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63. お泊まり
しおりを挟む結局、大夜会は断罪が行われた事に加え、国王、王妃、王太子、王太子妃が不在な事もあり、いつもなら夜通し行われていたが、今回は割りと早い時間にお開きとなった。
帰りは、アルベルトが是非にと言って、両親の許可まで取った為、公爵家の馬車に乗り、そのまま公爵邸に泊まる事になってしまった。
けれど、二人とも何となく気不味い所為か、沈黙が続く。
が、向かい側に座っていたアルベルトが、私の隣に座る。
何も言わず、肩を抱き寄せるから驚いて顔を見上げたら、「頼むから…このままで…。」と小さな声で言った。
彼の吐息が頭の上に感じられる。顔に熱が集まるようで、頬が熱い。
確かに、婚約を解消してから彼と私の距離は近づいた、私も彼の事を好きなのだと思う。
無意識に彼の胸に頬を埋めた。
彼が私の頭に頬を乗せて、肩を抱く手に力が入る。
けれど、私はその腕の中から逃げようとは思わなかった。
彼にこのままで…。と言われたからではなく、彼の腕の中は居心地が良くて、心がホッとしてこのまま包まれていたいと思ってしまったから…。
そして、公爵邸に着くまで、二人ともそうしていた。
馬車に乗っていた時間が短く感じられるほど、あっという間に邸に着いてしまう。
お互いの体が離れ、彼に与えられた熱が冷えていくのが何だか寂しいような気がした。
馬車を降りる時に手を差し出され、その手に自分の手を重ねると同時に、腰に手を回され、引き寄せられた。
何だかふわふわした感じで、現実感が無い。これが夢の中の出来事だと言われても納得してしまうと思う。
が、履き慣れないピンヒールの所為で躓いて転けそうになった事で、皮肉にも現実感が戻って来た。
出迎えに出ていた使用人達は、何も見なかったように振る舞っていたが……。
『何か、物凄く恥ずかしいんですけど!』
アルベルトに支えられ、転けずにすんだものの……。
「そんなに笑わなくても…!」
涙が出そう……。恥ずかしさで死ねる。
「じゃあ、こうすればいい。」
いきなり、ふわりと横抱き…所謂、お姫様抱っこをされ、真っ赤になった私は、言葉が出なくて、言語中枢がパニックを起こしたように、ただ口をぱくぱくするだけだった。
そんな私を余所に、彼は余裕の表情で微笑む。
何か分からないけど、そんな格好良いところを見せるなんて…ズルいと思ってしまう。
私を抱き抱えたまま、颯爽と歩き出す。恥ずかしくて、使用人達に顔を見られないように、彼の胸に顔を埋めた。
ハハハ。と笑い声を上げるアルベルト。
『もう、知らない!』
~~~~~
その日は、湯浴みをした後、疲れから泥のように眠った。
それこそ、夢なんて見ないまま眼が覚めるまで…。
お陰で目覚めた時には、アルベルトはとっくに登城した後だった。
こう言うのを、恥の上塗りと言うのだろう。
他人様の邸で昼過ぎまで眠りこけるって…。
穴があったら入りたい。いや…いっそ穴を掘って…。
などと、愚にも付かない事を考えてしまう。
そして、ふと思う。
このままアルベルトと本当に結婚していいのか?と。
彼は本気なのだろうか?
と、公爵家の侍女が
「旦那様より、こちらを預かっています。」
そう言って、手紙を差し出された。
「ありがとう。」
手紙を受け取って言った。
「お食事は如何なさいますか?旦那様からは、奥様としての待遇を…。と承っておりますので、お部屋でお召し上がりになる事も出来ますが…。」
それを聞いて、一瞬だけ思考停止してしまった。
『奥様としてって何?奥様としてって…。』
気が早くないですか?
そこで婚約が承認された事を思い出した。
『ぬ~ん……悩む……( ̄~ ̄;)』
「へ、部屋でお願いしていいかし…ら…?」
遠慮がちにそう言うと、笑顔で
「畏まりました。」
と言うと、一旦、部屋から下がって行った。
封を開け、彼からの手紙を読んだ。
そこには、
“昨夜は良く眠れたか?”とか、“速攻で仕事を片付けてくるから、帰宅するまで公爵邸に居て欲しい”と書かれていた。
読み終えた手紙を、サイドボードの上に置いた。
どうやらアルベルトは、本気で私と結婚するつもりみたいだ。
あの状況を乗り切る為に、再婚約したとばかり思っていた。
その上で、お飾りの妻を演じればいいのだと…。
しかし、本気のようである。
コンコン!
扉がノックされたので、「どうぞ。」と答えた。
扉が開いた後、食事が乗ったワゴンを押して部屋に入って来たのはアルベルトだった。
「え…?…ええぇぇぇーッ?!」
『な、何で何で何でーッ?!』
「今から食事だって?」
驚き過ぎた私は、ただ首を縦に振るだけだった。
『 ハッ、忘れてた。』
「閣下、昨夜は申し訳ありませんでした。ご迷惑をかけた上、食事まで…。ありがとうございます。」
そう言ったら、
「婚約しているし、結婚もするんだから、そんな事を気にしなくていいのに。」
と、笑顔で返してくる。
誰?コレ?
そんな疑問なんて、そんな驚きなんて……序の口だった。
何故かと言うと……
その後、アルベルトの膝の上に座らされ、甲斐甲斐しく食事を口に運んでもらい、食べさせてもらう事になった。
………一体何の罰ゲームでしょうか?……
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