ以外何も思い付かなかった。

    “ガートルードから婚約破棄してもらう”しかないと本気で考えていた。

    そんなに簡単に、婚約破棄など出来ないとは思ってもいなかった。

    貴族の婚約とは家同士の契約であり、これを解消したり、破棄したりすれば忽ち信用を失う事になる。

     それだけでも、個人の感情や都合で解消や破棄するのが難しいのに、俺の場合、もっと厄介だった。

    そう、ガートルードだ。

    俺は何故か彼女に気に入られてしまっていた。いや、そんな生易しい物ではなく、最早、執着と言っていいほどだった。

    俺が女性に対して、嫌悪感を覚える事になったのは、彼女の俺に対する執着と、彼女の取った行動が原因なのだ。

    


    
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